第274話 画家サロン
「馬列車につけるマークを描いて欲しいんです」
「マーク?」
赤毛画家に依頼してみた。
ただ、マークと言ってもどんなものか分からないだろうから、
口で説明するより、実物を見てもらうほうが早いと作ってみた。
「こんな感じのものなんですが」
材料がないから、そこらの土で作った。
色が白くならなくて、茶色だけど円盤系のテールマーク。
だいたい直径が15センチくらいだから、実物の1/5くらいだね。
「うわ、なんと!いきなり出来たね。魔法なのかな」
「ええ。土魔法です。それはおいておいて、ここに絵を描いて欲しいんです。疾走する馬の絵を」
「あ。そういうことね。それなら、私より上手い男がいるよ」
「ほう。お前より絵が上手いのがいるのか?」
白狼娘が反応した。
最近、絵に興味が出てきたみたいだ。
いままでは、食べることや狩りにしか興味を示さなかったのにね。
もっと上手い人がいるならその人に頼むのはどうだろう。
「その人に会えますか?」
「いまなら、ジーナス男爵夫人のサロンにいると思うけど」
「男爵夫人?」
「絵画が好きな方で、僕ら絵描きのたまり場になっているんだ」
「私達も行っていいですか?」
「はい」
赤毛画家に連れられて、商業地区の裏通りにあるジーナス男爵夫人のサロンに行くことになった。
サロンというのは、貴族の夫人が開いているコミュニケーションスペースのこと。
まだ、売れていない絵描きが集まる場所になっている。
男爵夫人も絵が好きなんだろう。
サロンについて、サロンの扉についているノッカーを叩くと、上品そうな女性が出てきた。
「こんにちは、男爵夫人。みんな、来ているかな?」
「ええ、来ているわ。こちらの美しい方は?」
白狼娘を見ている。
男爵夫人から見ても、白狼娘の美しさは特別感があるのだろう。
「絵に興味ある方なので、お連れしたんだ。いいよね」
「もちろん、絵に興味ある方なら歓迎よ」
男爵夫人に案内された先は、ちょっと広い部屋だった。
10人くらい掛けられる大きな円形テーブルが部屋の真ん中においてある。
そのまわりに、若い男が3人ほどいて、一枚の絵を見ながら議論している。
「あー、確かに上手い絵だよ、これは。ただ、それだけ。私はそう思うな」
「そうかな。上手いだけではないと私は感じるんだな。この踊り子の表情が…」
熱中している男達の視線が部屋に入ってきた白狼娘に集中する。
「誰かな。この美しい方は?」
「絵に興味があるから遊びに来たお嬢さんよ」
「それは素晴らしい。まさに絵になるほど美しいお嬢さんだ。僕の絵のモデルになってくれないか?」
「いきなり、そういうこというんじゃないのよ」
やらたと着飾っているチャラい感じの画家が男爵夫人に言われている。
「お嬢さん。自由に絵を見てくださいね」
夫人が言うように、この部屋にはたくさんの絵が掛けられている。
風景や動物、中にはポーションの様な道具の絵もある。
「面白い絵が多いな」
「そうでしょう。この絵なんて…」
早速、チャラい画家が絡んでいる。
白狼娘はそいつに任せて、私はマークを描くのがうまいという男を紹介してもらった。
「はじめまして」
「はじめまして」
「それで、どんなのを描いたらいいんですか?」
「これなんですが」
先ほど作ったテールマークの円盤を見せる。
「ここに、疾走している馬を描いて欲しいんです」
「大きさはこのくらい?」
「いえ、この5倍の大きさです」
テールマークのことを話していると、白狼娘が一枚の絵を持ってくる。
「この絵、いいと思わないか?」
朝の水道橋を描いた絵だ。
朝日を浴びる水道橋が美しく表現されている。
「あ、それ。僕の絵です」
連れてきてくれた赤毛の画家だ。
「好きなんだ、水道橋。もう3枚描いている」
「水道橋は私の作品です」
「えっ、僕の作品だけど?」
あ、誤解されてしまった。
絵は君のだよね。
「水道橋は私が作りました」
「ええーー、じゃあ。噂の土魔道士さんですか!」
驚かれてしまった。
水道橋が好きだと言ってもらったから、ついつい自慢してしまった。
「その絵って、買うことはできますか?」
「あー、どうでしょう? 男爵夫人さん?」
男爵夫人の預かっている作品らしい。
男爵夫人が買い取っている訳ではないけど、画廊としてもこのサロンは利用されていて、この作品は画廊預かりになっているらしい。
「気に入られてのなら、お譲りしましょう。金貨5枚になりますが」
「ええー。そんな値段。無茶だよ」
「何言っているのよ。それだけの価値がある絵だわ」
白狼娘と相談して、その値段で買い取るとこにした。
「我はこの絵が好きだ」
「そうよ。好きな絵を買うのがいいのよ。難しく考える人、多すぎだわ」
なんか白狼娘は男爵夫人と仲良くなっているようだ。
「そうだわ。馬列車のテールマーク。みんなで競作したらどうかしら」
「あ、それもいいですね」
ここにいる4人の画家と他にもこの男爵夫人のサロンの常連の画家が3人いるらしい。
その7人がそれぞれテールマークを描く。
私と白狼娘、そして男爵夫人が審査員になって選ぶ。
審査は三日後。
そんな話が男爵夫人の一言で決まってしまった。
絵描きバトルだぁー。
白狼娘も、主人公も絵は下手だから参加しないけどね。




