第69話 奇跡じゃなくて土魔法なんですが
「どうせ、奇跡なんて起こせないだろ。そんな舞台いらないじゃないか。私が壊してあげましょう」
「何をする!そんなことをしたらドラゴ大神の怒りにふれるぞ」
あ、大神官さん、本気で怒りだしてしまった。
罰当たり男は、不遜に笑い始めた。
「ほぉ。神の怒りとな。きっとすごいパワーがあるんだろうね、神官さんよ」
「当たり前じゃないか。昔からドラゴ大神の怒りに触れると大変なことが起きると言われておる」
うーん。そういうの、この手の男には効果ないんじゃないかな。
たぶん、そこそこ上級の冒険者じゃないのかな。
「あいつのこと知ってる?」
「ええ。いつも自分勝手にふるまって嫌われ者の冒険者よ」
「ランクは?」
「あんな奴だけどB級なのよ」
あんな奴でもB級になれるのに、と顔に書いてあるな。
もっとも、たかがB級。SSS級の土魔法に敵う訳ないわな。
「それじゃ、ドラゴ大神の怒りという物を見せてもらおうか」
そう言い放つと、罰当たり男は身体に魔力を巡らせ始めた。
みるみるうちに筋肉が盛り上がり、鈍く輝きはじめる。
「うわ、あいつ。魔法を使えるのか?」
「ええ。身体強化だけは。ただ、その身体強化は大したものよ」
罰当たり男は椅子の下から大きな槍を出してくる。
その槍を大きく振りかぶって構えた。
「さて。神官さんよ。いまのうちなら、『すみません。ドラゴ大神よりあなたの方が偉大です』と言えば許してやらんこともないが」
「ふざけるな。ドラゴ大神と比べるとはあまりに傲慢」
確かにそうなんだが。しかし、大神官さん。このままだと舞台もあなたもめちゃくちゃにされてしまうよ。
建前じゃなくて、ちゃんと考えましょうよ。
「わかった。ドラゴ大神ともども、お前も滅びたいということだな」
「なんだあれ?」
観客席の後ろあたりで青くキラキラ光る何かが見える。
「えっ、何?」
「も、もしかして。ドラゴ大神の使いか!」
やってみたかったんだよね。こういう役。
怪獣映画によくいるよね。びっくりしているふりして解説しちゃう端役の人。
「ありがたや。ありがたや」
「き、奇跡だ」
「ドラゴ大神が今、復活しようとしているのか」
盛り上がる観客に反して、罰当たり男はそんなの気にする様子はない。
「ほう。それがドラゴ大神の使いなら、まずはそいつから退治してやろう」
やった。はまった!
これでやりたい放題できる。
《青龍イメージ設計:像創造》
残念ながら、魔石までは用意できないからゴーレムにはできない。
ただの土魔法で動く青龍像でしかない。
「でたな、ドラゴの使い。俺の槍を受けてみろ」
《青石周回飛翔》
青龍の像にしても、今、その周りを飛び回っている物にしろ。
全ては青石でできている。
依頼の青石を採取したとき、おまけでアイテムボックスに入れておいた青石だ。
「なんだ、それ。本体を守っているつもりか?」
罰当たり男は気にしないで飛び回る石の中に突入して、青龍像に槍をぶつけようとする。
《ターゲット固定:青石密着拘束》
罰当たり男をターゲットに指定して、青石をターゲットの身体中に密着させた。
同時に青石と青石の間を結合して、罰当たり男を動けなくする。
「なにをする。離せよ」
騒ぎたてるが、青石で身体中を包まれてしまっている。
青石製包帯のミイラみたいになっている。
「ドラゴ大神様、ありがとうございます」
ここから先は街警備隊の仕事だな。
どうせ動けないから、これ以上悪さできるとは思えないし。
「あれ、土魔法よね。本当に便利ね、土魔法」
さすがに女剣士にはバレてしまったらしい。
「あれ?あのドラゴ大神の使い動いてない?」
「そんなはずは・・・ただの青石で作った像だから・・・あれ?」
確かに動いている。
ゴーレムではないから、魔法で指示ださないと動かないはずなのだが。
全く魔法を使っていないのに、たしかに動いている。
どうしてだ?
楽しく書いて、楽しく読んでもらえるとうれしいです。
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