第一話
三人はここで一泊したのちにアドミラル大聖堂へと向かう事に決めた。善は急げだ。こうしている間にも黒死病は広まっている。自分たちがここに無意識で飛ばされたカラクリはたしかに気になるが、今は他に優先されるものがある。それにこれは害があるわけではないのだ。むしろ守られた、と言っても過言ではない。
危ない場所からの自動脱出。そう考えると不思議と嫌な気分にはならなかった。しかし、気になる事もある。
魔女が人間を守るか?
中には人間好きの魔女がいても不思議ではない。しかし、それはかなり可能性が低い事だ。この魔女狩りが行われている時代に、自分を殺そうとする人間が好きだという魔女がいるはずがない。
ロゼは暗くなった部屋を見渡して思う。世界がこの部屋のように狭かったら、と。そうすれば手が届くので問題はすぐにでも解決ができるだろう。
この黒死病を止めることが果たして自分にできるのだろうか。一人だったらきっと無理だったはずだ。今は一人ではない。大切な友人の娘がいる。彼女は力を貸してくれるし、それ以上に守ってやりたいと思った。苛烈な人生を歩むこの小さな少女に自分はいったい何をしてやれるのだろうか。
「いや、そんな柔な娘じゃないよな、リンドウ」
なんといってもリンドウとリリーの娘だ。あの二人の娘だ。普通の少女のはずがない。背中は安心して預けられるだろう。
「何も臆する事はない」
ロゼは静かに瞼を閉じる。そして呟く。
「アルビノ、絶対助けてやるからな」
決意を胸に、ゆっくりとロゼの意識は消えていったのだった。




