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「隊長に突然魔力発作の兆候が現れ始めました、ヴィオラ様は急いで騎士団本部にお越しください」


 ヴィオラたちがクレストに魔力測定を行ってもらってから数ヶ月後が経ったある日、屋敷に騎士団の紋章がついた馬車が到着し騎士の一人がヴィオラを迎えに来た。キールは現在騎士団で隊長をしており、既に昨日から騎士団本部へ出かけていて今日から魔獣討伐のため遠征に行くはずだった。そんな時にまさか魔力発作の兆候が見られ始めただなんて。今まで兆候は現れていなかったのになぜ突然現れ始めたのだろうか。ヴィオラは悲痛な面持ちで騎士に尋ねる。


「キール様はどんなご様子なのですか?」

「とにかく苦しんでおられます、見ているこちがら辛くなるほどで……ヴィオラ様がそばに居ればなんとかなるかもしれません。お急ぎください」


 騎士の切羽詰まった様子にヴィオラはすぐに準備を整えますと言って部屋に戻った。最低限必要そうなものをまとめ、エメラルド色に光る石のついたブローチを胸元につけて部屋を出る。騎士の元に駆け寄りすぐに馬車へ乗り込むと、馬車は急いで走り出した。




 どのくらい走っていただろうか。馬車の中はカーテンがかかっており、窓の外が見えない。今はどこらへんだろうかとカーテンを開けようとして、馬車が突然止まった。


「ヴィオラ様、到着しました」


 馬車の扉が開き、騎士の一人がヴィオラに手を差し伸べる。ヴィオラはその手をとって馬車の外に出て、辺りを見渡した。そこは騎士団本部などではなく、見ず知らずの森の中だった。


「ここは……?」

「ここがあなたの最期の場所です」


 騎士はにっこりと微笑むと、胸元から何かを取り出して地面へ置いた。それは小さな小瓶のようなもので、騎士が少しその場から遠ざかり指をぱちん!と鳴らすと小瓶が割れ、濃い紫色の靄が現れる。


「あの、一体これは?」

「それではヴィオラ様、ごきげんよう。もう二度とお会いすることはないでしょう、さようなら」


 騎士はゆっくりとお辞儀をして一人馬車へ乗り込むと、ヴィオラを残して去っていった。取り残されたヴィオラはポツンと一人森の中に佇んでいる。


(えっと、これは……)


 キョロキョロと周りを見渡すが木しか見えない。先ほど騎士が割った小瓶のようなものからは紫色の靄が空に向かって昇っていく。それをぼうっと見ていると、背後からミシッ、ミシミシッドサッっと木が折れるような嫌な音がする。ヴィオラはごくりと喉を鳴らして恐る恐る後ろを振り向いた。そこには、大きな大きなトカゲのような魔獣が鋭い牙と爪を光らせている。あの騎士が置いていった小瓶から出ていた靄は、この森にいる魔獣を誘き寄せるためのものだったのだ。


(ひっ……!)


 恐怖のあまりヴィオラは足が動かない。魔獣はヴィオラを認識すると尻尾を一振りしてからシャアアア!と牙を向けてドスドスとヴィオラへ突進してくる。魔獣が鋭い爪をヴィオラへ振り翳しヴィオラが思わず目を瞑ったその時。


 ヒュンッ


 ヴィオラの体が宙に浮いたかと思うと、いつの間にかキールの腕の中にいてヴィオラは魔獣の爪を間一髪で免れた。


「キール様!」

「間に合ってよかった、大丈夫か?」


 ヴィオラを安全な場所へ降ろしてキールはヴィオラに尋ねる。ヴィオラは首を大きく縦に振るとキールは安心したように微笑んだ。


「ここにいるんだ。すぐに終わらせる」


 そう言ってキールは剣を抜き、魔獣へ向かって走り出す。魔獣はキールを認識すると尻尾を振り回しキールへ攻撃しようとするがキールは軽々とそれを避ける。キールの動きは素早く、魔獣はキールを目掛けて攻撃するが全く当たらない。キールは剣を一振りすると、魔獣は真っ二つに切り裂かれ黒い靄になって消滅していった。


(キール様、本当にお強い!まるで黒豹のような動きであっという間にあんな大きな魔獣を倒してしまった。さすがは過去に大魔獣を倒した英雄だわ)


 ヴィオラは目を輝かせながらキールを見つめている。その視線に気づいたキールは少し照れたように頭をかきながらヴィオラの元へ戻ってきた。


「ヴィオラが無事でよかった。何か変なことはされていないか?」

「大丈夫です。ただ馬車に乗せられて気がついたらここに降ろされてしまっていました」


 ヴィオラの言葉にキールはホッとする。


「本当によかった……」


 キールは静かにそう言ってそっとヴィオラを抱きしめる。優しく、だがしっかりとした腕の力にヴィオラは驚き、思わず硬直してしまう。


(え、え?キール様?)


 自分を抱きしめるしっかりとした腕、そして自分の体がすっぽりと覆われてしまうほどの男らしい体つきがはっきりと伝わってくる。キールと密着した状態にヴィオラは沸騰してしまいそうだ。少し間があって、キールがハッとして腕を離す。


「……すまない。思わず抱きしめてしまった」


 キールがヴィオラの顔を覗き込むと、ヴィオラは真っ赤になっている。そんなヴィオラを見て、キールもまた顔を赤らめて口元に手を添え目を逸らした。

 コホン、と一つ咳払いをしてからヴィオラの胸元に着けられたブローチにそっと触れると、エメラルド色だった石は蒼色に変化した。


「このブローチのおかげだな。先生も今頃ヴィオラを連れてきた騎士を捕獲している頃だろう」

「もう捕獲し終えましたよ」


 キールとヴィオラが声のする方へ視線を向けると、そこには先ほどヴィオラを放置していった騎士が光の縄で身動きを封じられたまま宙に浮き、そばにクレストが微笑んで立っていた。



 


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