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魔女物語  作者: 夜行
第三幕
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第十話

 一難去ってまた一難とはこのことだろう。そしてこの場面を切り抜けられるのはシェルしかいない。負担は大きい。サクラは自分ではどうしようも出来ない事がわかっている。何も出来ない。選択の余地さえないのだ。どうにかするにしろ、シェルが指示を出さなくてはいけない。

 だからサクラは声のする方よりもシェルの顔を見た。するとシェルの表情は驚きから安堵へと変わっていったのだ。眼を閉じて少し笑っているようにも見える。その意味する事とは――。


「……驚かせるなよ、ウィル」


 シェルは名を呼び、そちらに振り返る。


 間違うはずもない。こんな声をしているのはあいつただ一人だ。


「はっはー。驚かせようとしてたんだから僕の勝ちだね」


 シェルは腰に手をあてて、頭を振った。


「いやー、見てたけどジャスティー司教にさっそく会うとは君も中々の強運だ」


「見てたんなら助けろッ!」


 そう言ってウィルの頭にゲンコツを入れる。それでもウィルは驚かせることに成功したのが嬉しいようで「はっはー」と笑いながらズレた司教帽子をなおす。

 そして視線はシェルから外れる。


「やぁ、初めまして。君たちがシェルの新しいお仲間かな?」


 そう問われて、返す言葉を二人は持ち合わせていなかった。シェルの身を案じれば「そうだ」とは到底言えない。そして黙秘は肯定を意味する。それも二人はわかっているからこそ、オロオロとするしかなかった。

 そして、その事をウィルはわかっていた。


「うん、いい子たちだ。シェルに迷惑がかからないようにしている。ごめんごめん、意地悪な質問だったね。シェル、いい仲間を見つけたね」


 それに対してシェルは一言だけ「あぁ」と言った。それが信じられずに二人はシェルの顔を見る。


「信用されてないね、シェル」


「あぁ」


 同じ言葉を繰り返した。


「い、いいのかシェル司教殿。サクラはともかく私は――」


 魔女だとは言えなかった。もちろんそんな事はとうにバレているだろうが、言葉というのは取り返しがつかない。


「かまわない。こいつなら、大丈夫だ」


 今までに見たことがないような眼をしていた。これは家族に向ける眼差しだ。


「じゃ、軽く自己紹介をしようか」


 ウィルが手をパンと鳴らして指揮をとる。


「僕の名前はウィル。シェルとは小さい頃から一緒に育った兄弟みたいなもんさ」


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