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第21話 物影から見つめる金髪騎士

 スザンヌは翌日から精力的にパビリオン市民を勇気づけた。

 自分の部隊を引き連れてパビリオンの各所を回ったのだ。

 住民たちには補給物資のパンを配った。

 そして各基地の市民兵たちには小遣いをあげた。

 パビリオン市民たちのスザンヌ熱はますます上がっていく。


 パビリオンでの戦略会議はデシャンが主催者となった。

 スザンヌの暴走を警戒するデシャンはスザンヌを会議に呼ばない。

 しかしアンソニーから予定を聞いていたスザンヌはそこに押しかけた。


「なぜそこにいる? スザンヌは呼んでいないぞ」


 会議の主催者・デシャンは彼女を見て憤り、追い返した。


 しかし次の会議から、スザンヌは参加を許されるようになった。

 最初の門前払いを聞きつけたパビリオン市民がデシャンを猛批判。

 すっかり悪者扱いされたデシャンはスザンヌの扱いを変えざるを得なくなった。

 

 あらためての戦略会議。

 デシャンが警戒していたとおり、スザンヌの意見は騎士たちと真っ向から対立した。

 

 セーヌ国の指揮官たちは戦いにおいて騎士道のルールを重んじる。

 このパビリオンの戦いでも昔ながらの戦いが行われていた。

 勝負の分かれ目は、 街全体の包囲が完了するか否か。

 完全包囲されたらセーヌ軍が降伏する。包囲に失敗したらグランド国軍が撤退する。

 そのため戦いには非常に長い時間がかかっていた。


 しかしスザンヌには騎士の常識など関係ない。

 早く勝利する方法を優先した。


〈てっとり早く、相手の拠点を奪い返していけばいいじゃない〉


 そう考えるスザンヌは会議で自分の意見を主張した。


「グランド軍の砦を、ひとつひとつ攻撃しましょう。最初のターゲットはレーヌ・サム砦です!」


 しかしこれは、セーヌ国の古くからの騎士たちの反発を買った。

 特に補給部隊の総隊長を務めていたアモロは、スザンヌの先方を激しく批判した。


「それは野蛮なやりかただ!」


********************************


 前世でも同じことがあった。

 ジャンヌの主張はアモロをはじめとする騎士たちから同じ批判を受けていた。

 そのとき彼女は、こう返した。


「そんなことを言っているからエール国軍は負け続けるのです」


 さらにこうダメ押しした。


「古い頭で賢くない方法を選択する限り、悪い結果を招くだけです」


 小馬鹿にされたアモロは鬼のような顔をして睨み返した。

 その恨みは結果としてスザンヌを地獄に落とした。 

 もう恨みを買うのはやめたい。


*********************************


 前世を思い返したスザンヌは、落ち着いてアモロの言葉を受け止めた。


「お気に召さなかったらすみません」


 スザンヌはまず頭を下げた。


「ですが今、滅亡の危機を迎えるセーヌ国を救うための選択肢としてご検討ください」


 とだけ言って、あとは黙っておく。

 アモロもそれ以上、言うべきことが続かない。


 結局、戦略会議で結論は出なかった。

 総司令を務めるデシャンは、


「今の物資と戦力ではグランド国との決戦に臨めない。さらなる補給と援軍が必要だ」

 

 と話をまとめた。

 デシャンの頭の中には明らかに長期戦が描かれていた。


 デシャンはオルレアンの管理を、しばらくスザンヌたちに任せることにした。

 そして物資と食料補給を行うためパナークに向かい、途中の各都市でパビリオンへの援軍を依頼した。


 デシャンがパナークに出かけている間、スザンヌは単独行動を始めた。


 スザンヌはパビリオンの城壁をするりと抜けて、街の外に出た。

 そしてグランド国軍の砦に向かった。

 敵の基地の偵察を始めたのだ。


 なかでも強力だといわれたのがロンダート砦だ。

 スザンヌがここに着くと、いきなり大男と出くわした。

 甲冑と刀で武装した軍人で、顔中に髭をたくわえている。


 しかしスザンヌはひるまなかった。

 兵士に出くわしても、逃げも隠れもしない少女。

 そんなスザンヌに興味を持ったのだろう。

 その男は穏やかな笑顔でスザンヌに話しかけた。


「娘さん、あんたは誰だい?」


「私はセーヌ国軍のスザンヌです」


 男は言葉を失った。

 驚いた顔だ。

 ようやく男が、再び口を開く。


「おまえがあのスザンヌか?」


「あなたは誰なの?」


「私はこの砦の司令官のアイアンペールだ」


「ちょうどよかったです。あなたに警告をします」


「何だ?」


「いますぐ降伏しなさい。さもなければ私があなたたちを追い出します」


 アイアンペールは黙り込む。

 その顔はみるみる真っ赤になっていく。

 激しい怒りの形相だ。


「牛飼い小娘のくせに、ふざけたことを抜かしやがって!」


 アイアンペールは刀を抜き、スザンヌの前に突き出して怒鳴った。


「今すぐ目の前から消えろ! さもなければ叩き切るぞ!!」


 丸腰で来ていたスザンヌは、急いで全速力で逃げ出す。


 そんなスザンヌの隠密行動。

 これを秘密裏に追っている影があった。

 巧みに馬を操って、身を隠しながら追跡している。

 スザンヌはその男の視線に気づいていた。

 金髪で長身で細身だが筋肉質な体。

 そして遠目にも感じられる端正な顔だち。


〈あの雰囲気、騎士に違いないわ。でも、味方なの? 敵なの?〉


 いったい誰なのか?

 姿を追おうとしても、すっと逃げられてしまう――。


明日も20時過ぎに投稿しますね♡

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