だが戦女神だ。
この世界のレベルの上限は250。
上限は超えて魔力を吸収しても飽和状態になって上がらない。
これを超えると相転移が起き、肉体が消失。
強力な圧や、熱が|人間(H₂O)を別の存在へと変える様な物だ。
塵芥と消えた肉体の後に残された精神と魂が稀に土地や信仰など様々な要因が重なり、高位の精霊や悪魔、召喚獣、英霊として転生する。
この事から英雄と怪物の臨界に佇む者は【臨界者】と呼ばれる。
もし、臨界点を超えて尚、消失しない者が居たならば……
それは正邪関わらず、「神の化身」「現人神」と呼ばれる存在だろう。
『武具など無粋~真の英雄は眼で焼きコロコロ~!』
『右腕、封印開放!』
『私の太刀は破壊の雷光! その身で堪能してね~!』
『我が正拳は教育の鉄拳也! 我が|正拳(愛)を灼けるか!』
『四方より襲い来る手刀の斬撃、分身の術、でも実態は一つですね~!』
『全部実体だ!!』
『転移による回避……だけどそちらも頭上が疎かですよ~』
『核攻撃とか……随分と気やすく撃つ……非核三原則を教えてやるゴジラ!』
『炎の構造相転移、つまりは破壊と創造! 私が壊し、私が直す!火傷しても治すよ!』
『つまりは、マッチポンプ!? これだから女神とかは始末が負えないんだよ!』
『謝って!全世界の女神に謝って~! なんて酷い言葉この歩く黒歴史~!』
『上等だ! 盲目な信者の前で面を剥ぎ取ってやる!』
『アッ!だめ~! 面はらめぇ! ちょっとマスク剥ぎはプロレスラーでも悪役でもしない残虐行為ですよ! あ、ホントムリ! 来ちゃう! (宰相ちゃんが)きちゃう~! (書類仕事は)もう無理! (執務室での)監禁はもう嫌ーーー!!』
『艶めかしい声を出すな! 意図的に言葉を濁すな! 誤解されるだろ! 態とか 態とだな!』
……多分
◆◆◆◆◆
ガリア国内 帝国大使館 執務室
「うう、捕まっちゃった。あと、五分、あと五分だけでも待ってくれたって良いのに」
「寝坊する子供の我儘も大概に、普通いませんからね? 停戦している国とその立役者相手に封印級の武術や魔術を扱う国家元首なんて」
哀れ、面が削れ、仮面から漏れ出た気配を気取られ、空から降ってきた角つきメイド宰相(帝国のナンバー2)に攫われた狐仮面は、シクシクと泣きながら大使館で政務を行っていた。
因みにその場に倒れ伏していた聖者を数人、捕まえても来ているから、この宰相も規格外である。
「結局、面が少し剥がされて、ユイちゃんにこうして捕まったのですよ~。再戦を約束し、こうして執務室で缶詰め……、よよよ、ロミオが浚いに来てくれないかな~」
「そのロミオと戯れ合いも良いですが、人材も確保できたようなので幾分、マシですね。」
「勝負なしですか……しかし、であれば私も挑まねばなりません。セイフィートの名と五将、元よりこの身は剣士、頂点があるというならその命をもらうまで!」
「あー浮気禁止! 皇帝の愛人を横取りとかアリアちゃん! 怖い娘! 国を滅ぼすね、傾国まったなし!」
「ち、違います! 私は一人の剣士として、一族の縁から再戦をですね!」
喋りながらも、カグヤは右手で石造りの演算機で、書類仕事をタイプ打ちで処理し、左手で王印を押して決済していく。
アキラがこの世界で再現したタイプライターやパソコン型のゴーレムが次々と書類を処理していく。
優れた頭脳と身体の力を政務に使い、無尽蔵とも言える魔力、生命力が在る故、疲労もしない。
統一国家にした事で起きた帝国の内政問題を次々と処理していく。
いやいや言いながらも、年単位で掛かるであろう、仕事を一日で終わらしてくカグヤの情報処理能力。
戦うだけが能では無いという万能ぶりを見て、ユイファンはカグヤが去った後の帝国を思い憂う。
本来、この世界の者ではないカグヤを国や世界に縛り付けたくはないが、どうしても彼女の血が惜しかった。
「……つってもよ、肝心な相手はもう帰る算段はついたんだろ? 戦い納めも嬢ちゃんを此処に呼んだ奴等を潰してからじゃ駄目なのかい」
五将・鮮血のアデーレは、カグヤを引き留めようとはしない。
この女傑も家庭を持ち、子もいるのだ。
親としては、家へと返したい気持ちが大きいのだろう。
「それよか、捕まえてきた捕虜はどうすんだい?」
「ヴィクトリア皇女とサラサ執行官に引き渡しますよ、首輪と枷は外しました。」
「ええ、あの捕虜を此方で躾けるより、面白い事になりますね。」
悪い顔をしているユイファンに呆れた顔をするアデーレとアリア。
一体聖者達に何をしたのやら……あのアキラが噛んでいる以上、黒幕共には憐憫しかわかない。
「なら、あたしからは何もないよ、そうそ、祭りなんだからファンも少しは大目に見てやんなよ?」
「そうですね、皇帝を支える我らも武意外で彼女を支えなければ」
「ありがとう! アデーレちゃん! ボーナスアップ! アリアちゃんは書類仕事は副官のカリサちゃんに任せて! 私の仕事が増えるから!」
その様子を見て、カラカラと笑い、執務室からアデーレの姿が掻き消える。
何故ぇ!?と涙目でアリアの姿も消える。
遠見の鏡を利用した立体映像による通信機が沈黙する。
「羽を伸ばすのは構いませんが……そうですね。偶には血と硝煙の匂いではなく、香水を、戦化粧より普通の化粧でもして下さいね。」
「や、仮面を被らないと、私の魅力で大変な事になるんじゃ?」
やや青ざめて、カグヤは首を左右に振っていた。
戦闘力に目が行きがちだが、彼女の神気を帯びたカリスマは洗脳に近い。
女性こそ、高レベルなら抵抗できるが、民草相手ではそうも行かない。
彼女の為に、それこそ死力を尽くして死地に飛び込むほどだ。
「認識阻害の仮面で無くとも、方法はいくらでもあります。我が帝国にある宝物庫の中には其れくらいの財宝、魔道具は納まっています。」
「う~ん、超越者になっても変わらぬこの待遇! もっと私を敬っても罰は当たらないよ~」
「神にしろ、人にしろ、トップに責任と義務が求められるのは変わりませんよ?」
目の前に積まれた書類の山も片付けつつ在る。
折角、手にした高い技術も身体能力も、精神力が全て政務に注ぎ込まれて裁かれていく。
「いっそ、この書類も相転移しちゃえば一瞬で片がつくのにな~」
「そんな事をしたら仕事が倍に成るでは済みませんからね?」
こうして、ガリア狩猟祭の一日目、決して歴史に記されない神々と聖者達の戦いが集結した。
◆◆◆◆◆
彼女の名前はカグヤ。
本名、伊藤カグヤ、声も仕草も女にしか嫋やか、美少女と女らしい美少女。
だが戦女神だ。
彼女は背も高いが、身体付きはとても細い、りんごより重いものは持てないだろう
だが戦女神だ。
セーラー服が似合っている。
だが戦女神だ。
もう夕暮れで夏も終わりだというのに暑いな。セミが鳴いている。
だが・・・戦女神だ。




