【バレンタイン番外編 3】止まらないドキドキ
「うん、本当に美味しい。紅茶にもピッタリだな。ヴィオラは食べないのか?」
「これは、キール様のために作ったので、私はいいのです」
「……そうか。それなら、一緒に食べよう。一人で食べるより、二人で食べた方がさらに美味しい」
「えっ、でも」
「これは俺にくれたんだろう?その俺が一緒に食べたいって思うんだ」
そう言って、キールはヴィオラからお皿を受け取ると、ケーキを一口フォークで取ってヴィオラの口元へ差し出した。
(えっ、これは、やっぱり私にもあーん、ですよね?)
ヴィオラはキールの顔を見つめると、キールは嬉しそうに頷く。ヴィオラは少し照れながらも、キールから差し出されたケーキを口に含んだ。ちょっと大きめだったそのケーキを、ヴィオラは何とか口に入れる。
(わあっ、自分で言うのもなんだけど、美味しい!)
その美味しさに目を輝かせ、思わず両手を頬に添える。心の底から美味しいという表情をするヴィオラを見て、キールは優しく微笑んでいた。
「美味しいだろ?」
「はい、とっても!美味しく作れて、キール様にも喜んでもらえて本当によかったです」
うふふ、と嬉しそうに笑うヴィオラの顔に、そっとキールが顔を近づける。
(え?キール様?)
ヴィオラの顔のすぐ目の前までキールの顔がやって来たかと思うと、キールはヴィオラの口の端に唇を近づけて、ペロリと舌で舐めた。
(えっ、ええっ!?)
突然のことにヴィオラが顔を真っ赤にして茫然としていると、キールは顔を離してからフフッと笑う。
「口の端に、チョコがついていたぞ」
「あっ、えっ、そうなのですね!?ありがとうございます……!」
(は、恥ずかしい!いつもキール様に翻弄されてばかりだわ……)
ヴィオラは顔も熱いし心臓がドキドキして今にも口から飛び出てきそうなのに、キールは平然としてまたケーキを食べ始めている。自分だけがドキドキしっぱなしでなんだか悔しい気持ちになって、ジトっとした目でキールを見つめてしまった。それに気づいたキールが不思議そうな顔でヴィオラを見返す。
「どうした?」
「いえ、あの、なんだか私だけドキドキしてキール様に翻弄されてるみたいで、なんだか悔しいと言いますか……」
ヴィオラの返事に、キールは目を丸くする。それから、ふはっと嬉しそうに笑った。
「そんなことを思っていたのか?ヴィオラばっかりドキドキしてると言うけど、俺だっていつも可愛いヴィオラにドキドキしっぱなしだよ。なるべく気づかれないように装ってるだけだ」
「そう、なのですか?」
ヴィオラが意外そうな顔で首をかしげると、キールは頷いた。
「それに、そろそろこういうことにも慣れていってもらわないと。俺たちは夫婦なんだ、いずれキス以上のことだって……って、ヴィオラ?」
(キ、キス以上のこと……!そうよね、夫婦なんだし、そういうこともするのよね)
わかってはいるし、嫌なわけではない。むしろキールとそうなれるなら嬉しい。でも、ヴィオラにとっては初めてのことばかりだし、刺激が強すぎる。顔を真っ赤にしてプルプルと震えるヴィオラを見て、キールは心配そうに眉を下げる。
「ヴィオラ、俺はヴィオラが嫌がることは絶対にしない。ヴィオラのペースに合わせるし、もしもヴィオラがどうしても嫌なら……」
「い、嫌ではないんです!キール様とそういうことになれるのはとても、嬉しいので!」
「そ、そうか」
ヴィオラの勢いに、キールはほんの少し頬を赤くして嬉しそうに微笑む。その微笑みを見て、ヴィオラの胸は大きく高鳴った。
「あの、よくわからないことだらけですし、キール様のことが、その、好きすぎてドキドキが止まらなくなってしまうんです。でも、なるべく早くキール様とそうなれるように、頑張りたいと思っていますので……よ、よろしくお願いします」
ヴィオラが言い終わるかどうかのところで、キールはヴィオラを抱きしめた。
(へ?え?キール様?)
「ヴィオラ、あんまり可愛いことばかり言わないでくれ。歯止めが利かなくなりそうだ」
「えっ?」
「いや、いいんだ。俺の問題だから」
キールはヴィオラをぎゅうっと力強く抱きしめてから、体を離す。そして、ヴィオラの額に自分の額を軽く当てた。
(ち、近い!どうしよう、キール様のおでこが私のおでこに……!でも、暖かくてなんだか、嬉しい)
キールの肌の温もりを感じて、ヴィオラはそっと瞳を閉じる。
「ヴィオラ、俺は本当に君のことが大好きで仕方がない。だからこそ、大切にしたいんだ。君がそんな風に思ってくれて俺はとても嬉しい。ヴィオラ、何度でも言うよ、俺は君を絶対に幸せにする。一緒にずっと幸せに生きていこう」
「……はい!」
ヴィオラが嬉しそうに微笑んで返事をすると、キールも微笑んで額をゆっくりと離した。
「よし、ケーキを食べよう。こんな美味しいケーキ、残すのはもったいない」
「あの、冷蔵庫に入れて明日また食べてもいいのですよ?」
「いや、この量なら全部食べれるし、食べたい。それに、ヴィオラだってまだ食べたりないだろう?」
キールにフフッと笑いながらそう言われて、ヴィオラは照れたように頷いた。そうして、二人は、また仲良くケーキを美味しそうに頬張るのだった。
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