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【バレンタイン番外編 2】手作りチョコケーキの味

 夕食が終わると、いつもキールとヴィオラはパーラーでゆっくり話をする。この日も、二人はその日一日あったことや最近興味があることなどを楽しく話していた。途中でキールは時計を見ると、ヴィオラの手を取る。


「ヴィオラ、少し用を思い出した。すぐに戻るから待っていてくれないか」

「わかりました、お待ちしてます」



 ヴィオラが微笑んでそう言うと、キールはうなずいて立ち上がり、パーラーから出て行った。


(ケーキの準備をするなら、今がチャンスかもしれない)


 キールが戻って来る前に、ケーキを準備しようとヴィオラはこっそり厨房へケーキを取りに行った。パーラーに戻ると、ケーキを切って小皿に取り分ける。事前に準備していた生クリームを添えて、準備は万端だ。


 ヴィオラが準備を終えたちょうどいいタイミングで、キールがパーラーに戻って来た。部屋に入って来たキールの姿を見て、ヴィオラは大きく目を見開く。キールの手には、真っ赤なバラの大きな花束があった。


「キール様、それは……」

「今日はバレンタインだろう。ヴィオラにこれを」


 そう言って、キールは静かに跪き花束をヴィオラへ差し出す。


「愛してるよ、ヴィオラ」

「キール様……!ありがとうございます、すごく綺麗です……!」


 キールから花束を受け取ると、ヴィオラは花束の大きさに驚く。小柄なビオラには十分すぎるほどの大きな花束だった。


「40本のバラだ。バラの本数の意味は知っているか?」

「えっ?色によって意味があるというのはきいたことがありますが、本数にも意味があるんですか!?」


 ヴィオラは恋愛ごとに関することにてんで疎い。驚いてキールを見つめると、キールはフッと笑ってヴィオラを愛おしそうに見つめた。


「40本のバラの花束には『真実の愛』『死ぬまで変わらぬ愛』という意味があるそうだ。俺はヴィオラへ真実の愛と死ぬまで変わらぬ愛を誓うよ」


 キールの言葉に、ヴィオラは顔を真っ赤にする。そんなヴィオラを見てキールは満足そうに微笑んだ。


(キール様、こんなキザなことをさらりと成しえてしまうなんて……本当にかっこいい!どうしよう、胸がドキドキする)


「ありがとうございます!この花束は、少しずつわけて屋敷内のあちこちに飾りますね。そうすれば、キール様の愛を屋敷内のどこにいても感じることができます」


 頬を赤く染めてふわっと嬉しそうに笑いながらそう言うヴィオラに、キールは片手で顔を覆ってうめいた。耳は真っ赤になっている。


「どうしてそんな可愛いことをさらっと言えてしまうんだ……ほんとうに君って人は……今すぐにでも抱きしめたいしキスしてしまいたい、なんならそれ以上のことも……いや、まだヴィオラには早すぎるか」

「???」


 ヴィオラに聞こえないほどの小声でひとしきりうめいた後、キールはふと何かに気が付いてスン、と匂いを嗅ぐ。


「そういえば、なんだか甘くてとてもいい匂いがするな」

「あっ、あの、実はキール様にチョコレートケーキを作ったんです」


 ヴィオラがそう言ってテーブルの方へ顔を向けると、キールはチョコレートケーキを見て嬉しそうに目を輝かせた。


「ヴィオラが作ったのか?」

「はい、キール様と一緒に食べるケーキで、チョコレートケーキはまだだったと思ったので」

「ヴィオラが作ったチョコレートケーキ……すごく美味しそうだ、さっそく食べよう!」


 そう言って、キールはヴィオラの手を優しく掴んで二人掛けのソファに腰を下ろした。


「あの、お口に合えばいいのですが……」


 そう言って、ヴィオラはケーキの乗った皿をキールへ差し出す。すると、キールは、皿を受け取らずにヴィオラを見つめた。


「キール様?」

「ヴィオラに食べさせてほしい」


 そう言って、あーんと口を開いている。キールはヴィオラとケーキやお菓子を食べる時、いつもこれをやるのだ。


(よく求められるけど、何度やってもまだ慣れないし、なんだか恥ずかしい)


 うう、とヴィオラは顔を赤くして小さくうめきながらも、ケーキをフォークで一口大に切ってキールの口元へ持って行った。キールはケーキを口に入れると、目を瞑って味を堪能している。


「どう、でしょうか?」

「うん、とても美味しい。さすがはヴィオラが作るケーキだ。濃厚だけど甘すぎず、これならいくらでも食べられる」

「よかったです……!」


 キールの言葉にヴィオラは目を輝かせて微笑んだ。キールはまた口を開けてねだると、ヴィオラはまたケーキをキールの口元へ運んだ。


(なんだか、照れくさいけどすごく幸せだわ)


 バレンタインという日に、キールが自分の作ったチョコケーキを美味しいと言って食べてくれる。この時間がとても愛おしくて大切で、ヴィオラは胸がいっぱいになった。



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