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第30話 宮廷出入り禁止騎士・アランシモン参上!

 そんなある時、スザンヌのもとに、眼光の鋭い男がやってきた。


「私はアランシモン。軍人だ」


 坊主頭に角張った顔、無骨な表情が、この男を頑固そうに見せている。


「ご用件は?」


 スザンヌが聞くと、


「司令官のバトラーは私の甥でね、だから軍に加勢したいのだが、私はスコット国王に軍の参加を禁止されている」


「それは、なぜですか?」


「まあ、いろいろあってな。第一に私は癇癪(かんしゃく)持ちで頑固だから、宮廷から追い出された」


 スザンヌは思わず吹き出した。


「面白い方ですね」


 アランシモンは構わず続ける。


「二つ目は、スコット国王の取り巻きが私を社会的に抹殺しようとしていることだ」


 スザンヌが聞く、


「それは誰ですか?」


「シャビネスと言う貴族だよ。なにかと私と対立してきた因縁の相手だ」


「わかりました。でもなぜ、直接バトラーに参加を打診しないのですか?」


「あいつに頼んで軍に入れてもらって、それがバレたらあいつのせいになる。それは避けたい」


「じゃあ問題が起きたら、私のせいにしようと思っているんですか? ひどいですね!」


 とスザンヌは怒ったふりをする。

 それも見透かしたようにアランシモンが言う。


「国民的英雄のあんたなら、悪口言われてもカエルにショウベンだろ」


 スザンヌは再び吹き出した。


「フフフ、お下品なこと」


「で、仲間にしてくれるんだろ」


「もちろん。歓迎します」


 こうしてスザンヌの新しい仲間が加わった。


____________________________________


 軍には、兵士たちの夜の相手をする女性、いわゆる「娼婦」たちがついてきていた。

 前世でのスザンヌは彼女たちを認めなかった。

 スザンヌは思い返す。

 前世で私は、彼女たちを、残酷な方法で追い払った――。


***********************************

 

 当時、娼婦たちをまとめるリーダー格の女性がいた。

 リリアスという女性だった。

 カールした長い茶色の髪、大きな瞳。

 美しいがキリッとした眉が意志の強さを現している。

 

 スザンヌは彼女に会い、こう言った。


「あななたちのやっていることは神の意思に反します」


 リリアスは少女の生意気な物言いに眉間に皺を寄せた。

 周りには仲間の娼婦たちがいて、同様にスザンヌを睨む。


「私たちは命を賭けて戦う兵隊さんに寄り添ってあげているのさ」


 リリアスが言うと、娼婦たちもうなずく。

 スザンヌがこう言い返す。


「でも彼らには妻がいたり恋人がいたりします。彼らと体を重ねることは重大な罪です」


 リリアスはスザンヌに一歩近づき、その頬を右手で張った。

 鋭く高い音が響いた。


「世間知らずで生意気な娘ね!」


 スザンヌはひるまず、リリアスに強い口調で言う。


「今すぐ軍から立ち去りなさい!」


 リリアスはスザンヌを睨みつけて言い返す。


「お断りだよ。絶対に出ていくもんか」


 するとスザンヌは彼女にこう言い放った。


「仕方ありませんね。神の名のもとにあなたに罰を与えます」


 スザンヌは腰の剣を抜くと、刃とは逆の持ち手の部分をリリアスに向けた。

 そしてその先で彼女の腹部を突いた。

 一瞬で倒れるリリアス。

 そのまま、ピクリとも動かない。

 周りの娼婦たちは青ざめた表情でざわついている。

 スザンヌは彼女たちに言った。


「あなたたちも、こうなりたくないのなら、今すぐ立ち去りなさい」


 逃げるように走り去り、荷物をまとめ始める娼婦たち。

 こうしてセーヌ国軍から娼婦の姿は消えた。


********************************


 今思えば、あれも間違いだったのでは?

 娼婦たちが去った後、少なからぬ数の兵士も軍を去った。

 その中には屈強な猛者たちも含まれていたので大きな痛手だった。

 

 その後、参加を願い出る志願兵たちの数も減り、士気も落ちた。


 軍に残った男たちはスザンヌの方針に渋々と従った。

 しかし内心、大きな不満があったのではないか。


 スザンヌはさっそく、リリアスの姿を探した。

 茶色くカールした髪に派手なドレスの女はすぐに見つかった。


「リリアスさん、お話があります」


 リリアスはスザンヌの顔を見た。


「あら、スザンヌさん。何の御用でしょう?」


 笑顔はない。


「あなたたちの軍への帯同についてです」


 スザンヌが言うと、リリアスもこう答える。


「そんなことだろうと思ってたわよ」


 さらにリリアスはこう続ける。


「私たちを追い出しに来たんだろう。あんたが来た時から、ろくな話にはならないだろうとは思っていたからね」


 スザンヌは言う。


「あなたたちがしていることは神の教えに反します」


 リリアスも言う。


「わかってるよ。不倫って言いたいんだろ?」


 スザンヌが言う、


「でもあなたたちは兵士の食事の用意や身の回りの世話もしてくれています」

 

 そのまま、こう続ける。


「あなた方に癒され、勇気づけられる兵士は多くいます」


 リリアスが意外そうに言う。


「そんなことしゃべったら、神様に怒られるんじゃないのかい?」


 スザンヌは微笑んで、言う。


「だから、あななたちにはここに居てもらうかわりに、ひとつ、約束をしてほしいんです」


「約束?」


「ええ。不貞行為は罪だから、そのままだと、あななたちは地獄に行ってしまいます」


「ずいぶんな言い草ね」


 とリリアスが苦笑いする。


「だから決まった日に司祭に告解してほしいの」


「そうすれば天国に行けるの?」


「そうです。罪を司祭に告白し、神に許しを請えば、天は良き場所にあなたを導くでしょう」


 リリアスは笑い出した。


「スザンヌさん、あんたは本当に面白い娘だねぇ」


 スザンヌは娼婦たちの帯同を認めた。

 それだけではなく、彼女たちの待遇も改善した。

 リリアスをはじめとする娼婦たちもスザンヌの大きな味方となった。

明日も20時ごろに投稿しますね♡

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