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バイト帰りに拾ったのは家出してきた学校一の美少女でした  作者: シクラメン


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第14話 初めてのデート

「こっちだよ」

「は、はい」


 休みということもあってか、それなりに多くの人がいる映画館の中を2人で進む。チケットを係の人に見せてから、入場券を受け取ると俺は七城さんにフード販売を指さした。


「なんか食べる?」

「……? 映画を見ながら食べるの?」

「そうだよ」

「それって大丈夫なの?」


 七城さんが首をかしげる。


「だ、大丈夫って……?」

「音とか鳴っちゃうから」

「ああ。なるべく立てないようにするのがマナーかな」

「なるほど……」


 ちょっと感心している七城さん。でも、あまり食指は伸びないらしい。そんなに……と言った表情で売り場を眺めていた。何かが食べたい、飲みたいというよりも、物珍しさで見ている……と、言った感覚が近いか。


「そういえば、このもらったチケットってどうするの?」

「中に入るときに使うんだよ」

「まだ入らなくていいんですか?」

「時間じゃないからね」


 1つ1つ分からないところを聞いてくる七城さんに可愛らしいと思ってしまった。まるで小学生の妹と一緒に映画を見にきているみたいで。


「あ。いまちょっと失礼なこと考えたでしょ?」

「い、いや。考えてないよ」

「本当に?」

「本当に」


 七城さんは、時々鋭い。時々、と付けたのは俺の事を『優しい』と感じているということは鋭くないということに繋がるからで、


「わっ。秋月君、いま映画呼ばれたよ。入って良いって」

「お、じゃあ行こうか」


 考え事をしていて思わず聞き逃してしまったらしい。チケットを持って入り口に向かうと、ちょっとだけ動きがガチガチになっている七城さんを見てほほ笑んでしまった。映画に入るときに緊張できるなんて可愛いとしか言いようがないだろ。


 中に入ると、七城さんにとっては初めて見るものばかりだったからか、物珍しさに周囲をくるくると見て回っていた。そんな七城さんを連れて俺はシアターに入る。流行りの恋愛映画ということもあって、中にいるのはカップルか夫婦ばかり。男女で並んでいる2人組の多いのなんの。


 自分たちも周囲から見ればそう見えているのだろうか、と考えていると、チョイチョイと袖を引っ張られた。


「楽しみ」


 そこには、子供のように純粋な笑顔を浮かべた七城さんがいた。


「俺も」


 短くやりとりを交わす。

 そして、映画が始まった。


 映画自体は普通に面白かった。

 内容は不治の病にかかった女の子が余命期間中に、仲の良い男とやりたいことを1つずつやっていくというストーリーだった。ハッピーエンドが好きな俺としては、最後に女の子が死ぬのがなんとも言えない終わりだったけど。


 しかし、何だかんだ最後のシーンには思わずうるっと来てしまった。


「泣いちゃった」

「最後のところ?」

「うん」

「俺もうるっとしちゃった」


 2人で感想を言い合いながら、シアターからでた。スマホで時間を見ると、ちょうどお昼ごろ。


「どっかでご飯たべる?」

「うん。どこが良いかな」

「適当に下で食べよう」


 ちょうど近くにイタリアンがあったので2人でそこに入った。1000円もしない安いランチを2人で頼んで映画のことを話しながら食べた。


「でもなんか意外だった。七城さんでも恋愛もの見るんだね」

「見ないように見えた?」

「うん。もっとまじめなものばっかりかと思った」

「学校だとそう見えるかも」


 七城さんはパスタを口に運びながらそう言った。


「でも、そういうなら私も意外だったかな。秋月君が映画見るなんて」

「そう?」

「うん。だって、遊ばないって言ってたから」

「流石に誘われたら、俺だって遊ぶよ。まあ、都合がよかったら……だけど」


 現に岳とは1ヶ月に1回くらいのペースで遊んでいる。逆に言えば、それくらいしか遊べる時間がないのだ。だから、彼女を作らない。


「じゃあ、今日は都合が良かったんだ」

「うん」


 俺は頷いた。


「それに、七城さんだったから」

「…………」


 七城さんがパスタを巻き取る手を止めた。あれ? もしかして、なにか失言しただろうか?


「……私、だったから?」

「七城さんだったから、良いかなって」

「他の人なら行かなかったってこと?」

「そうだね」


 七城さんはそのまま俯いてしまった。……ガチで失言したかと思って、ちょっと焦る。しかし、口に出した言葉は取り消せない。七城さんは揺れる瞳でこちらを見上げて、やっぱり下を向いてしまった。


「……私も」

「ん?」

「私も、秋月君だったから。お願いしたんですよ」

「ありがとう」


 それはとても嬉しい言葉だった。誰かに必要とされたい、と思うのは人として当たり前のことだろう。七城さんの言葉がきっとお世辞でも、俺には嬉しかった。


「ね、秋月君。この後、どっか行きたいところはある?」

「ううん。無いかな」

「じゃあ、ちょっとだけ付き合って」

「良いよ」


 七城さんのように可愛い子から付き合って、と言われたらドキっとしてしまう。中学生かよ、と自分にツッコミを入れてから俺は残りのパスタを一口で放り込んだ。


「新しい本が欲しかったの」


 そう言って七城さんに連れてこられたのは、複合施設の中に入っている本屋だった。店頭には先ほど見てきた映画の原作小説が並べてある。帯には映画がどうのこうのと書いてあった。


「秋月君って本読まないんだっけ?」

「うん」


 マジで本とは無縁である。岳の家にある漫画を読むくらいだろうか。

 とは言っても、そんなに漫画も読まないんだけど。


「七城さんって普段はどんなもの読んでるの?」

「何でも読むよ。小説なら」

「確かに漫画とかあんまり読まなさそうだよね」

「んー。時々かな」


 下手すると本屋という空間に初めて入るかもしれない。いや、そんなことは無いか。しかし、本屋初心者であることは代わりなく俺は七城さんの後ろをついて歩いた。彼女はまっすぐ小説コーナーに入ると新刊を眺め始めた。


 そして、すぐに2冊手に取った。


「え、もう決めたの?」

「うん。好きなシリーズの新刊が欲しかったんだ」

「あのさ、七城さん」


 俺は本屋に入ってから、言おうか言うまいか悩んでいたその言葉を七城さんに投げかけた。


「何?」

「お勧めの本とか無い?」

「お勧めかぁ」


 七城さんは嬉しそうにそう呟くと、少しだけ考えて、


「こっちに来て」


 と、言われて連れてこられたのは文学コーナーだった。


「これ、かな」


 そうして、差し出されたのは一冊の本。太宰治の『人間失格』だった。


「面白いよ」

「読んでみる」


 そして、2人そろってレジに向かった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 世間知らずというか無知というか、純粋な陽菜が映画一つでそわそわしたり物凄く楽しみにしたりと可愛かった。 複雑そうな家庭環境のせいもあって大変そうな陽菜と、境遇だけならさらに大変な蓮。 お…
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