第268話 高級ランチを食べよう
「いらっしゃいませ。どうぞこちらへ」
案内されたのは店の一番奥にある横並びの二人席。
カップルシートという感じだね。
席の前は大きな窓になっていて、ガラスがはめてあって、外が見える。
「あ、壁の外まで見える」
モールの3階は普通の建物だと5階くらいの高さがあるから壁の外まで見える。
ここからは神秘の森が見える。
「特等席ね」
「そうだね」
ぴしっとした濃紺の制服を着たイケメンのウエイターがメニューを持ってきた。
大きめの金のボタンがカッコいいね。
分厚くてどっしりしたメニューだ。
「どれどれ」
メニューを見てみると、ひとつしか書いてない。
「特選ランチ 金貨1枚」
高い!
もちろん、今の私には全然問題がない値段だけど庶民にとっては10日分の賃金くらいだ。
「特選ランチを2つとお勧めのぶどう酒をグラスでふたつお願いします」
「ぶどう酒ですか。ランクはどのくらいに致しましょう」
きっと、高いのは驚くほど高いのだろう。
「中くらいのもので、特選ランチに合うものを選んでください」
うん、ちゃんと高級店に慣れているふりができているつもり。
ミントは、高級店が珍しいのか、キョロキョロしている。
そういえば、白狼娘は貴族の友達がたくさんいるから、高級店もよく行っているみたいけど、ミントは初めてかな。
「なんか、お金持ちになった気分がするね」
いやー、お金持ちなんだけど。
このお店だって、モールの中にあるんだからオーナーは私みたいなものだしね。
「だけど、あまりお客さん入っていないのね」
「串焼き屋はすごく繁盛していたけど」
そんな話をしていると、ワインとオードブル三点盛りが運ばれてくる。
色々な野菜をゼリーで固めたもの、エビとキノコのオイル茹、パテの生ハム包み。
うーん、ひとつひとつ手が込んでいるな。
「おいしいっ」
「うん、うまいですね」
制服ウエイターさんに話しかけてみる。
「このお店はあまり繁盛していないのですか?」
「この時間はまだ少ないですね。ランチと言っても夕方までやっていますから」
ディナータイムの前がランチタイムで、遅めの時間の方が人気らしい。
「最近はデートのお客さんも増えました。デートスポット認定されているみたいなんですよ」
確かに。
高いけど、男がちょっとかっこつけるにはいいお店だね。
「いかがですか?」
「おいしーい」
「それはよかった」
オードブルを一気に食べてしまったミントが嬉しそうに言っている。
気に入ったみたいだから、また連れてこよう。
「これは、モールオーナーさん。ご来店ありがとうございました」
このお店のオーナーシェフが挨拶にやってきた。
本店のシェフの弟さんだという。
「お店はどうですか?」
「私のわがままを聞いてもらったので、評判いいんですよ」
たしかに、オーナーシェフの内装の依頼は細かかった。
土魔法で出来るとこは、私が直接造りこみしたんだ。
その後、いろんな職人の手が入っているので、出来上がったお店を見るのも楽しいな。
「それではごゆっくりしていってください」
次々と運ばれてくる料理をミントと私は完食した。




