第18話 男たちは逃げの一手、だけど女は度胸で勝負!
長きに渡るセーヌ国とグランド国の戦争。
直近の戦闘は、すべてグランド国が勝利を収めていた。
戦局はグランド国軍の優勢に傾きつつあった。
そしていま、戦いは重要な局面を迎えていた。
都市・パビリオンの包囲戦である。
この都市はセーヌ国を流れるバーレル川沿いにある。
大きな橋がかけられ、すべてにおいて重要な拠点になっている。
パビリオンを攻め落とすため、グランド国は大量の軍勢を送って包囲にかかった。
パビリオン市民は孤立させられ、食料・物資不足に苦しんでいる。
セーヌ国軍の至上命令は、パビリオンへの食料・物資の補給だった。
部隊はパナークという街に集結しつつあった。
スザンヌも当然、この戦いに加わるつもりである。
彼女は天からの声を待った。
すると、夢の中に白い光が現れた。
大天使・ボードルが告げる。
「スコット王太子の義母・フランシーヌを訪ねなさい」
「なぜですか?」
スザンヌが聞くと、ボードルが告げる。
「フランシーヌはパビリオンの戦いに向かうエール国軍を援助している。きっとあなたを助けてくれるはず」
「わかりました。ありがとうございます」
ボードルは微笑みながら光の中に消えていった。
翌朝、フランシーヌの邸宅に向かうと、彼女は快く面会してくれた。
「あなたがスザンヌさんね。昨日、あなたが訪ねてくる夢を見たの」
というフランシーヌ。
「いまセーヌ国はグランド国に負け続けて暗い空気に包まれているわ。あなたが変えてほしいの」
そう期待されて、スザンヌは嬉しかった。
フランシーヌも同じ思いだった。
大天使・ボードルさんが2人の心をつないでくれたのかもしれない。
スザンヌが言う。
「私もパビリオンへの行軍に参加したいのです。私は女性ですが、騎士としての軍装をお許しいただけませんか?」
それを聞いて、フランシーヌが瞳を輝かせる。
「まあ、あなたも戦地で戦ってくれるの?」
「はい、私は神のお導きに従います」
「素敵だわ。あなたに天使の姿が描かれた軍旗を与えましょう。銀色に輝く甲冑も」
スザンヌの笑顔も弾ける。
「ありがとうございます」
「あなたとお仲間の軍備も用意させましょう。執事1人、お付きの者2人と軍使2人も手配しましょう。ぜひパビリオンを解放してください」
「お任せください」
スザンヌは感謝の笑顔でフランシーヌに答えた。
パビリオンに向かう補給部隊が続々とパナークに集結する。
隊長はベテランのアモロ司令官だった。
パナークに到着したスザンヌは、さっそくアモロ隊長を訪れ、こう主張した。
「まずはグランド国軍を攻撃するべきです」
フランシーヌのためにも早く結果を出したかった。
しかしアモロはまったく無表情のまま、こう答えた。
「作戦については、後から連絡する」
話はそのまま終わってしまった。
このままではグランド国軍を倒せない。
そう思ったスザンヌはグランド軍への書状を作った。
〈天の声に導かれる乙女が告ぐ。パビリオンを出ていきなさい。さもなければ私が追い払います〉
これを軍使に渡してグランド国軍の側の司令官に送った。
しかし反応はない。
そして、補給部隊の出発の日が来た。
しかしスザンヌは戦略会議に呼ばれなかった。
作戦に関する連絡もなく、アモロ隊長から無視されているようだ。
パビリオンへの補給部隊の総勢は、約450名。
大軍勢である。
そして兵士だけでなく、聖職者たちも部隊に加わっている。
まさに聖なる大行進が始まった。
行軍は南に向かって進む。
しかしグランド国の主力部隊とは逆の方向だ。
それでもスザンヌは、
〈きっと敵の手薄なところを狙い攻撃するはず〉
と思っていた。
ところが、日は西に傾きはじめたが、一向に戦いを始める気配がない。
パビリオン近郊の、リュシーという街で行進は止まった。
ここで、パビリオン守備隊の総司令官と面会することになっている。
スザンヌは気が付いた。
〈アモロ隊長は戦う気がない〉
部隊は敵軍を完全に回避するために、南を大回りするルートをとった。
連戦連敗だけに、セーヌ国軍のほとんどの軍人が自信を失っていた。
いまのセーヌ国の司令官たちは、逃げる一方だ。
戦いの前にもう気持ちが負けている。
〈こんなんじゃ、絶対に勝つことなんてできない〉
スザンヌは決意した。
〈自分がやらないと何も変わらない❕〉
スザンヌは近くの兵士たちにこう命じた。
「これからグランド国軍の南の砦を攻め落とします!」
兵士たちは、
「えっ、今からですか!?」
と、飛び上がらんばかりに驚く。
「ただちに攻撃準備にかかってください!」
スザンヌの怒気を帯びた強い口調に兵士たちは逆らえない。
慌てふためきながら、戦いの準備を始めた。
明日は20時過ぎに投稿しますね❤️




