第20話 いざ! 決戦の地・パビリオン
スザンヌたちは大量の食料と補給物資を大船団に積み込んだ。
そして自らも約200人の軍勢と共に船に乗り込む。
時は夕刻となっていた。
夕焼けがバーレル川と街一帯に訪れる。
赤い光に包まれながら大船団はリュシーを出発した。
天からの風の恵みを受けた船は順調に進んだ。
目的地はパビリオンの船着き場。
船を降りるころ、パビリオンには夜の闇が訪れていた。
物資の荷下ろしが始まり、兵士たちも続々と上陸する。
パビリオンの東側には街の顔ともいわれる門がある。
歴史を感じる建築、堂々とした構えは市民の誇りでもある。
門から市街への大通りに沿って、パビリオン市民の群衆がずらりと並んでいる。
救世主・スザンヌとセーヌ国の援軍がやってくる。
それを聞きつけた市民が歓迎の意思を表して駆け付けたのだ。
最初に門をくぐったのは、スザンヌを先導する兵士だった。
大きな純白の軍旗を天高く掲げている。
セーヌ王族からスザンヌに贈られたものだ。
生地には百合の花を手にした天使と女神の姿が描かれている。
続いてスザンヌが姿を現した。
白い白馬にまたがり、銀色に輝く甲冑に身を包む。
これも王族から贈られた特製品だ。
右手で突きあげた槍の先に、白い軍旗がたなびいている。
ここにも天使の姿が描かれていた。
スザンヌの長い髪が美しくたなびき、つややかな肌が闇に映える。
「まっていたぞ! スザンヌ」
「フルーレの聖なる乙女!」
「パビリオンを解放してくれ!」
観衆から一斉に大歓声が巻き起こり、嵐のような拍手が巻き起こった。
市民たちの応援と拍手の渦は鳴りやまず、スザンヌの歩みに合わせ、ずっと続いていく。
スザンヌの隣に付き添うデシャン指揮官も赤い衣装で着飾っている。
その後には勇壮な騎士や、剛健な兵士たちの行進が続く。
部隊の行進の両側に並ぶ群衆は、燈明で道を照らしている。
燈明はメインストリートが続く限り長く続いている。
しかし人が密集しすぎて、何度か観衆が押し合っては列が乱れている。
すると一人の男が密集から押され、燈明を持ったままスザンヌに接触してしまう。
はずみで燈明の火が、スザンヌが掲げた軍旗に燃え移ってしまった。
「危ない!」
「すぐに消火するんだ!」
観衆から悲鳴があがる。
しかしスザンヌはまったく慌てることがなかった。
馬具の拍車を蹴って馬を方向転換させる。
すると槍の先端で燃え始めた小旗が、スザンヌの方に大きくひるがえった。
その炎を、スザンヌは旗全体で包むように両手で捕まえた。
炎は一瞬でスッと消えた。
魔法のような一連の動作に、観衆は驚きのあまり一瞬、沈黙する。
しかしすぐに、
「すごいぞ、フルーレの乙女!」
「奇跡を起こす女聖女だ!」
さらに爆発的な歓声と拍手が地面を揺らすように鳴り響いた。
パビリオン市民のスザンヌへのこれだけの熱狂。
それは、これまでのセーヌ国民の大きな不安の裏返しだった。
グランド国軍に自国の軍勢は連戦連敗。
領土はどんどんと敵国に占領されていく。
パビリオンもいつか攻め落とされてしまう、そんな不安が広がっていた。
しかしスザンヌが仮王宮クレバに到着したとき、その知らせはパビリオン市民の空気を変えた。
何かが起きるかもしれない。
市民たちは期待に胸を膨らませた。
しかもその乙女は、スコット王太子を訪れ、王位につかせると宣言した。
〈エール国は一人の悪女によって滅びるが、一人の乙女によって救われる〉
この言い伝えはパビリオンでも信じられていた。
そして今、これを地で行くような少女が出現した。
それがスザンヌだ。
パビリオン市民はパレードの後、クレバからの補給部隊を宴席でもてなした。
宴が終わった後、就寝に向かうとするスザンヌにアンソニーが声をかけた。
「また奇跡を起こしたな」
そう言われたスザンヌは思わず苦笑いした。
正直、パビリオン市民の期待が過剰に自分に集まりすぎている。
セーヌ国軍の他の騎士たちの中には、面白くないと思っている人もいるだろう。
前世の自分にはそれが見えていなかった。
パビリオン入りした後も、興奮したまま高ぶっていた。
だけど勢いのまま突っ走ったら、最後は火あぶり処刑された……。
その苦痛を味わったからこそ、スザンヌは今の自分を少し冷静に見れている。
「アンソニー、今のパビリオン市民には、私が魔法使いに見えているのではないかしら?」
落ち着いたスザンヌの返答に、すこしアンソニーは戸惑った様子だ。
「そうだな。彼らにとっては、おまえが期待の星だ」
「そこが問題なの」
と言うスザンヌ。こう続ける。
「私に好きやらせるとまずい、と思われているみたい。戦略会議から外されちゃっているの」
「それは仕方ないかな。女が戦略会議に入ること自体がそもそも異例だ……」
とアンソニーが、スザンヌの顔色を見つつ言う
それを見て、スザンヌは彼が何か隠しているのを感じる。
「アンソニー、何か隠しているでしょ。教えてよ」
「ハハハ、おまえがにはかなわないな」
とアンソニー。真顔になって、こう言う。
「おまえが活躍しすぎているから、騎士たちの半分以上は、面白くないと思っている。はっきりいって、反感をもっているヤツも多いよ」
戦果こそ正義、と思って走っていた前世のスザンヌ。
しかし「振りかざした正義」の裏には、味方からの反感が渦巻いていたようだ。
「アンソニー、これからの戦略会議の予定を、全部教えてほしいの」
「呼ばれていないのに、押しかけるのかい?」
「ええ。参加できれば儲けものだから」
「前向きだねぇ」
「それに、追い返されても、かわいそうって同情を買えるでしょ。少しは好感度あがるかも」
「やっぱりお前にはかなわねえや」
アンソニーは苦笑いする。
そんな2人の様子を気づかれぬよう、じっと見ている人影があった。
明日も20時過ぎに投稿しますね♡




