第293話 土魔法鉛筆とノートの使い勝手はどうだろう
「なんだ、これ」
「これは鉛筆といます。こうやってナイフで削るんです」
あ、ナイフは使ったことないかな。
と思ったら、何人かの孤児は料理の手伝いで使ったことがあって、意外と器用に鉛筆を削っている。
「これでいいのか?」
「ええ。それをこっちのノートにこうやって」
「おおーー、なんか書けるぞ」
「木炭のようなものか?」
「全然違うぞ。こんなに細く書けるんだ」
「すげー」
鉛筆は見たことがない孤児たちは大騒ぎ。
まぁ、孤児だけでなくこの異世界の人は、みんなそうか。
「はい。みんな、注目! これから字を書く練習をするよ~」
「字? 字の書き方を教えてくれるのかー」
「すげー」
「俺たちも字が書けるようになるのか」
「やったー」
この街では、字が書けるのは、教育を受けている市民層と商人だけ。
スラムの住人だった人や貧困層の多くは字が書けない。
下働きや肉体労働なら字が書けなくても困らない。
だけど、ちょっと良い仕事をしようと思うと字が書けないと仕事に着くことはできない。
字が書けるかどうかで、できる仕事に制限が出てしまう。
だから、貧乏人の親に生まれた子供は貧乏な暮らしになってしまう。
例外が冒険者だが、命を賭けた仕事だから、危険と隣り合わせという条件が付く。
「字が書けるだけじゃないぞ。計算も教えるぞ」
「計算! それってスゲーあれだろう!」
「そうだ、計算ができるようになると学者になれるんだぞ」
それはオーバーだね。
計算できるだけじゃ、学者は無理だ。
「それじゃ、まず名前を書いてみよう」
「名前! 自分の名前を字で書くのか」
「そうだ。自分の名前を書けるようになると、かっこいいだろう」
「かっけー」
自分の名前が書けるとどんないいことがあるのか。
冒険者として登録できると言いかけて、冒険者になるには字は書けなくても良かったと思いだしてしまった。
他にどんないいことがあるのか…思いつかなかったから、かっこいいで誤魔化してみた。
「順番に名前を言ってください。僕がノートに書いていきます」
「僕はジャンだ。おおー、これが僕の名前かっ」
「そうですよ。ジャンっていうのはこう書くんです」
「すげーーー」
今、ここ、食堂に集まっているのは孤児が15人ほど。
他の孤児たちはお手伝いとかをしている。
この15人の名前を順番に書いていく。
さすがに15人もいると、大変だな。
転生前の小学校の先生は30人以上を受け持っていたな。
尊敬するな。
ただ、この世界の孤児たちは勉強するのか楽しそうだ。
嫌々勉強している子供達より、ずっと向上心がありそう。
「自分の名前は書けたな」
みんな見よう見まねで書いている。
始めて持った鉛筆だから下手だが、まぁ、読めないことはないって感じの字がノートに書いてある。
「後で自分の名前を10回書いてくださいね。練習だから」
「「「「「「はーい」」」」」
素直な生徒はいいなー。
キラキラした目で見てくれるしね。
こうして、ノートと鉛筆を使った最初の授業は進んでいった。
あ、定規とかは全然使わなかった。
まだ、必要なかったなー。
シリコンゴムの消しゴムはいまいち消え方が弱い。
もっと、研究しないとな。




