第十五話
シェルは後ろ頭を掻きながら目を閉じている。言葉を探しているのだろう。
「お嬢さん」
この声と表情からは冗談の雰囲気は感じられなかった。
「教会と魔女の和解は無理です。お互いに血を流しすぎていて収拾は絶対につかないでしょう」
そこで一度言葉を切った。あまり言いたくはない。ガラにもない事をするタイプじゃないのは自分がよくわかっている。しかし、ここで嘘をつくわけにはいかなかった。
「教会と、は無理でも、人間と魔女なら……まぁ」
それを聞いて驚いたのはサクラではなくロゼの方だった。まさか教会の人間がそんな事を言うとは夢にも思わない。
「これは驚いたなシェル司教殿。司教を辞めるのか」
「辞める訳ねーだろ。深堀してんじゃねよ」
ロゼは眼を閉じて地面を見てクツクツと笑う。どうやらこの司教は本当に魔女に理解があるようだ。司教になる前に魔女と接点があったのではないかと思えるほどに。
「司教様、司教様はやっぱり良い人ね」
サクラは微笑んだ。
「あくまで、あくまで、ですから。そこ間違えないようにしてください」
「魔女も元は人間だよ。教会の人たちも人間。仲良くできないはずがない」
そう言われてロゼと司教は押し黙る。確信をつかれたかのようなセリフだった。元は同じ。少し人生の道がずれただけだ。それだけでお互いを分かり合えないはずがない。サクラはそう主張する。
「二人がそれを証明すればいいんだよ。そうすれば世の中もっと平和になると思わない?」
もう口ではサクラには勝てない事を理解した二人は視線を合わせる。
「またとんでもない事を言い出したなサクラ。両親の顔を見てみたいものだよ」
「見た事あるでしょ?」
「あぁ。もう一度あって娘の成長を話してやりたいね」
サクラはそれに答えることなく笑う。
どうやら話はまとまったようだ。自然と三人の足は前へと進みだす。




