第十話
一難去ってまた一難とはこのことだろう。そしてこの場面を切り抜けられるのはシェルしかいない。負担は大きい。サクラは自分ではどうしようも出来ない事がわかっている。何も出来ない。選択の余地さえないのだ。どうにかするにしろ、シェルが指示を出さなくてはいけない。
だからサクラは声のする方よりもシェルの顔を見た。するとシェルの表情は驚きから安堵へと変わっていったのだ。眼を閉じて少し笑っているようにも見える。その意味する事とは――。
「……驚かせるなよ、ウィル」
シェルは名を呼び、そちらに振り返る。
間違うはずもない。こんな声をしているのはあいつただ一人だ。
「はっはー。驚かせようとしてたんだから僕の勝ちだね」
シェルは腰に手をあてて、頭を振った。
「いやー、見てたけどジャスティー司教にさっそく会うとは君も中々の強運だ」
「見てたんなら助けろッ!」
そう言ってウィルの頭にゲンコツを入れる。それでもウィルは驚かせることに成功したのが嬉しいようで「はっはー」と笑いながらズレた司教帽子をなおす。
そして視線はシェルから外れる。
「やぁ、初めまして。君たちがシェルの新しいお仲間かな?」
そう問われて、返す言葉を二人は持ち合わせていなかった。シェルの身を案じれば「そうだ」とは到底言えない。そして黙秘は肯定を意味する。それも二人はわかっているからこそ、オロオロとするしかなかった。
そして、その事をウィルはわかっていた。
「うん、いい子たちだ。シェルに迷惑がかからないようにしている。ごめんごめん、意地悪な質問だったね。シェル、いい仲間を見つけたね」
それに対してシェルは一言だけ「あぁ」と言った。それが信じられずに二人はシェルの顔を見る。
「信用されてないね、シェル」
「あぁ」
同じ言葉を繰り返した。
「い、いいのかシェル司教殿。サクラはともかく私は――」
魔女だとは言えなかった。もちろんそんな事はとうにバレているだろうが、言葉というのは取り返しがつかない。
「かまわない。こいつなら、大丈夫だ」
今までに見たことがないような眼をしていた。これは家族に向ける眼差しだ。
「じゃ、軽く自己紹介をしようか」
ウィルが手をパンと鳴らして指揮をとる。
「僕の名前はウィル。シェルとは小さい頃から一緒に育った兄弟みたいなもんさ」




