第十七話
「……ロキという名を貰ったのか。久しぶりだな。私を覚えているか?」
そう言われてロキはロゼの手に顔をこすり付けた。
あの時だ。
牢屋に捕らわれたリンドウとアルビノを助ける為に一時的に元の姿に戻した。ロキはそれで主人を助けられた。狼は賢く誇り高い。恩は決して忘れないだろう。
「サクラを宜しく頼む」
ロキはサクラを頬っぺたをペロリと舐める。言われなくもわかっているという眼だった。今の主人はサクラだ。何をおいても守るだろう。
こんなに心強い相棒がいるなら安心だ。今まで一人旅をしてきたらしいが、無事でいれたことに合点がいく。ロキの存在がかなり大きかっただろう。
「ロキ~、疲れた~。背中乗せて~」
そう言ってサクラはロキの背中にぼふんと抱き着いた。当のロキは、やれやれといった表情だがそれを拒否などしない。まるで自分の子を見るような眼だ。当然ながら産まれたときから知っている。主の大事な娘だ。今ではその娘が主で、手を焼くことも多いが悪い気はしない。
ロキはサクラが背中に乗った状態で立ち上がる。
「きゃー」
歓喜の声をあげて毛皮に顔をこすり付けた。
「可愛い犬ですね。おいでロキ」
シェルは空気を読まずに笑顔でロキの頭へと手を伸ばす。当然そんな事は許されるはずがない。
がぶり、と。
「ぎ……やぁああああああああああああああああああああああっ」
「あっ、こらロキ。ダメでしょ。ぺっ、しなさい。ぺっ」
手を噛みつかれてぶんぶんと振り回すがロキは放す様子がない。
「いいぞロキ。そのまま食いちぎってしまえ」
そんなこんなで数分にわたり、シェルとロキは戯れたのだった。
「ふふふ……ふふふっ。これは私をライバルだと認めたのですね」
「何を訳のわからん事を」
「も~ロキ、ダメでしょー」
くっきり歯型のついた手をさすりながらシェルは宣戦布告の証に涙する。
勝負はロキに軍配があがったようだ。主に手を出したら今度は食いちぎるぞという眼も忘れない。
「おお神よ、我にお慈悲を……」
「シェル司教殿、ほら行くぞ。日が暮れないうちにつかなくては」




