第十六話
「……もうしばらく歩けば町があるはずです。そこを宿としましょう」
「うん」
「大丈夫かサクラ? 歩き疲れてないか?」
正直にいうと違う疲労が溜まってきている気がする。サクラが答えるより前にシェルが口を挟む。
「お嬢さん、疲れたら言ってください。私がお嬢さんの足になりましょう」
胸を張って得意そうに鼻を鳴らす。つまりは背負って歩くという事なのだろうが、サクラはそれをあっさりと拒否する。
「大丈夫だよ。疲れたらこの子の背中に乗せてもらうから」
「「この子?」」
ロゼとシェルは初めて聞く言葉にオウム返しをする。この場には三人しかいない。この子とは誰のことだろう。そう思っているとサクラは自分の毛皮をぽんぽんと叩いた。
「あぁ」
ロゼはそれで理解する。しかしシェルはなんのことだか理解ができない。
「おい魔女。どういう事だ?」
「なんとゆーか、相棒がいる」
「相棒?」
「普通は誰にも見せないんだけどお姉さんと司教様なら大丈夫そうだし紹介するね」
サクラはそう言って毛皮を身体から離した。
ロゼはリンドウの事を知っている。もちろん毛皮を被り変化した姿も知っている。あの時はかなり驚いたのは今では良い思い出だろう。だからそれをこれから見るシェルも驚くだろう。それを想像してロゼはほくそ笑んだ。
しかし、ロゼの期待は裏切られる事になる。
「ちょっと大きいし、みんな驚いちゃうから気をつけてね」
シェルだけが訳がわからずに首をかしげる。
サクラはバサリと自分の目の前に毛皮を広げ、名前を呼んだ。
「ロキ、おいで」
すると今までただの毛皮だったものが、生前の立派な狼の姿へと戻ったのだ。
「「いっ!?」」
二人は声をあげて驚く。まず毛皮が狼に戻ったこと。そしてその大きさ。
ロキと呼ばれた狼の目線はサクラと同じだったのだ。普通の狼の何倍もの大きさがある。こんなものに森で遭遇したら命を諦めざる負えないだろう。
「ロキっていうの。噛みつかないから大丈夫だよ」
そんな事を言われてもシェルは安心できる気がしない。一方ロゼはというと過去を見る目でロキを見ていた。




