第63話 ミントが天使に見えてきた
「団地の子供達、身体中、あちこちに傷があるの」
ポーションを渡してきて、帰ってきたミントが暗い顔で報告する。
「その中の一人が特にひどい傷があって、化膿しちゃっていたから、2本目のポーションを使ったの」
「2本、持っていった甲斐があったね」
「子供でも冒険者をするのって、本当に大変なのね」
「本当は防具を用意する方がいいけど、すぐに大きくなるから買ってられないっていうのがあるからね」
靴でもきっちりとした物は毎年買い換えないといけない。
身体に合わせた調整が必要な防具となると、すぐに小さくなってしまうので買うのは難しいだろう。
「なんとか、できないかしら」
「私が作ってみるか」
「できるの?」
土魔法使いに何ができるのか。
知らない人が多いから、ミントが知らないのは当然だろう。
土魔法使いは、土や石を使った物なら大抵は作れる。
たとえば、土から作る陶器は土魔法を使えば、乾燥や焼きの手順が不要で一瞬で作れてしまう。
もっとも、世の中の土魔法使いは、あまりレベルが高い人がいないから、できるのはレベルが低くてもできるレンガだけと言われてしまう。
さらにレベルがあがると、セラミックも作れるようになる。
土魔法で陶器を焼くのと同じ様にセラミックを焼くことができる。
陶器とセラミックの違いはセラミックの方が純度が高いということ。
この世界では紙はあまり普及してなくて羊皮紙が一番使われている。
ただ、紙にしろ羊皮紙にしろ、価格は高い物が多い。
だから、私は情報を記録するのに、土と魔法だけで作れるセラミックシートを使っている。
セラミックシートは純度が高いと薄くすることができるから便利だ。
今回、ミントが依頼している子供の冒険者用の防具は基本的にセラミックが主体になる。
ただ、セラミックの弱点は力が加わると割れてしまうこと。
そこで、私はシリコーンとの組み合わせで考えている。
シリコーンとは、シリコンゴムとも言われていて、石の主材料のひとつケイ素の有機化合物のこと。
シリコーンは耐熱性があり弾力性もある素材になる。
材料は石と空気中の酸素だから、土魔法で簡単に作れる。
シリコーンとセラミックをうまく組み合わせると、防具として性能が高いものができるんじゃないか。
そう思っている。
複合装甲みたいなものだ。
「まずは、ミントをモデルに作ってみるか」
「えっ、私?私も冒険者するの?」
「ミントは駄目だよ。そんな危ないことさせられないって」
うーん。どうもミントをみていると過保護になってしまう気がする。
お願いされるとなんでも作ってしまうし。
ミントが困っている顔していると、すっきりさせたくなって仕方ない。
実際、団地の子供達は、私が大家さんだ。
再開発のため住む場所を失う人達に住居を提供する。
無理なく払えるくらいの低額家賃で貸している形にしている。
所有権にするといろいろと問題が起きてしまうからだ。
そこに住む子供達も私の店子だが、今までは彼らの生活までは関わらないようにしていた。
単に面倒くさいだけだが。
ミントから頼られてしまうと、なんとかしてあげなきゃいけない気になってしまう。
美少女のパワーなんだろう。
「もしかして。ミントは天使なのかもしれないね」
「えっ、私は天使ですよ」
愛玩用の女奴隷の天使ではなく、ただいるだけで良いことが起きてしまう神の使いの天使。
ミントは天使、そんな気がする。
天使と一緒にいる私にも、何かいいことが起きるかもね。




