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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Construction――施工
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魔法の灰の使い方

「……お爺ちゃん、少しだけ手で掬って、平地の方に撒いてみてくれるかな?」

「む……そりゃあ構わんが」


 センテオトルの勧めに、では失礼して、と灰を一掬いし、ナリーは中庭に向けて振りかぶった。


「とりゃっ」


 投げつけた灰は風に乗り、中庭に散っていった……直後。


 ゾワリ。


 荒涼としていた中庭に、一気に緑が増えた。


「っ!?」


 ナリー達は驚愕する。

 中庭全体から言えば、ごくまばらだが、それでも明るい緑色が増えた事は間違いない。

 ナリーがやった事は、ただ灰を撒いただけなのにだ。


「ね、驚いたでしょう? そこでおじいちゃん達に相談があるんです」

「な、何じゃ?」


 グリューネの頭に乗ったリス(センテオトル)の提案に、ナリーは身構えた。

 センテオトルは構わない様子で、話を続ける。


「これがあれば、村の不作の不安も解消出来るよね」

「そ、そりゃそうじゃ……こんなとんでもないモンがあれば、農家は怖いモンなしじゃて……」

「全部は無理だけど、この魔法の灰を村に分ける事は出来ます。だけど、配るのはこのダンジョンのマスターです」

「ウ、ウノ殿か。そりゃまたどうしてじゃ?」


 分けてくれるというセンテオトルの台詞に一瞬絶句したナリーだったが、後半の疑問が気になった。


「村の人達はまだ、ここの事をよく知りませんし、マスターの事も知らないそうですね。獣人が何を考えているのか分からないって人は、多いと思います」

「ふむ、そりゃあるの」


 現在、村の商店関係は、気前よく商品を買ってくれたウノ達に好意的だ。

 門番、冒険者ギルドや、そこに依頼した者達も同様。

 しかし村全体で見ると、それでも一部に過ぎない。

 ハッスとの諍いで手を出さなかった事を評価する一方、まったく攻撃を受けない身のこなしに脅威を覚える者だっていたのだ。


「一度接すれば、そんな怯えるような事もないと思うが」

「んだ。ここ、飯も旨ぇだよ」


 センテオトルは我が意を得たとばかりに、小さな手(前脚)を叩いた。


「まさしくそれです。村の人達と接する機会としたいのです。そしてこの灰は、マスターとバステトちゃんが頑張って作ったモノなのです」

「ふぅむ、ならば本人が配りたいというのは、当然じゃの」

「それもあるんですけど、このままお爺ちゃん達が持ち帰ったら、多分お爺ちゃん達の手柄って印象が強いじゃあないですか」

「ほう……言われてみればそうかもしれんの」


 ナリーも、センテオトルの言いたい事が理解出来た。

 つまり、手柄は灰を作った者が得るべきだ。

 それは筋が通っており、ナリーとしても文句はない。

 ましてやその相手は、自分の恩人である。


「よかろ。撒くのは儂らでよいのかの?」

「うん、実はこの灰、お爺ちゃん達が撒かないと効果がないんです。若い子や女の子では駄目です。……この灰の名前は『犬の灰(ハナサカジイサン)』と呼ばれるモノなのです」


 センテオトルによれば、亡くなった愛犬の遺骸を燃やして出来た灰を、土に帰そうと振りまいたところ、灰の掛かった近くの樹が一斉に花開いたという伝承があるのだという。

 実際はもうちょっとややこしいのだが、大筋的には間違っていないはず……らしい。

 そしてそれにちなんで、この灰は作られたと、センテオトルは言う。

 つまり材料の核となるのは、犬の肉体、もしくは遺骸。

 村の冒険者ギルドで野犬狩りの依頼をウノが探したのも、その一環だ。

 この灰には、ウノ自身の髪や爪も含まれている。

 もちろんそれだけでは全然量が足りないので、通常の草木灰などで水増しされてはいる。

 ただこの材料の話自体、センテオトルは秘匿としたいようだ。


「だって、この話が有名になったら、野犬とかならまだしも、牧羊犬や番犬までさらわれる事件が続発しちゃうでしょう?」


 なるほど、言われてみればそれはあり得る。

 ナリー達は、このことを誰にも話さない事を、ナリーと約束した。

 そしてやるべき事を、整理する。


「では、ウノ殿が灰を配り、そのデモンストレーションに儂らが畑に灰を撒くという流れではどうかの?」

「それでいきましょうなのですっ! 村には、グリューネちゃんも一緒に行くのです」

「ボクも!?」


 頭上からの天啓じみた神の発言に、グリューネは座った椅子からひっくり返った。

 センテオトルはその場で素早く跳躍し、倒れたグリューネの仮面の上に再び着地した。


「ゴブリンの印象も、少しよくするのです。がんばるのです」

「か、神さまのお言葉……ボク、やる!」


 グリューネはセンテオトルを両手で捧げ持ち、起き上がった。


「うん。さあ、中庭の整備も忙しくなりますっ。みんな、しまっていきましょうー!」

「お。おー」




「張り切ってんなあ……さすが、効果は抜群のようで」


 斜面を登りながら、ウノは中庭を振り返った。

 草木の神であり小さな植物の姿を持ったタネ・マフタと、傍に侍る魔女イーリスの周囲は一際緑が濃い。

 さすがは小さくても神というべきだろう。

 そして中庭全体も、さっきよりもやや緑が濃くなっている。


「にゃあ。中庭が緑でいっぱいになる日も近いのにゃー」

「そうだな……って待て。なんだその後ろにいる奴」


 ウノの後ろを歩くバステト。

 そして、さらにその後ろを黒い山羊がついてきていた。


「見ての通りの黒山羊さんにゃ?」

「めぇ」


 黒山羊が鳴いた。

 まだ小さいようだ。


「だから、どこから出した!? しかもいつの間に!?」

「今さっき、ウチキの友達に頼んで譲ってもらったにゃ。一種の召喚術にゃ。あ、この子はまだ食べちゃ駄目なのにゃ? しばらくすると増殖す(ふえ)るから、バーベキューを開くならそれからにゃ」


 サラッと不穏な単語が聞こえた。

 ……増殖?


「おい、それ本当に黒山羊か? 何か違う生き物じゃないのか?」

「にゃははは。でもウノっちは食べた方がいいのにゃ。色々取り込めるのにゃ」


 またヤバい単語が出た。

 ……『取り込む』って何だ?


「なあ、拒絶反応が起きるとか、異形に変身するとかマジでやめてくれよ……?」

「うーん、あながち間違いじゃないのにゃあ」

「そこは否定して欲しかった!!」


 黒山羊は、そんな二人のやりとりを知るかとばかりに、地面にチョロっとだけ生えた雑草をモグモグと食べていた。

 時間切れでここまで。

 感想の方でネタを振られたので、それも取り込みました。

 続きの短い部分を明日の昼に上げるか、無理だった場合は活動報告にでも書いておきます。ではー。

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