第12話 広まる噂
18時投稿の予定でしたが会社の仕事都合で大幅に遅れました。ごめんなさい。
どうぞよろしくお願いします♡
叔父のカミーユはその後、スザンヌをエルドラ町の街中へと案内した。
教会にいくと、白髪の落ち着いた男性がスザンヌを出迎えてくれた。
「私は神父のワルツ。スザンヌさんのことは聞いているよ。天からの声を託された、セーヌ国を救う乙女だと」
スザンヌの天の声のことを、神父さんが知っている。
バスケス村では誰も知らないのに、なぜなのだろう?
スザンヌが聞く前に、カミーユが教えてくれた。
「私が2人の人に教えた。その一人がワルツ神父なのだよ。尊敬を集める方だから、スザンヌの話も変なふうには伝わらず、よい形で広がっている」
スザンヌは納得した。カミーユが続ける。
「それとアンソニーや、ラファエル司令官からも、軍関係者を中心にスザンヌの話が広がっているようだ」
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確かに思い当たる節があった。
スザンヌのフルーレ村はコレール地方に属し、その地域はフォント2世が治めている。
その領主であるフォント2世からスザンヌに呼び出しがあったのだ。
フォント2世はラファエル司令官の上司である。
ラファエルはスザンヌについて何かの報告をしていたのだろう。
その呼び出しに、何も予告はなかった。
突然、マルク家の前に馬車が来た。
「信心深い少女・スザンヌを呼びたい」
御者はそう告げだ。
領主からの要請となると、父フランクも送り出すしかなかった。
馬車に乗せられたスザンヌはフォント2世の居城で、家臣たちに迎えられた。
「ようこそ神の娘よ。領主をお救いください」
そこにはフォント2世らしき人物はいない。
彼らが言うには、年老いたフォント2世はこのままでは破滅するのだという。
若くて性悪な妾に熱を上げ、正妻を追い出してしまった。
「善良な正妻を呼び戻せば、領主は救われるのです」
そう力説する。
実はスザンヌを呼んだのは、フォント2世本人ではなかった。
その家臣たちだった。
家臣たちはフォント2世の前にスザンヌを連れていき、こう紹介した。
「バスケス村の乙女スザンヌです。神の奇跡を起こす聖女でございます」
スザンヌは慌てる。
〈こうでも言っておかないとフォント2世は話を聞かないと思ったのでしょう。……にしても、勝手に魔術使いにされちゃっても……〉
スザンヌが心配した通り、家臣たちの紹介を聞いたフォント2世は、
「見ての通り、私は年老いて、病気ばかりしている。若さと健康を取り戻すことができないものだろうか」
とたずねてきた。
フォント2世はやせ細って、肌色もくすんでいる。目の色にも力がない。
しかし、できないことはできない。期待を持たせてもいけない。
スザンヌはこう答える。
「私はそんな方法を何も知りません。今のあなたは不健全な生活で自分から病気を呼び寄せています」
さらにこう続けた。
「愛人を追い出し、どうか正妻を呼びもどしてください」
フォント2世は、
「そうか……」
と力なく言っただけだった。
どうやら妾を追い出す気は、さらさらないらしい。
フォント2世は豊富な兵力を有している。
そしてその娘婿は勇壮なことで名高い王族のモネ・ダンディーだ。
スザンヌは聞いてみる。
「セーヌ国のために兵や騎士を出していただけないでしょうか? もし息子さんを私の護衛に付けていただけたら、私は天の声に、あなたが健康を取り戻すようにお祈りします」
フォント2世はそれには答えなかった。
代わりに、かすかな微笑みを浮かべて、
「来てくれてありがとう。お礼を渡すから受け取って帰ってくれ」
とだけ、スザンヌに伝えた。
それはちょっとした額の謝礼金と、一頭の白い馬だった。
スザンヌは白馬をバスケス村に連れて帰った。
そして幼なじみのピエールに乗馬を教えてほしいと頼んだ。
ピエールは喜んで引き受けてくれた。
毎日の熱心な指導で、みるみるうちに上達するスザンヌ。
「ありがとうピエール」
笑顔で感謝の思いを伝えるスザンヌ。
するとピエールは突然、もじもじし始めた。
何か言いたそうだが、言えずに赤くなっている。
「どうしたの?」
スザンヌが聞くと、ピエールは意を決したように、口を開いた。
「あの……小さいときに、ずっと一緒にいるって約束したよね」
ここまで言われて、スザンヌはさすがにピンと来た。
ピエールは私のことが好きらしい。
でも私はそんなこと考えたこともない。
しかも私には神様からの使命がある。
ごめんね、ピエール。
「そうだっけ。小さいときのこと、あんまり覚えてないなぁ」
ピエールは明らかに望みを失った顔になった。
「そうだよね。ずっと前の話だものね」
力なく言う。
スザンヌはピエールに心の中で改めて謝罪する。
もし天からの声が私に届いていなかったら……。
私はピエールの想いに応えていたかもしれない。
しかし今、私は天の声に応える道を選んでいるのだ。
スザンヌはフォント2世に与えられた白馬を見事に乗りこなせるようになった。
そしてこの馬は、今回のエルドラ町への旅にも同行している。
明日はいつもどおり20時にアップしますね♡




