第35話 秒で決まる勝負!
敵軍のストリーニ将校とタルボット司令官は、占領中の首都ラシンに向かっている。
これを追うためスザンヌはバトラー、アランシモン、ルナールと追撃隊を組んだ。
その数は約1,500人。
グランド国の6千人に比べると明らかに少ない。
しかし今回は人数が必要なわけではない。
これまでとは違う戦いができる強者たちが必要だった。
少数精鋭に絞り込み、グランド国との戦い方もスザンヌが叩き込んだ。
白馬に乗ったスザンヌと黒馬に乗ったアランシモンが並んで進む。
スザンヌが言う。
「大事な時に駆け付けてくれた、あなたの友情に感謝します」
アランシモンも強面を崩して笑顔を浮かべながら答える。
「俺の方こそ、宮廷から参戦禁止が出ているのに受け入れてくれてありがとう。乙女の広い心に礼を言うよ」
そこに、アランシモンが送り込んでいた偵察騎兵が帰ってきた。
「エゾンの街近くの森林地帯にグランド軍が待ち伏せしています」
「なんだと⁉」
と驚くアランシモン。
「奴ら、一発逆転のチャンスを狙っていたのか……」
百戦錬磨のアランシモンは、先を進むグランド国軍の偵察を部下に命じていた。
選ばれたのは早馬自慢のモルドン兵だ。
彼が目撃した一部始終を話す。
「一頭の鹿が草原を駆け抜けてエゾンの森に入っていきました」
すると森の中から男たちの無邪気な歓声が上がった。
グランド国兵が森の中に隠れていたのである。
「鹿で喜んでいたくらいだから、まだ緊張感は感じられません。これから戦闘配置を開始する感じでした」
このエゾンの街には森林地帯と草原地帯がある。
2つの境には長い生垣が作られ、ずっと続いている。
その生垣に沿ってグランド国軍は潜伏していた。
アランシモンが言う。
「グランド国は、きっといつもの布陣を取ってくるな」
アランシモンはそれをスザンヌに説明する。
「真ん中に歩兵団。その両横に2つの長弓隊。その後ろに本隊が位置している」
アランシモンが、こう続ける。
「長弓隊は両側から石矢の雨を降らせてくるだろう」
スザンヌが言う。
「それにいつも、騎馬隊が惨敗しているわけですよね。戦略の達人・アランシモンさんなら、どうします?」
「そうだな。正攻法でいくと必ず負ける。勝つ方法は2つしかない」
アランシモンは腕組みしながら、こう続ける。
「ひとつは、じっくり誘いこみ相手の陣形が崩れるまで待つこと」
スザンヌが聞く。
「もうひとつは?」
「突撃。ただしスピード勝負で圧倒。スザンヌはどちらがお好みかな?」
「強行突破あるのみよ」
「そう言うと思った」
2人は顔を見合わせて笑う。
アランシモンが言う。
「敵が狙っているのは姿を隠しながらの待ち伏せ奇襲だ。我々を慌てさせて敗走させ、谷底に追い込んで全滅させようとたくらんでいる」
「そこにハマったら一巻の終わりというわけね」
スザンヌがうなずく。
スザンヌが編成した追撃部隊千五百人は全員が騎士だった。
そのうち最も重要な使命を担うのが先頭の突撃隊だ。
選ばれたのは、なかでも超精鋭が揃う2つの騎馬隊だった。
一つはモルドン兵で構成されたアランシモンの騎馬隊。
右側の敵軍長弓隊に突撃する。
もうひとるは「憤怒の騎士」と呼ばれるルナールが率いる騎馬隊。
こちらは左側の長弓隊へ攻撃を行う。
決戦の地・エゾンが迫る。
スザンヌは作戦開始を指示した。
セーヌ軍の騎馬隊は一気にスピードを上げた。
エゾンの森林が目の前に見えてきた。
アランシモンが突撃隊に対して叫ぶ。
「いいかおまえら、隊列は揃えなくていい。とにかく速く突撃しろ!」
2つの騎馬隊が大声で返事する。
さらにアランシモンが怒鳴る。
「名乗りだけは絶対にやるなよ!」
突撃隊はみな右手を挙げて合図しつつ、突っ込んでいく。
グランド国軍が誇る最強の長弓隊。
しかしセーヌ国軍の騎士の姿が見えたときには、もう遅かった。
そこから彼らが隠れる生垣に到着するまでわずか数秒。
その間に石矢を射ることができた兵はほとんどいない。
散発でようやく2~3本が飛んだが、ほとんどヒットせず。
一番乗りで生垣に飛び込んだのは騎士ルナール。
アランシモンの指揮下では水を得た魚のように躍動する男だ。
槍で長弓兵を次々と倒していく。
敵・グランド国の長弓兵は弓のスペシャリストだ。
しかし白兵戦の戦闘力はほぼ無いに等しい。
ルナールは無双状態で暴れ回る。
さらには邪魔な生垣さえも破壊し始めた。
他の騎士もルナールに続く。
生垣が壊れると、セーヌの騎馬兵が次々と森の中に飛び込む。
そして長弓兵を続々と倒していく。
一方、勇敢さで知られるモルドン兵も負けてはいない。
生垣を乗り越えて長弓兵たちを次々と蹴散らしていく。
もう目の前の長弓隊は何の役にも立たない。
命が残っている長弓兵たちは、みな持ち場を放棄して逃げ出した。
グランド国軍は総崩れになった。
今夜もお会いしましょうね❤




