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第40話 決断!

 戴冠式の前日、スザンヌはスコット王太子に呼び出された。


「スザンヌ。ここまでよくやってくれた」


「ありがとうございます」


褒美(ほうび)をあげるから、何がいいか考えてくれ」


 スザンヌはすぐにこう答えた。


「いいえ、王太子さま。私は自分の使命のために働いただけです。褒美が欲しかったわけではありません」


「それでは、わたしが困るのだ」


「いいえ、何もいりません」


「いいや、どうしても何か考えてくれ」


 スザンヌは少し考えた。

 そういえばフルーレ村の人たちが、不作の年はいつも税金に苦しんでいたんじゃないかしら……。


「では王太子さま、私の故郷の村の税金を免除してはもらえないでしょうか?」


 スコット王太子は少し考えて、


「わかった。それをスザンヌへの褒美としよう」


「ありがとうございます」


 スザンヌは笑顔でお礼を言う。


 戴冠の儀式は晴天だった。

 舞台はクレバ大聖堂。

 両側の塔は天にそびえたつように高く伸びている。

 巨大な建築物が青い空に映える。

 西正門入口では美しい「微笑みの天使」の彫像が出迎えてくれる。


 ここはエール国王が初代から戴冠式を続けてきた聖地。

 大聖堂の前には「国王のテラス」がある。

 歴代の国王の彫像がずらりと並んでいる。


〈ここに、スコット王太子の像も並ぶのね〉


 そう思うとスザンヌの感動もますます高まる。


 大聖堂の中の広大な大広間。

 ここで戴冠式が行われる。

 美しく巨大なステンドグラス。

 そこから美しく神々しい光の束が中に降り注いでいる。

 

 スザンヌの隣には、かつて宮廷を追放されたアランシモンがいる。

 強面の彼も今日ばかりは柔らかな表情を浮かべている。


 この日の朝、たち名だたる4人の騎士は馬で大通りを駆けていた。

 行き先は大修道院。

 儀式に使われる伝統の「聖なる油」を受け取るためだ。

 

 大司教がこの油をセーヌ王の頭に塗る。

 これによりセーヌ王に「神の恩寵(おんちょう)」が与えられる。

 「聖別(せいべつ)」と呼ばれるこの儀式。

 それを経て王は神聖な権威を持つ者として認められる。


 聖油の容器を受け取った騎士たちは誇らしげにクレバ大聖堂に向かう。

 聖職者や修道僧たちが総出で並び彼らを見送る。


 騎士たちが「聖油」を届けると、セレモニーが始まった。

 スコット王太子がフランス国王就任の宣誓を行う。

 家臣たちも国王への忠誠を誓う。

 合唱隊が美しい聖歌を教会に響かせる。

 スコット王太子は、クレバ大司教の前に進む。

 すぐさま、ひざまずく。

 大司教は聖油の容器を持っている。

 いよいよ「聖別」の儀式だ。

 

 そのすぐ後ろには白く輝く軍旗を掲げたスザンヌがいる。

 そして、バトラー、レオ、アランシモンも。


 大司教は微笑みを浮かべ、スコットの頭に聖油を注ぐ。

 続いて大司教はスコットの頭に両手をかざす。

 神の恩寵と支配が宿ったしるしを与える仕草である。

 そして輝かしい王冠が、大司教の手で、スコット皇太子の頭に載せられた。

 エール国王・スコット7世の誕生である。


 ここで高位聖職者6名と有力貴族6名が登場。

 新エール国王・スコット7世を玉座へと導いた。

 王の椅子に腰かけたスコット7世。

 真っ先に駆け寄ったのは軍旗を手にしたスザンヌだった。

 スコットの前にひざまずき、膝頭にキスをする。

 そのまま右手を膝を抱きしめ、涙をこぼした。

 

 バトラー、レオ、アランシモン……。

 エール国の誰もが涙していた。

 誰ともなく、「万歳(ノエル)」の歓声が上がった。

 ラッパの音が高らかに渡る。吹き鳴らされる。

 万雷の拍手が、いつまでも鳴り響いた。

 スザンヌにとって人生最高の時だった――。


 人生最高の時?

 ってことは、この先は……。


 そうだった――。


 スコット7世戴冠式が私の前世のピークだった。

 その後は、じわじわと勢いも楽しさも失われていった。

 そして最後は魔女に仕立てあげられて、思い出したくもない。

 あの火あぶり。


 そう、前世ではここで、何よりも大きな変化があった!

 戴冠式を境に、神様からの声がきこえなくなってしまったのだ。

 クレバで国王を即位させる――。

 そのお告げを達成したことで、もう私からは離れてしまったのかしら。

 もう、あの美しい天使たちには会えないのかしら。


 スザンヌは故郷のフルーレ村に帰ることにした。


明日も夜になる前にいちど投稿しますね❤️

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