表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/64

第28話 呪われた転落の始まり

 グランド国の総司令官スールシャールは北への進軍を指示した。

 動き始めるグランド国軍の軍勢。


 セーヌ国軍はそれを黙って見ている。


 遠巻きに見ていた古参の軍人たちから次々と声が上がった。


「敵が逃げたぞ!」

「追撃だ!」

「グランド軍を壊滅させるなら今しかない!」

 

 そのとき、


「お止めなさい! 今日は神が定めた休息日です」


 鋭く張りのある声が響き渡った。

 スザンヌだった。


 古参の軍人はスザンヌに言い返したい様子だ。


 それを見て、とっさにセーヌ軍のデシャン司令官が動いた。


「兵士たちよ、聞いてくれ」


 力強く、声を張り上げる。


「エール国軍の勇者たちよ、我々は勝ったのだ!」


 兵士たちの目がデシャンに集まる。

 デシャンが続ける。


「我々はグランド軍を追い払った。パビリオンの平和を我々の力で取り戻したのだ!」


 それを聞いて、兵士たちからも声が上がる。


「そうだ!」

「やったぞ!」


 デシャンが、さらに声を張り上げて叫ぶ。


「エール国軍の大勝利だ!!」


 それを受けて、兵士たちからは、さらに大きな歓声が上がる。


***********************************

 

 スザンヌは勝利に湧く兵士を見ながら、前世をぼんやりと思い返していた。


〈前世での私はこの後、意気揚々とマルカに凱旋した〉


 当時の出来事がスザンヌの頭によみがえる。


〈マルカで、スコット王太子に戦勝報告をした〉


 そこでスザンヌは王太子に提案した。

「今すぐにクレバへ向かって戴冠式に臨みましょう」

 しかしスコット皇太子は即座に拒否した。 

〈なぜ? 神様がそうおっしゃっているのに?〉

 これに不満を持ったスザンヌは、

「なぜ神のお導きに逆らうのですか!」

 怒りを込めた口調で、詰め寄った。

 そんなスザンヌに、眉をひそめる皇太子。


 思えば、あの瞬間からボタンの掛け違いが始まった。

 考えの違いが少しずつ互いの不信感を生んでいった。


 なぜ皇太子がクレバ行きを拒否したのか、今であればわかる。

 クレバまでの道筋には、グランド国軍の強力部隊がひしめいている。

 この道中に皇太子を同行させたら、絶好の標的になることは目に見えている。

 それでもクレバ行きを主張するスザンヌ。

 スコット王太子は、それをうるさいと感じるようになっていったに違いない。


 グランド国軍幹部で、クレバに向かう危険を恐れていないのはスザンヌだけだったのだ。

 そのことが今であればよくわかる。

 ベテラン軍人はスザンヌを「分かってない小娘」と思う。

 逆にスザンヌは男たちを弱虫だと軽蔑する。

 今まで力を合わせて戦っていた仲間が、一瞬のうちに険悪になる。


〈そこから、すべてが呪われた方角に転がり始めたのではないかしら〉


 スザンヌはそう思う。


************************************

 

 再び、現在進行中の世界。


 ベテラン軍人たちの嫉妬をよそに、スザンヌの国民人気は高まっている。

 重要都市パビリオンを奪還した勇敢な乙女に、貴族も民衆も熱狂した。

 誰もが聖女スザンヌに期待を寄せる。

 彼女は〈パビリオンの乙女〉と呼ばれるようになっていた。

 スザンヌにその実感はなかったが……。


 スコット王太子にとってもスザンヌは無視できない存在となった。

 ほどなくスコット王太子からの通信使がスザンヌのもとに訪れた。

 皇太子からの手紙をスザンヌに渡す。

 開けると中身はこうだった。


〈パビリオン包囲戦の活躍は見事だった。マルカで戦いの報告をしてもらいたい〉


 スザンヌは通信使に紙とペンを借りる。

 そしてこう記し始めた。

_________________________________

 王太子さま

 いますぐにでもお会いしてお話しさせていただきたい思いです。

 しかし、まだ軍人としてやるべきことが残っています。

 それを終えたら、すぐにあなた様のもとへ向かいます。

 しばしお待ちください。   

                              スザンヌ

__________________________________

 

 スザンヌは、この手紙を通信使に渡し、王太子に届けてくれるよう頼んだ。


明日も20時ごろに投稿しますね♡

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ