吸血姫が欲しい物
狩猟祭ではエリア毎にノルマが存在する。
何故なら活性化の大本は、闇の魔力。
つまり女神と真祖のストレスを多分に含んだ魔力に汚染された魔物である。
ストレス=魔物なのだから、残すわけにはいかない。
穴場や狩場など地域ごとの偏りを減らす為に、ギルドは情報操作を入念に行い、規定を設けて魔物を全滅させる為に奔走している。
負の感情を含んだ魔力に当てられた魔物を討伐すれば、彼女たちの精神は安定する。
ストレスの原因である俺にとってはギルド職員や冒険者、近隣の皆には頭の下がる思いである。
嫉妬や独占欲、破壊欲の魔力に汚染され突然変異までする魔物と奮闘する新人諸君、いつもより経験値が上がってるから許してね?
歌劇や甘い菓子を振る舞う店が多く出店して彼女達の期限をとり魔物を弱体化させるから。
可能な限り討伐、除霊を通して彼女たちのストレス解消を手伝ってくれ。
ボス攻略は俺に任せろ。
我に秘策あり。
◆◆◆◆◆
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課外授業も終え、襲撃した刺客を返り討ちにし、テレーズを除いた聖人モドキ達を和解した召喚者とカグヤを連れ戻しに来た帝国宰相に引き渡し、俺達は戦士村では無く城塞都市へと繰り出した。
都市の外では若手の冒険者たちが魔物と戦っている中、俺達はデートである。
勿論、デートの妨害を受けない様に、軽い認識阻害を掛けながら歩いているので邪魔は入らない。
気配を消すのではなく、薄めても紛らわしているの上に仮装までしているのでバレる余地はほぼ、無い。
純粋に両手に花でデートである。
狩猟祭という事もあってか、戦士村同様、町中もずいぶんと賑わっている。
馬車が行き交い、人々が笑顔で野菜や果物を売っている。
この時期は経験値と比例して食料品も安く、新鮮でうまい。
食事を摂取しても経験値が上昇し、経験値がうまい食材を使った料理は総じて美味い。
広場の中央では、魔女が使うような大鍋でカレーが煮込まれている。
昨年まで収穫物の野菜や肉のごった煮であまりうまくは無かったようだが、今年から七英雄の海賊王と戦女神が新大陸と東方からスパイスやコーン、ライスを大陸もたらした恩恵がガリアにも来ている。
転移魔法や調合、調理に精通する俺は勿論、地球の料理を再現できるが、世界中の料理を食したわけでもないし、ガリアは美食文化のある国だというのはアニから太鼓判をもらう程だ、どんなカレー料理が出るのかワクワクするし、香辛料をふんだんに使った料理が屋台からも漂う。
甘い匂いと香ばしい
少し楽しみである。
昨年の狩猟祭りで作った果実のジャムや酒が振る舞われる。
イベントも盛りだくさんだ。
おもちゃの弓を使った射的や、
大食い大会は、昨年、猛威を振るった一人の魔女が原因で今年は開催されないが、収穫物をつかったごった煮やトマトで煮込んだミネストローネ風のスープが振る舞われる。
だが、今年は経路が違う一品が増えている。
スパイスをふんだんに使った料理、カレーである。
異世界人……というか現代日本人が来たこと、そして帝国でカグヤが東方諸国を併合した事で東方の香辛料、海賊王の航路で新大陸と東方から香辛料が安く輸入できる様になった。
つまり安価でカレーが食える。
狩猟祭は、甘いもの尽くしだったから辛味にも飢えているのだ。
でもデート中に食うものではないか。
匂いが付きそうだからアウトかな?
分身か使い魔でも使って買っておこう。
「中でも賑やですね」
「この時期はいろんな人が来るからのぉ」
ナミが物珍しげに周囲を見回し、テレサが答える。
商人が行きかい、学生が興味深そうに露天を覗き、
農家が大きな手押し車に一杯の野菜を積んで通り過ぎ、
冒険者が、肩が振れた振れないので喧嘩をする。
これほど喧騒に包まれた魔法都市シャリーアはこの時期だけだ。
「……」
左右を見る。
右にナミ。
左にテレサ。
まさに両手に花である。
「なあ、ナミ、テレサ。」
「なんでしょう、アキラ?」
「なんじゃ?主よ」
「腕……組まないか?」
祭りに少々浮かれていたのだろう。
せっかくの祭りなのに、剣や魔法と血祭に上げたり(誰も死んでないけど)ばかりだった。
偶には、俺だって浮かれたいし、羽目を外したいのだ。
少し意表を突かれた二人は直ぐにはにかみ、喜んで応じてくれた。
「ええ♪」
「……はい」
右側からナミがスッと。
左側からテレサがおずおずと、腕を組んでくる。
いい。
というか、俺の周囲って美女ばかりだけど強いんだよな。
日本だとモテるより、怖がられてた。
大会で優勝しても執念深さや、勝負強さで周りは尊敬では無く、畏怖されてた。
平和な世界だけど、辛すぎる世界だった。
糖分0の世界だった。
一つ間違えれば、修羅ばかり救う異世界だけど、強さに釣り合う強い女性が多い。
となれば、張り詰めた空気だけでなく、甘い空気も作れる。
この世界で俺の心は満たされた。
「……ふふ」
思わず笑いが漏れる。
悪巧みをする際に漏れる笑いでは無く、幸福からの笑みだ。
両手に花の状態で俺は、街中を回ることにした。
まずは工業区からだ。
工業区には、数多くの芸術品、魔道具が置いてある。
無論、商業街の方にも売っているが、実用化に耐えうる便利で高価なものがほとんどだ。
勿論買う事も自分で作ることも出来る。
だが、今は、狩猟祭りは新人戦。
修行中の見習い達が失敗作や試作品を市に出しているのだ。
殆どは大した効果も無いオモチャみたいなものだが、中には後に天才と呼ばれるような者の作った掘り出し物もある。
こういう掘り出し物探しも買い物の楽しみでもある。
「掘り出し物があるといいですね」
「いやいや、死都の宝物庫を超える品には幾分も劣るようじゃがのぉ」
テレーズはそう言いつつも、興味深そうに魔道具を物色していた。
もちろん、千年前の文明を閉じ込めた死都の魔道具を超える工芸品や魔道具があるとは思っていない。
ここに来たのは、テレサ用のプレゼントを購入するためでもある。
以前にナミには指輪を送った事がある。
俺の相棒だとか、契約者だとかそういう言い訳もできるが純粋に好意から送ったものだが、テレサには無い。
現代の流行、特に服飾や人間だったころ、青春を過ごせなかった未練もあって王立学園への編入など青春を満喫できるようにはしたが、形に残るものは送っていない。
かといって伝説級のアイテムやアクセサリーなぞ彼女は大量に所持しているので、こういった掘り出し物や俺の手作りアクセサリーの方が喜んでくれる。
で、今回は手作りでは無く、買ったものでプレゼントを使用となった。
もちろんテレサはその事を知らない。
サプライズだ。
指輪以外なら…と、ナミにも了承は得ている。
もし、ここでテレサが「これ欲しいな」と思うようなものがあったら、こっそり買おう。
「この魔力を込めると中のものが冷えるジョッキは面白そうじゃのう。残暑が残る季節じゃし、丁度良いのぉ 一つあれば主なら複製できるじゃろ」
「それだと、複製する分だけ払わないとな。」
「主は律儀じゃのぉ」
冷えるジョッキを3倍の値段で購入した時、若い職人は驚いたが、それくらいの価値があると、いって購入。
でも、これってテレサの分というより、俺たちの日用品だからプレゼントじゃないよな。
特に何かを欲しそうにはしていない。
すこし便利な日用雑貨を選んでいる。
装飾品は目もくれない。
他の店でも木を削り、その場で碗や杯に彫刻刀で模様と術式を掘っている職人を見て楽しんでいる。
「ふむ、無骨な術式を模様の様に掘るとは丁寧でいい仕事をしておるのぉ」
「……ありがとよ」
認識を阻害しているし仮装もしているので若い職人は俺達の正体に気づけない。
黙々と木を削り、術式を掘り、削りかすが足元とエプロンにつけながら次々と掘る職人。
仮面や仮装越しでも美人だと想像できるのだろう、美女に褒められてうれしいのだろう。少し、唇を緩める職人。
「主よ、先ほど広場で『ケリィ』や『ハヤシ』などという料理が出ておったじゃろ、この碗や皿に盛り、空を見ながら公園で食すと尚うまいじゃろう」
俺は木彫りの皿と碗を買い、複製する分は倍額で支払った。
うん、掘り出し物もいいけど、買い物は日用品に終始してしまったな。
次いこ。
未だ、俺のプレゼント大作戦は終わっていない。
◆◆◆◆◆
一方、俺がナミとテレサと腕を組んだ頃、
外では活性化した魔物たちが、舞い踊るように浮かれながら暴れだした。
そして神眼の聖女は急に街の方角へと振り返り、魔物を轢殺し、悪霊を物理的に浄化しながら街へと駆け出した。
討伐規定数は超えた、倒すべき魔物は外では無く、街中だと言わんばかりに駆けだした。
クレア(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾「恋敵は王都にあり」




