第38話 敵国占領下の4都市、その城門を開け!
その夜、スザンヌの部屋をノックする者がいる。
ドアを開けると、そこに立っていたのは懐かしい顔だった。
兄のアンリとブランだった。
「スザンヌを助けるため、セーヌ軍に入隊したんだ」
スザンヌは驚いて言う。
「でも、危険な仕事よ」
アンリが言う。
「父さんも母さんも賛成してくれたよ。スザンヌを近くで支えてくれって」
ブランも言う。
「可愛い妹が先頭に立っているのに、俺たちが怖いなんて言ってられないよ」
スザンヌの目から涙があふれる。
「ありがとう。心強いわ。頼りにしてる。アンリ兄さん、ブラン兄さん」
3人は固く抱き合った。
クレバへの行軍はセーヌ国軍1万5千人を集めて行われた。
兄のアンリ、ブランも参加している。
バトラーもスザンヌも、これだけの大軍勢を率いたことはない。
しかもクレバまでの道のりは長い。
最初に着いたのはシニョーラ公国占領下の街・アンカレだ。
その城門に近づいたところで、セーヌ国の兵士が血気さかんに戦闘態勢をとる、
城門にはアンカレ市の守備兵が5~6名いる。
槍を持って向かって来るセーヌ兵に気づいた。
「敵が来たぞ!」
守備兵たちも、刀を抜き、盾を手に、応戦の態勢をとる。
セーヌ国先頭の兵士が勢いよく槍でアンカレの守備兵に突っかかる。
大きな金属音が響き渡る。
それを合図に数名がやりあい始めた。
「おやめなさい!」
鋭い声が響き渡った。
スザンヌだった。
兵士たちの動きが止まる。
スザンヌが諭す。
「あなたたち、戦う理由はあるのですか?」
セーヌ国兵とアンカレ兵が顔を見合わせる。
「ないのであれば、まず槍と刀を収めなさい」
兵士たちはお互いに離れて、距離を取った。
すっかり場は落ち着いた。
スザンヌがその場の全員に向かって言った。
「まずは話し合いから始めましょう」
武力制圧は一つの手だ。
しかしシニョーラ公国軍と戦うことになったら無傷ではいられない。
無駄な戦いは避けたい、とスザンヌは思う。
アンカレ市民も同じことを思っているはずだ。
スザンヌはアンカレ市の代表者に軍使を送った。
降伏して城門を開けてほしいという手紙だ。
返事はその日のうちには返ってこなかった。
エール国軍はその場で野営することになった。
一晩の野営でスザンヌは気づいた。
1万5千人の軍勢が使う水、食料、物資は大量である。
ストックの減り方が大きい。
これらの補給を行っていかなくてはならない。
これは手ごわい、もう一つの敵であった。
アンカレ市民からの答えはなかなか出てこなかった。
さらにまる1日待たされて、ようやく交渉が始まった。
アンカレ市民代表の提案は「条件付きの降伏」だった。
セーヌ国軍とは戦わず、この地は素通りしてもらう。
街の城門はまだ開けない。
アンカレ市は今後、これからセーヌ軍が訪れるクレバ市、クワトル市と同じ立ち位置をとる。
というものだった。
いわば「様子見」である。
スザンヌとバトラーはその受け入れを条件に、アンカレ市にひとつの条件を合意させた。
大軍勢を維持するための「水、食料、物資」の補給である。
アンカレ市の代表者は、これに合意した。
戦って犠牲を出すよりはまし、という判断なのだろう。
この莫大な補給物資の確保は、ひとまず目途がついた。
続いて通過した街は、まったく抵抗しなかった。
ほとんどが親セーヌ国派の住民で、シニョーラ公国の影響もなし。
セーヌ国軍を受け入れ、スコット王太子の王位継承を歓迎した。
しかし因縁のクワトル市はまるで様子が違った。
親グランド派の影響力は非常に大きかった。
さすがはスコット家の王位継承権を剥奪する条約が結ばれた街である。
町の住民は親グランド国派と親セーヌ国派で真っ二つ。
クワトル市の城門の守りも強固で、うかつに近づけない。
守備隊はシニョーラ公国軍で編成され、セーヌ国軍を迎え撃とうとしている。
バトラーとスザンヌは十分に警戒しながら事を進める。
スザンヌたち大勢の兵士でクワトル市を包囲した。
そのうえで軍使を通じて降伏勧告を出す。
しかしクワトル市はこれを拒否する。
交渉を行うが進展もない。
膠着状態を打開すべく、セーヌ国軍の軍議が持たれた。
ここで大きな声を上げたのが宮廷貴族のシャビネスだった。
スコット王太子を見ながら訴える。
「マルカに引き返しましょう、王太子さま。我々の食料も尽きてしまいます」
しかしこれをスザンヌが一喝した。
「窮地にあるのはクワトル市も同じ。ここで包囲を止めては台無しです!」
軍議が終わった夕刻、スザンヌは作戦を開始した。
明日は朝かお昼に投稿します❤️
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