第34話 全戦全敗の野外戦
スザンヌは笑顔でアランシモンの大軍勢を迎えた。
「あなたたちが攻撃の第一線に立って敵に圧力をかけてください」
「よし、任せろ!」
とうなずくアランシモン。
仲間たちに号令をかける。
「俺達が一番乗りで突撃するぞ!」
モルドン兵たちが、軍旗を立ててジャスギャン城を一気に取り囲む。
グランド国兵士たちは明らかにひるんだ。
アランシモン率いるモルドン兵たちの強さ。
それはグランド国兵たちにもよく知れ渡っていたのだ。
これを見たバトラーはさっそく動いた。
ジャスギャン城のチャールトン司令官に軍使を送った。
交渉の提案だった。
その夜、グランド国軍のチャールトン司令官と、バトラー、スザンヌの会談が行われた。
バトラーが提案する。
「もう勝負はついた。これ以上、無駄な犠牲は出したくない」
チャールトンが屈辱を噛みしめながら黙っている。
バトラーが続ける。
「終わりにするなら、あなたたちの安全な撤退を約束しましょう」
チャールトンはまだ、了承できずにいる。
「合意いただけないなら、この後、城内への突撃を指示します」
セーヌ国軍の暴力と略奪はグランド国の脅威となっていた。
しかもアランシモンが率いるモルドン兵までが城を取り囲んでいる。
頼みのストリーニ総司令官からも一向に援軍連絡はない。
チャールトンは戦意を失い、降伏を決めた。
こうしてバトラーとスザンヌはバーレル川の重要な橋をすべて抑えた。
しかしまだ危険な存在が残っていた。
ストリーニ将校とタルボット司令官の連合軍である。
セーヌ国の偵察兵によれば、彼らは占領下に収めている首都ラシンに向かっているようだ。
となると、撤退を決めたかに見えるのだが……。
スザンヌは迷っていた。
グランド国軍を追い打ちするか、いまはこのまま静観するか。
問題は、ストリーニ将校の軍勢と戦って勝てるのかどうかだ。
セーヌ国軍8千人、グランド国軍6千人。
数の上では優勢だ。
しかしこれまでの戦績は、こと野外戦ではグランド国軍が圧倒的に優位だ。
このところエール国は一度も勝てていない。。
今のまま、まともに戦うのは危険かもしれない、とスザンヌは思う。
なぜグランド国は野外戦で強いのか。
その強味をスザンヌは体を持って体感している。
二度、負傷させられた弓矢の威力である。
イヤと言うほど痛みと脅威を体感させられた。
矢は他国が使っているものと大差ない。
大きな違いは発射台となる「弓」の部分にある。
それはロングボウ(長弓)と呼ばれる縦型の長い弓だ。
矢の連射が可能で、長い射程距離を誇る。
その分、弓兵には高い技術が求められる。
グランド国はこれまで組織的に弓兵を育成してきた。
だから現在、各部隊は長弓隊(ロングボウ隊)をいくつも備えている。
最初にスザンヌが射られたのはスッドオージュ砦攻略戦だ。
長弓兵が騎士に発射した石矢が流れ弾となってスザンヌに命中した。
矢は足に刺さり激しい痛みが走った。
スザンヌはいったん戦地を去って治療せざるをえなかった。
2回目はロンドダート砦だ。
突撃していくところを、グランド国の長弓隊に狙い撃ちされた。
石矢は次から次へと襲ってきた。
その1本が、肩から首のあたりに命中した。
血が吹き出し、胸へと流れ落ちる。
その光景は周囲に衝撃を与え、スザンヌ死亡の情報も流れた。
いずれも当たり所が悪ければ命を失っていた。
長弓隊の存在がグランド国とセーヌ国の戦闘力の差になっている。
スザンヌはアランシモンに相談を持ちかけた。
「どうすればグランド国の長弓隊に対抗できるのかしら?」
アランシモンはこともなげに言った。
「そりゃあ、セーヌ国騎士の名乗り挙げをやめりゃいいんだよ」
騎士たちには戦いのルールがあった。
相手に突撃する前に、自分の名を名乗ることだ。
それが騎士たちの誇りだった。
しかしアランシモンは指摘する。
相手に対峙して、名乗る瞬間、騎士たちは静止する。
それがロングボウにとって最も狙いやすい。
最大の射撃チャンスだ。
グランド国の長弓隊が狙い撃ちする。
セーヌ国兵はみな、相手に突撃する前に倒されてしまう。
セーヌ国の主力は騎士団だ。
彼らの個々は間違いなく強い。
しかし同じような突撃を行えば、間違いなく長弓隊の餌食になるだろう。
〈でも名乗り挙げは騎士たちの誇り。止めてもらえるものかしら?〉
スザンヌはバトラー、ルナールと話し合った。
〈グランド軍を追撃すべきか?〉
〈そのために名乗り挙げを止めてもらえるのか?〉
彼らは迷うことなく一瞬で、
「勝利のチャンスは今しかない。名乗りも止めよう」
と答えた。
スザンヌは、
〈本当に考えてる? 相談する相手を間違えたかしら〉
と思いつつも、グランド国軍の追撃を決意した。
今日は、また午後に投稿しますね♡




