第45話 裏切り
戴冠式で晴れて真の国王となったスコット7世。
彼はスザンヌが察した通り、戦いなど欲していなかった。
外交によって国の復活を目指そうとしていたのだ。
最初に手がけようとしたのはシニョーラ公国との和平だ。
シニョーラ公国の領主・阿闍梨公はグランド国と同盟を結んでいた。
セーヌ国とは敵対関係にある。
しかしセーヌ国に攻め込んでくるわけではなかった。
より優勢な方と組もうと様子見しているのである。
スコット国王は今がチャンスと見た。
スザンヌが来てからはセーヌ国がグランド国に連戦連勝している。
この機に、自分をアピールしようと画策したのだ。
スコット国王は何度も阿闍梨公に使者を送った。
阿闍梨公からも色よい返事が返ってきた。
そこでスコット国王は阿闍梨公にセーヌ国の使節を派遣した。
休戦の提案だった。
すると阿闍梨公も使節に同意を伝え、さらには将来の和平へ話し合うことにも合意したのだ。
スコット国王は交渉の成功に大いに喜んだ。
ところがこの直後、阿闍梨公側の事情が変わった。
グランド国の軍使がやってきたのだ。
グランド国と同盟を結んでいるにもかかわらず、何も協力しない阿闍梨公への警告だった。
〈ラシンのグランド国陣営に援軍を送れ。さもないと今後は敵国と見なす〉
グランド国はセーヌ国軍が早々に首都ラシンを取り戻そうと攻撃に出ると予想していた。
バトラーやスザンヌの勢いは彼らにとって脅威だった。
対抗しようと、少しでも軍備を、味方を増やそうとしていたのだ。
慌てたのは阿闍梨公である。
グランド国と敵対関係になってはたまらない。
阿闍梨公はラシンへの援軍準備を始めた。
一方、和平交渉が順調に進んでいると思いこんでいるスコット国王。
しばらく機嫌よく、宮廷の取り巻きにこの手柄話を何度も聞かせていた。
ところがそんなところに飛び込んできたのが、
「シニョーラ公国がグランド国へ援軍を出しました!」
との知らせだった。
「どこへ向かっているのだ?」
報告した軍使に、スコット国王が声を荒げる。
「首都ラシンです」
スコット国王の顔が怒りでゆがむ。
「おのれ! 阿闍梨公め!! 裏切りやがって!!!」
すぐさまスコット国王からセーヌ国に出撃命令が下った。
「首都・ラシンの奪回作戦を開始せよ!」
いよいよ、ラシン。
スザンヌは思い出す。
私が敵軍に捕まった場所だ。
このままいけば、また捕まる可能性は低くない。
捕まってしまえば、グランド国の手で魔女裁判にかけられてしまうだろう。
そして運命の処刑……。
それでも、いくしかない。
共に戦う仲間たちのために!
そしてラシンと言えば、最も市民の抵抗が激しい街だった。
ラシン市民は他のセーヌ国民とは一線を画している。
文化も服装も料理も洗練されている。
そして個人の自由を何よりも重んじている。
世界一プライドの高い市民たちだ。
かつてラシンは、セーヌ国のスコット王朝が統治していた。
市民たちには自由に制限がかけられていた。
しかしグランド国が占領すると状況は一変した。
グランド国はラシン市民の自由を認めたのだ。
さらには市民の権利も手厚くした。
するとラシン市民はグランド国の支配を歓迎した。
そしてスコット国王のことは小馬鹿にした。
戴冠式が行われても、誰もセーヌ国の国王だとは認めていなかった。
スコット国王のことを、
〈マルカの王〉
と一領主扱いしていた。
これまでセーヌ国が奪回してきた都市、街には、多かれ少なかれ、セーヌ国への愛国心があった。
多くの住民がセーヌ国へのレスペクトを多かれ少なかれ持っていたのである。
しかしラシンは逆だ。
セーヌ国を軽蔑し、敵視している。
相手はグランド国、シニョーラ公国だけではない。
ラシン市民の敵意がラシン攻略を非常に難しくしているのだ。
これまでのようには、絶対にいかない。
今夜も投稿しますね♡




