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ヴィオラを森の中に放置し魔獣に襲わせようとした男に尋問するため、クレストは転移魔法でヴィオラたちと共に王城の一室に移動していた。
「ど、どうして、お前たち、が……!」
身動きを封じられた騎士は驚きと焦りの表情でキールたちを見て言う。そんな騎士へキールは近づき恐ろしい目つきで睨みつけ、まるで黒豹が吠えるように怒鳴りつけた。
「貴様、騎士の制服を着ているが騎士ではないな、見たことがない顔だ。一体誰の差金で何のためにこんなことをした。答えろ!」
キールの気迫に男はヒッと青ざめ怯える。
「洗いざらい話さないと辛いことになりますよ。そうだ、言わずに死のうとしても無駄です、死んでも魂を縛り付け吐かせることができますので。
その場合はその後もずっと魂は縛られたまま天に還ることはできなくなります。嘘ではありませんよ。私が王家の専属魔術師というのはご存じでしょう?私は二百年以上生きているのでそれくらい朝飯前なんですよ。ふふふ、どうしますか?生きたまま全てを話して罪を償うか、死んでもなお魂のまま今生に縛られ続けるか」
クレストが微笑みながら言うが、その微笑みは笑っているはずなのにとてつもなく怪しげで恐ろしい。男はキールとクレストの顔を交互に見ながら青い顔を白くして口をアワアワさせている。
「は、話す、話すから恐ろしいことはやめてくれ……!」
男の言葉にキールとクレストは目を合わせニヤリ、と笑った。
なぜヴィオラの危機にキールとクレストが駆けつけることができたのか。それはヴィオラたちが魔力測定のためクレストに会っていた時のことだ。
キールを良く思わない人間がキールを陥れようとしている、そのためにヴィオラに接触するかもしれないからとエメラルド色に光る石のついたブローチをクレストはヴィオラに渡していた。
「このブローチには探知魔法がかけられています。持ち主の身に通常とは違うこと起こった時、私とキール君に伝わるようになっているのです。もしもヴィオラ嬢に何かあればこれが発動し私たちがすぐに駆けつけます。常に身につけるようにしていて下さい」
その言葉通り、ヴィオラが連れ拐われた時ブローチの魔法が発動しクレストとキールにヴィオラの状況が知らされた。
キールは魔獣討伐のため遠征先に出立していたが、クレストが転移魔法でキールの元へ行きそのまままた転移魔法でヴィオラの元へ駆けつけたというわけだ。
ヴィオラを連れ去り森の中へ放置して魔獣に殺させようとした黒幕は、キールを失脚させたがっている貴族の一人だった。
キールの魔力放出の発作が落ち着いたのはヴィオラのおかげであり、ヴィオラがいなくなればまたキールの魔力放出の発作が再発する。そうなればキールはまた魔力放出するための広大な土地を探さねばならなくなり、土地がなくなればキール自身がこの国に居られなくなると画策したのだ。
キールを陥れようとした貴族はクレストの進言により国王によって厳重に処罰された。国王にとってキールは国を危うくする存在ではなく国を救った英雄なのだ。ヴィオラというキールの魔力を安定させる存在がキールの婚約者としている、そうであればキールを恐れる必要もなく、キールの騎士としての実力を国のために今後もじゅうぶんに発揮してもらえるというわけだ。
事件が解決してから、キールはヴィオラと共にクレストの元へお礼に来ていた。
「先生には感謝してもしきれません。先生のおかげでヴィオラを守ることができました」
「いえ、私は当然のことをしたまでです。それにしても、今まで一度も他人に興味を示さなかったキール君がこんなにも一人の女性に対して意識を向け守ろうとするとは意外ですね。ヴィオラ嬢には何か不思議な力でもあるのでしょうか」
ヴィオラに顔を近づけ顎に手を添えながらふむふむと考えるクレスト。クレストは相変わらず美しい顔立ちをしており、ヴィオラはやはりクレストをじっと見つめて感心していた。
(カイザー様はいつ見ても本当にお美しいわ……!これで二百歳を超えているだなんて信じられない。ううん、むしろ二百歳を超えているからこそのあり得ない美しさなのかしら)
ヴィオラはクレストを見つめながらほうっとため息をつく。それを見てキールは少しムッとしながら後ろからヴィオラに抱きつき、クレストから引き離した。
(えっ、キール様?えっ?)
突然後ろから抱きしめられてヴィオラは混乱し顔が真っ赤になる。キールとヴィオラを見てクレストはクスクスと楽しそうに笑い出した。
「お二人は本当にお似合いですね。キール君の普段見られない姿を見れるのもヴィオラ嬢のおかげです。今後もたまにお二人で遊びに来てください」
「先生はいつもお忙しいでしょう。それに定期的に魔力測定に来ますのでそれで良いじゃないですか」
キールの言い分にそれもそうだと言いながらクレストはまた楽しそうに笑った。
こうして、キールとヴィオラに近寄っていた危険は一掃され、二人にはまた平和な日々が訪れた。




