戯れ合い
狩りしろ♡
お前ら♡
テレサ=シンクレア
大陸アースに於いて最強の一角とされる吸血鬼の真祖。
伝承の存在とさた吸血鬼。
しかし彼女の来歴を知る者は畏怖される名を敢えて襲名する一族がロマリアには存在する。
ロマリアの皇族である。
◆◆◆◆◆
私、テレーズは御旗の聖女である。
異端審問官 序列三位
任務は勇者の監視と護衛。
家族と呼べる者は二人。
皇女である本当の姉。
義姉の様な先輩セイラ。
親はロマリア皇国の国家元首だが、家族という意識はない。
家族としての愛を感じたのは、二人の姉だけだ。
故にその愛に応える為に私は姉達が造る世界の導く為に私は御旗となって働いた。
光に生きる姉と勇者を影からも守る。
その為に、テレサ=シンクレアの名を襲名し、精進もした。
勇者召喚も魔王討伐、蘇生術も、私の世界をより幸福にする為の福音だった。
勇者は全く異なる価値観を持ちながら、私の既成概念を壊し私の眼は開かれた。
魔王という共通の敵を前に異端だった魔女と獣人と協力できる事を知れた。
蘇生術で遠い先祖で今では義姉役のセイラとも出逢えた。
全てが順調だった。
皆が笑える世界だった筈だ。
世界が軋みだしたのは魔王の転生体とも思しき男が現れてからだ。
初代魔王の転生体は勇者と神の先兵を単独で返討ちにする伝承を持つ。
顔は怖くとも、魔王の生まれ変わりとは思えない程、善良な青年だった。
勇者と仲間と調べても、上層部が危惧する、危険な男は思えなかった。
義姉が生死不明になった。
封印された邪神を解放、収集し、神獣すら配下に加えていった。
戦争に備える為に次々と各地の伝承や術、武具、精霊と霊獣を収集し、邪魔する者を屠りだした。
停戦の立役者が、平和を訴える聖女を殺め、影で世界を7度滅ぼす程の戦力を集め出した。
果てには勇者までおかしくなった。
疑念が核心へと変わり、表には出さないが
彼の顔を思い出す度に殺意と憎悪が溢れる様になった。
こんな汚れた心で挑んだ結果がこれなのだろうか。
5位以下の戦力を集め、魔王の戦術を研鑽した。
勇者に討伐させる為に策を何重と張り奇跡まで起こしたが、顕現したのは蒼炎。
その奇跡も通じず、力を使い果たし、私は倒れている。
剰え序列最下位の後輩に守られている。
情けなくて……悔しくて……それでも私は姉達が生きる世界を救うために旗を握りしめる。
魔力は使い果たしたが、未だ戦える。
無様に地に伏せながらも、少しでも魔力の回復に努め、勝機を伺いながらも、目の前で起こるであろう戦いに目を向けた。
◆◆◆◆◆
「おおおおおおおお!」
怒号と共に、アキラが爆進する。
宿地による速攻では無い、大地を揺るがす【震脚】での踏み込みを行いながらの突進。
無手のまま直進し、有らん限りの力で手刀を振り下ろす。
ただ、それだけの一撃。
ただ腕力、筋力、膂力によって押し切る一撃。
ただし、七英雄の筋力と技量のった、最強の一撃だ。
それを、狐仮面は笑って迎撃する。
頭上に太刀を掲げ、峰に手を当て受け止める。
手刀と太刀の真っ向勝負。
どう考えても、太刀が勝つ。
手刀は手首と共に切り飛ばされるのは自明の理だ。
だが、あの男、アキラは普通では無い。
理の外に生きる男だ。
まるで薄板でも叩き割るように、そのは財を斬り断ち、その下の戦女神を捕らえていた。
「むむ!」
その、七英雄の一撃を、狐仮面は堪能していた。
接近戦では並ぶ者なき最強の益荒男。
膂力は決して高くない、体格も巨人という程では無い。
絶技ともいえる重心移動と魔力移動を敏捷性で繰り出した一撃。
その鋭い斬撃を、己の太刀で受け止める。
全身に衝撃が走り、全心に感動が湧きたつ。
やはり、これほどの男、どこを探しても会えるものではない!
衝撃より感動で腰砕けになりそうだ!
狐仮面は、体から魔力を焔の形で放出しアキラを吹き飛ばし、反撃に出る。
太刀を槍の様に扱い、豪雨、いや太陽風の如き突きの波状攻撃を繰り出す。
その槍の一刺し一つ、喰らってなるものかと、アキラは両の手刀でそれを叩き落しつつ回避した。
敏捷性と技量そして、源呼吸により満載された力。
それらが加わり、数値では測れない防御力をアキラは発揮し、太陽の如き攻撃を捌き切る。
「ふふふ~」
脚が痛む。
手がしびれる。
恋い焦がれる。
ただ一撃を受けただけの狐仮面は、総身からあふれる汗を上機嫌で拭っていた。
強くなっている。
以前戦った時より、遙かに技量が上がっている。
これがアキラ。
彼の強さは奇抜なスキルや策では無い。
あらゆる世界を攻略する為の学習能力と研鑽にある。
自分が学び、他者に教える事でより自分の身につけた知識、技を昇華し異世界を攻略する。
叩けば叩くほど強くなる。
学べば学ぶほど技と術を習得し、
教えれば教える程、その技と術を確固とした業へと昇華していく。
だが、こちらも最強の名を冠する蒼炎の七英雄。
そちらが異世界を攻略英雄ならば、此方は異世界を破壊し尽くす英雄だ。
距離を取ったアキラは、拳を握り正拳突きを繰り出しながら、再度、距離を詰める。
大地の気と大気の魔力を練り上げて強化された拳は、目にも映らぬ拳速で空気が打ちす空気砲。
しかし、実弾以上の破壊力を持った砲撃がカグヤを襲う。
その連撃を、カグヤは……それを闘気の放出だけで掻き消した。
力任せな闘気開放でも魔力放出ではない。
戦女神の放つ気は射線上の空気砲を打ち消し、周囲に満ちた気とアキラを覆う蒸気の様な魔力と気で合成された鎧をも打ち消し、貫いた。
衝撃波と相反する波長の魔力放出。
気弾でも魔力弾でも無い、空気がそよ風すら残さず、消え、アキラの纏う魔力すら剥ぎ取った。
先の蒼の奇跡を潰したアキラより洗練された技量を持っての神業だった。
「魔力飽和現象ならぬ魔術相転移現象、貴方の手品とまぁ似たようなものですよ~」
「明らかに格が違うと言いたげだな。」
軽口をたたくも余裕は無い。
無効化という結果こそ同じだが、威力も技の繊細さも段違いだ。
魔術という料理に、余計な調味料を周囲に放ち、魔力を飽和させて無効化した大雑把な技とは違う。
混沌とした沼の様な混沌とした空間を強制的に浄化、気化させ空白に塗りつぶす相転移現象。
「確か、シアちゃんが使っていた剣術ですね~私も学習しているって事ですよ~何せ新入りですから~」
「剣の線や点では無く、魔力放出の面だけで偉い違いだがな。」
アリシアの熱気と冷気の魔剣は、カグヤの防御力を本物、偽物を加え二度破っている。
防御無視の必殺剣。
それをカグヤはより高度な技へと昇華していた。
それは、ただでさえ手の付けられない神が最強の矛と盾を手にした事を意味していた。
「お見事、狐仮面、花丸をくれてやる。」
「採点を付けるには早いでしょう~死神。」
この程度は小手調べでも無い。
ただの戯れ合いだ。
つまりは、なんのこともない。
極めて予定通り、互いが想定以上に成長し強敵だった事を確かあっただけ。
再び、手刀を手に爆進するアキラ。
それに合わせて、太刀を放ちつつ狐仮面も猛進した。
オオオオオオオオオオオオオオオオオ!
その魔力、闘気のぶつかり合いに、世界は震えた。
その余波に当てられ、隠れていた魔物まで戦士村へと逃げ出し、祭りの参加者達が狩っていく。
狩猟祭りが大いに盛り上がり、参加者が潤ったのは言うまでも無い。
◆◆◆◆◆
姉様、義姉さん……
新入りが思いの外、強すぎて、私のする事が無さそうです。
◆補足1
魔力飽和現象
魔力の元となる五大元素を不活性状態にした空間。
あらゆる魔力、魔術の形成を阻害、飽和し無効化できる。
アキラは沼、蒸気にして使用。
魔力相転移現象
魔力で造られた個体、液体、気体、エーテル体を急激に活性化、相転移させ、初期化する現象。
全ての物質を切り裂く最強の矛にも、無力化させる最強の盾にもなる。
◆補足2
序列3位の正体は勇者の従者、テレーズです。
皇女の妹で顔が有名な為、暗部の割に表で頻繁に活動します。
ガリアの公女 アリシアと似た境遇な娘です。
コードネームはテレサ
学園潜入時はクレアと名乗ります。
撲殺神父の娘 クレアとは同じな名前ですが別人です。(ややこしくてすみません)
ロマリアの皇族は吸血鬼のテレサ=シンクレアとややこしい因縁があり、彼女にあやかった名前を付けます。
近いうちにその理由が明かされます。




