勝者無き決着
カグヤ視点で始まります。
2015/01/06
加筆修正(改稿?)
カグヤside
「決着をつけようか、カグヤ・・・」
アキラさんの気配が変わった。
私に致命打を与えた時と同じ殺気が再び私を襲う。
劣勢の状況を覆す斥候、偵察職の形勢逆転の奥の手。
手負いの獣が全てを投げ打つ一撃の苛烈さは、先ほど味わったばかり。
ましてや相手を死神の異名を持つ者。
火の大精霊の加護、戦女神の加護というこの世界で不死身に近い私の命を一撃で屠るのでしょう。
体が震えている、久しく忘れていた恐怖?
違う……是れは歓喜の震え!!
その事実に私の頬を歓喜の涙が溢れ、その涙も直ぐに蒸発する。
私の闘気に呼応しカグヅチも全霊で私に蒼炎となって力を貸してくれる。
伊藤 香久夜
武家の分家に生まれ
本家よりもその才を血を色濃く受け継いだ。
でもか生まれ持った才能以上に、人の何倍も努力もしてきた。
だが周りからはそんな努力すら才能の一言で片付けられてしまう。
分家の分際で…と陰口を叩く愚物を無視し、文武の才を磨き、自分に美の才があればそれら全てに磨きをかけた。
結果は嫉妬と欲望の目という。
上辺しかみる事の出来ない人間しか集まらなかった。
過信では無く、私は強いく美しい。
でも、ある時、人の領域を超えてしまった。
嫉妬も欲情の目も全て崇拝、信仰にまで昇華した。
得たのは『武神』という称号と孤独。
傲慢になり戦いに愉悦を求め、嗜虐心を満たす事で自分を保った時もある。
私に惹かれ、正気を失い隷属を求める周囲。
私は神なのだ。
そう思い、振る舞い、神に等しい能力を振るい続けた。
でないと孤独に耐えられなかった。
でないと神は人に戻る。
過ぎた力を持った人と……卑怯と蔑まれることに耐えられなかい。
そうでないと余りに報われない。
異世界に迷いこんでも変わりない。
初めは喜んだ。
私より強い者が大勢いるこの世界を。
例え今、神と呼ばれていても私より優れた者がいる。
初心に戻り、必死に鍛え上げた。
錬度を上げても頂上は尚高い。
此処でなら私は一人ではない。
……二月も経たぬ内にまた孤独に戻った。
得たのは『戦女神』『皇帝』という肩書き。
私と同じ境遇の者を探す日々。
武力と美貌を兼ね備えながら、環境の所為で殻を割れない者たちを集め、強くする日々。
私に惹かれ、狂気に到った王、国を返り討ちにする日々。
最強を自称した鎧を纏った男は見掛け倒しだった。
龍の化身の仙女は楽しめたが、未だ私には届かない。
炎の大精霊は友になれたが、強敵には至らない。
人形と色に狂った医術の神には期待したが、宛てが外れた。
勇者は世界の為に殺す訳には行かない。
悪魔を従える魔神か死神でも無い限り私は孤独のままだ。
そんな退屈な日々も今日、終わる。
目の前の男は『死神』!!
もといた世界、異世界でも全ての命ある者を殺せる絶対者。
死神は死後の自分の姿で現われる。
正にその名を冠する様に、私の技を完全に模倣して襲い掛かる。
生死を操る『死神の力』か、不死身の私に手傷を負わせもした。
対等な力の持ち主の登場に、ここで心が揺れずしていつ揺れるのだろうか。
戦いを愉しむ愉悦、嗜虐の心は最早無い。
繰り出す攻撃、全てに全霊で応えていく。
少しでもこの時間が長引くように。
でも、それももう終わる。
傲慢さも、退屈な日々も孤独感も私の中には無い。
彼の覚悟と先程の言葉と同時に放たれた清澄な気圧に吹き飛んだ。
あるのは太陽の様に燃え盛る私の闘気のみ。
武家としての嘗ての自身が蘇る。
「ええ 名残惜しいけど・・・ここで幕としましょ~。」
カグヤside end
◆◆◆◆◆
刀を正眼に構え炎の闘気を放つカグヤ。
武器を棄て無手で相対し闇の魔力が渦巻くアキラ。
王道と邪道。
対極の両英雄。
共に一撃必殺の手段を持ち大精霊の試練を乗り越えた契約者にして神の異名を得た者。
闘気、魔力、霊気。
まさしく全身全霊の力を各々の獲物に込める。
奇しくも両者、防御を捨てた乾坤一擲、必殺の構え。
アキラは源呼吸と白魔法の治癒で先程の脇腹に受けた致命傷は完全に癒えていない。
回復に回す魔力を全て攻撃に注ぐ。
――背水之陣
自ら窮地に身を置くことで再び【窮鼠猫噛】を放つ準備を整える。
自身の最高速度で相手の急所を貫く【心臓穿ち】を叩き込む為、闇と冷気を拳に纏わせている。
――【概念崩壊の法則】で大精霊を殺すのは可能。
大精霊を消すのは容易。
しかしそれに気を取られれば死ぬ。
これは一対一の闘い故。
――剣弾も戦女神の前には通じないだろう。
残されたのは禁忌として人相手には使わず魔物の命を屠り続けた自身の技。
臨死の状態、【窮鼠猫噛】という呪いをスキル【心臓穿ち】に込める。
対してカグヤの炎刀は上段に構えられ、砕けた刀は既に修復されている。
同胞の錬金術師が錬成した鉱石に自身の蒼炎で溶かし、
仙女が鍛えた倭刀
銘は【神刀・迦具土神】
形が崩れた所で持ち主の力量に応えるべく何度でも蘇り炎を宿す神の剣。
その神刀を起点に蒼炎が渦巻く。
万物を灰燼とせん、理を断ち切らんとするその力が今か今かと解き放たれるのを待っている。
全ての命を奪う闇と太陽。
両者の気が、張り詰め
余波で闇が周囲の命を吸いつくし、炎が命を燃やし尽くす。
これまでの両者の戦いで国境線は荒野に変わり果てる。
魔の森を、そこに隠れ潜む魔物が悲鳴をあげ、闇が魂を吸い込み、炎が体を灰へと変えていった。
戦場の英雄の魂をヴァルハラへ導く乙女
あらゆる者に平等に魂を刈り取る農夫。
共に死神の異名を持つ者同士の頂上決戦の場に相応しい荒野と化した戦場で両者はにらみ合う。
永遠とも思える時間。
――しかし勝負は一瞬で決した。
風が吹き、砂が待った瞬間、両者が動いた。
先に動いたのはアキラ。
一寸先闇。
その言葉を体言するが如く、意表を付く先制攻撃。
拳に冷気と闇という死を纏わせ突進する。
しかし、途中で完全に姿をかき消す。
あらゆるステルスの極地 【無敵】
姿を完全に隠し相手の呼吸を読み、意識の外へと移動する高等技法。
一方的に攻撃できる無敵の一つの答え。
初見で対応できる者はいない。
気づけばあの世に落とされる死神の絶技。
並みの英雄なら七度殺される。
だが、相手は英雄を超えた神。
アキラが消えた瞬間カグヤは炎刀を振り下ろさず自身の全方位に刀を振り抜き、全方位を豪炎で焼き尽くす。
……が途中で刀の動きと熱と爆風が止まる。
――答えは死神の手による白刃取り。
しかも武器を捨て左手のみで刀を掴み取る狂気の技。
其れを死神はやってのけ、刀の熱を左手に込めていた冷気で封じ込める。
自身の最強の右手による手刀をカグヤの心臓に叩き込まんと振るう。
「―――見事」
だが死神の手で止めれていた筈の迦具土神が突如、静止した状態から最高速度で振りぬかれた。
神速で振りぬかれた刀の威力を殺しきれない。
これが地球での戦いでなら死神が勝っていただろう。
しかし此処は異世界。
異世界の理に則りステータスの加護による絶望的に差が開いた筋力と武器の前で速度と技量が売りの死神では止めきれない。
武器自身の攻撃力と高い筋力加護を得たカグヤの攻撃力として加算される。
そのまま防御力を捨て攻撃に全霊を込めた死神の右手を残し、
死神の左手を切り裂き、左胴を切り裂き、心臓を横一線に両断した。
ここに決着はついた。
勝因はステータスの差という戯の様なこの世界の理。
ここに戦女神と死神の戦いは終わった。
◆◆◆◆◆
荒野にはただ一人、勝者であるカグヤが佇んでいた。
その体には肘から先が切断された右腕が貫通している。
その腕の持ち主の体はこの世にはもう居ない。
カグヤの振るった刀の余波によって灰すら燃やし尽くしたからだ。
カグヤを倒すために精霊化の力を腕に集中した故
切り裂かれた左手と彼女をさし貫いた右腕だけがこの場に残ったのだ。
相打ち。
しかしカグヤは生きていた。火の大精霊の加護と、この異世界に落ちた時に身についけあらゆる要素が彼女を生かした。
戦闘技術、能力値を大幅に上げるだけに留まらず火の大精霊という強力な霊格。
そして異世界という非現実な要素 HP
嘗ての神話の英雄達と同じ完全再生能力を手に入れた彼女には心臓を貫く程度では彼女は死ねない。
何故なら未だHPが0では無いから。
地球で戦っていれば間違いなく死んでいる。
大精霊と契約していなければ死んでいる。
その事実が彼女にもたらすのは勝利という栄光でも満足感でもない。
敗北感だ。
腕を抜き取り、呆然とその腕を眺めるカグヤ
胸に空いた風穴からは炎が溢れ出て瞬時に塞ぐ。
炎が消えるといつものように白磁のような肌が現れた。
生き残った・・・しかしその代償も高く付いた・・・
彼の攻撃は魔力の刃が貫いた時に【戦女神の加護】を貫き、
指先が胸に触れた瞬間自身の強靭な肉体の防御を貫き、
心臓を貫いた瞬間には自身の内側から串刺しにされたような痛みが炸裂した。
実に三度殺しつくされた。
このまま絶命するまで死に続けるだろう死神の呪い。
その力の供給源である本体を刀が消滅させたことでその地獄のような苦痛から彼女は解放されたのだ。
供給源が絶たれた腕では大精霊の供給源が存在するカグヤを殺し尽くすことは出来ず、
結果カグヤは一命を取り留め、この戦いに生き残った。
しかし、彼女の顔は決して晴れやかなものでは無かった。
魔法なしでは確実にアキラが圧勝しており、自身は無様にも勝負にも試合にも負けたのだ。
勝者は右腕と左手を残し消え去り、敗者は5体満足に生き延びた。
生まれて初めての敗北、そして自分に打ち勝った彼を思い、そして生への喜びに打ち震えた彼女は自分を恥じて、涙を流した。
「う、うう、ウああああああああああああああああああああああああああ―――!!!!」
彼が残した右腕を抱きしめ、泣き崩れるカグヤ。
もしかしたら初恋だったのかもしれない。
自身の境遇が、強者と戦おうとし、打ち倒すことで自分を形作り保っていたものが……
全て崩れ去っていく音が聞こえた気がした。
ぽた ぽた っと雨が降り始める・・・
あれほどの炎を撒き散らしての戦闘の余波だろう。
上昇気流を上げたからかアキラの魔素が空に舞い上がったからか魔素を含んだ雨が降り始める。
そしてほぼ魔素の塊である臨界者のアキラの右腕が、左手がミストの様に消えていき、カグヤの中に取り込まれていく……。
「あぁ 待って ……消えないで――!!」
後に残されたのは彼が戦う前に捨てた片手剣と彼女から奪った槍が残されていた。
次第に強くなっていく雨の中、あらゆる音が雨音で塗りつぶされる中、
彼女の目から流れる涙も嗚咽も塗りつぶしていった。
そこには最早、英雄の欠片も無く、年相応に泣き叫ぶか弱い少女だけが残った。
主人公死亡!?




