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マイホームは枯れダンジョン  作者: 丘野 境界
Unveiling――お披露目
138/140

中層――商店街

 中庭からダンジョン中層に戻り、ウノ達は参道を歩む。

 目的地は下層の神殿だ。

 まだ入場前なので、人気はまばらだが、詣でる人以外は忙しなげに行き来している。

 当然このダンジョンの家主であるウノや、神であるバステトの顔を知らない者は皆無であり、すれ違う人皆と挨拶するのも日常となっていた。

 そして、中央の大部屋に近づき、ふとウノは空腹感を憶えた。


「そういえば、まだ朝飯を食べてなかったな。自室に戻るのも面倒だし、今日は適当に何か買って食べるか」

「たまには、そういうのもいいですね」

「屋台はまだ準備中にゃから、コンビニを使うのにゃー」


 中央の大部屋は、この中層の中でも最も賑わっていると言ってもいいだろう。

 参拝者向けに用意された、商店街だ。

 高い天井には白く輝くスライム達が張り付いたまま眠り、他にも精霊達が空中を漂って、明るい光を放っている。

 部屋の端には屋台の数々がズラリと並んでおり、既に名物となりつつある黒山羊の串焼き肉や焼きトウモロコシなどの食べ物を売っている店は多い。

 ただ、さすがにこの時間はまだ、仕込みの段階であり、売っている店はないようだ。

 また、行商人が開いた屋台を借り、持ち込んだ様々な商品を並べていたりもする。

 その場所代は当然、ウノの懐にも入る事となり、実際それなりの蓄えも出来つつあった。

 さて、まだ食べ物を扱う店の準備は出来ていない……が、例外がある。

 それが、中央大部屋に二つある、屋台ではない通常店舗の一つ、バステトの言うコンビニ『マイティマート バストの洞窟支店』であった。

 屋根こそあるモノの、壁はない変わった造りの店だ。

 長細い店舗の中には三列の棚が並び、雑貨や生活用品、筆記具、薬草類、携行食品、武器に防具といった雑多な商品が所狭しと並べられている。

 そしてマイティマートでは、この時間でも食品を取り扱っていた。

 というか、一日中開いている。

 おそらくこの世界初のオールタイム営業の店舗であった。


「しかしまあ、これ俺ノータッチだけど、ちゃんと運営出来てるのか? こっちとしては、夜中でも買い物出来て助かるけど、働いている人達に倒れられたら堪らないからなあ」

「問題ないのにゃ。ちゃんとローテーション組んでるし、搬入も連動してるのにゃ」

「それならいいけど」


 この店を作ろうと言いだしたのは、バステトだ。

 ちなみに作った最大の動機は夜中に話し相手がいないと、寂しいのにゃあという今でも本気かどうかよく分からないモノだった。

 なら、警備班の詰め所にでも通えばいいんじゃないかとも思うが、実際深夜帯におけるこのコンビニ最大のお客様は、バステトをはじめとする神々なので、割と本気だったのかもしれない。

 それを抜きにしても、日常でほとんど使う道具や消耗品を手に入れる場所があるというのは、ありがたい。

 シュテルンは「ここはいわば主様の家の中ですし、いっそタダでもよいのでは?」と疑問を挟んだが、それはそれ、これはこれとウノは分ける事にしたのだった。


「っていうか、客多いな」


 混雑と言うほどではないにしても、それなりの人が入っている。

 特に人気があるのはやはり、食糧のコーナーだろう。

 パンや飲み物を手に取り、カウンターには数人の列が出来ていた。


「そりゃもう、時間が時間なのにゃ。朝と昼と晩は、すんごい混むのにゃ」

「……それは、四六時中忙しいという事では?」

「違うのにゃ。ご飯の時間が特に混むのにゃ。それに、深夜とかは逆に暇なのにゃ」

「ああ、なるほど」


 そろそろ列が伸びてきて、店の端まで届きそうになってきた。


「おおーい、もう一つ精算頼む」

「あいよー」


 それまで商品を並べていた店員が、急いでカウンターに戻る。


「お、ヘルプ入った。さすがに今は、売り子が一人じゃきついよな」


 陳列の方も、急がないとあっという間に商品がなくなるので手が離せなかったのだろうが、それでも今の緊急はカウンターの方だろう。

 ウノ達も並び、やがて自分達の番が来た。

 さっきまで陳列を行っていた店員で、見覚えのあるモジャモジャ頭だった。

 ずいぶんと痩せて不健康そうにも見えるその青年は、このダンジョンを襲った四人の内の一人、ハッスだった。

 向こうもウノ達に気付き、何とも微妙そうな顔をした。

 ただ、悪態をつかないだけ成長したとも取れる。


「そんな顔するなよ。別にからかいに来た訳でもないし」

「……あんまり、見られたくねえんだよ。色々と複雑な心境でな」


 ばつの悪そうな顔をしながらも、手は休めない。

 この辺り、大分訓練されてきたようだ。


「ハッシー、お客様には笑顔なのにゃ」

「待て神様、それは酷すぎる」

「お客様は神様なのにゃ」

「アンタ神そのモノだよね!?」


 ハッスも他の三人と同じように無給ではあるが、三食昼寝付きの待遇であり、働き次第ではその無給期間も短縮される事となっている。

 ただ、イーリスの家の放火未遂の件もあり、その期間はかなり長い。

 これに関してはハッス自身も思うところがあるのか、休みの日になると中庭でイーリスの指導の下、庭園の世話も行っているという。

 再びここで暴れる……という事は、おそらくない。

 何せ、信仰する神のお膝元である。

 やりようがない。

 また、たまに父親であるテノエマ村の村長も、顔こそ合わせないものの、こっそり様子を伺いに来ているらしい。




 大部屋の中央には噴水の周辺にテーブルと椅子が並べられ、屋台で買った食べ物を座って食べられるようになっている。

 ウノは黒山羊肉のハンバーグ。

 シュテルンは蒸し鶏。

 バステトは魚のミンチ。

 ……を、それぞれ別に買った、中央に切り込みの入ったパンにサラダと共に挟んで食べる。

 飲み物は全員、葡萄水だ。


「うにゃ、てるんそれ、共食いなのにゃ」

「……私、鷹だった頃から普通に鳥も狩って食べてましたよ?」

「鳥が鳥を食べるからって、共食いとは言わないだろ、神様」


 論破され、バステトは額をペシリと叩いた。


「にゃー、そりゃ迂闊にゃ」

「にゅむ」


 ジャケットに擬態したマルモチが、袖から触手を伸ばして主張してきたので、ウノは別に買っておいた品をテーブルに置いた。

 木のカップに入ったそれに、触手が伸びて舐め始める。


「マルモチはゼリーな。……共食い、じゃないよな?」


 食べ終わったゴミは、設置されているゴミ箱へ捨てる。

 どうせ周辺のスライム達が食事として落ちているゴミも食べてしまうのだが、子供達への躾けも考慮に入れて、そうする事に決めたのだ。

 少し遅い朝食を終え、ウノ達は屋台を見て回る。

 そして。


「……また、神像とお守りが増えてる」


 下層祭壇と連動した中央大部屋に二つある、通常店舗のもう一つ『神籤屋』であった。

 ここでは、神々の神像をメインに、護符、店名通りのおみくじなどを販売している。

 何せ神が直々に加護を施しているのだから、効果は抜群だ。

 ただ、量産は出来ないので、午前と午後に分けてはいても、大抵最後は品切れになっていた。


「魚人の神と山妖精(ドワーフ)の神が顕現しちゃったからにゃあ。水神と酒神とはまた、えらく相性のいいのが同時に生まれてるのにゃ」

「マジでどれだけ神様増えるの、ここ?」

「にゃあにゃあ、寝床は皆、下の祭壇にゃし、暮らすには家主の迷惑にはならないのにゃ。好き勝手動くペットが増えたとでも思ってればいいのにゃ」


 まあ、実際邪魔にはならないから、ウノとしても特に文句はないのだが。


神様(アンタら)をペット扱いしたら、色んな意味で社会的に抹殺されそうな気がする」

「最低でも、神に対する侮辱と幼女趣味の意味で破滅ですよね……もちろん私は、主様にそのような趣味がないことは、存じておりますが」


 なんて事を話しながら、ウノ達は下層へと向かうのだった。

 ここでのコンビニは、駅の大きめの売店をイメージしてもらえれば分かりやすいと思います。

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