鮮血蛇姫
俺の名前は渡辺アキラ。
別の世界からこの世界にやってきた新米教師(予定)。
いわゆるトリッパーだ。
訳あって勇者に命を狙われ、結果的に不死身になったが些細な事だ。
今は、いろいろな面倒事に決着をつける準備をしているが、今はオフだ。
そしてオフの日である狩猟祭りの名物を飲んでいる。
「はい、ブラッディ・アーデル三つお待ち!!」
文字通り血の様な鮮やかな赤い飲み物がグラスに入れられて運ばれてきた。
ガリアは鏡やガラスの加工技術に過ぎれた国だから、小洒落た店にはグラスが出てくるがそこはいい。
出された飲み物だ。
外では甘ったるい飲み物が多く出ているが、目の前に出された飲み物は甘くない。
血のように赤い色の飲み物から甘いという単語は想像しにくい。
勿論、出された飲み物は血では無い。
吸血鬼御用達(店側自覚無し)の店だが、血は出てこない。
……トマトジュースだ。
健康志向でもない限り、飲まないであろうジュースで一時期、日本でもダイエットとかで騒がれた。
此処では【鮮血蛇姫】という銘柄で呼ばれる飲み物だ。
テレサ曰く、一昔前にガリアで活躍した英雄の名に因んだ銘柄。
現在、帝国で活躍中の将軍であるアデーレ。
昔……というか今でも現役でヤンチャしてるお姉さん(既婚者)由来のトマトジュースだ。
発祥の理由は彼女の容姿と武勇。
彼女は大型の魔物を狩るのを専門にした冒険者で鮮血を浴び続け、常に若々しい姿な事から【鮮血蛇姫】という異名を持ち俺の師にあたる【撲殺神父】と同時代に生きた凄腕の冒険者だ。
実年齢もアラサーで口調も頼れる姐御って感じだ。
しかし十代後半か二十歳そこらの容姿と美肌を持っている。
若さの秘訣なのか、彼女は冒険者時代に愛飲していたのがトマトジュースを昼には塩を入れて飲み、夜はビールに割って飲んだという。
そんな話も信じた少年、少女はアデーレに肖る為にトマトジュースを飲むという冒険者、若い女性が続出。
狩猟祭りの大精霊と吸血鬼の鎮魂の儀の後押しもありトマトの生産地や栽培方法、調理方法にまでこだわって出来たブランド【鮮血蛇姫】は誕生した。
いや、由来はこの際、どうでもいい。
問題は俺の目の前にある。
「……という謂れのある飲み物でのぉ、此処のトマトジュースは最高なのじゃ。」
何故吸血鬼はトマトジュースを飲むのか?
目の前でコキュコキュと美味しそうに飲む吸血鬼に疑問を感じた。
「ぷは~。今年のブラッディアデーレの出来は良いの~ 鮮血の名を関するだけはあるの。」
「なぁ、一ついいか?」
「若さの秘訣か? 一日一杯のトマトジュースじゃな。」
「老け顔で悪かなったな……いや、何で血の代用品でトマトジュース? 成分まったく違うよな?」
実際、冒険者や美女を唸らせるだけの飲み物である事は俺も認める。
吸血鬼まで唸らせるのはおかしい。
一見、トマトジュースは血みたいな色合いだがだがトマトの成分は食物繊維とリコピンだ。
タンパク質が豊富な血液とは大きく違うだろう。
焼肉が食べたいのに、焼肉のタレをご飯にかけて食べる「みじめ丼」の様な物だろう。
テレサの答えは予想の斜め上を行った。
「トマトジュースを飲む者の血はサラサラで肌が瑞々しいからのぅ。他国の冒険者の男はビールや肉ばかりで血がドロドロしとるが、ガリアの冒険者の血はこれのおかげか、血がうまい。アデーレ様様じゃの。そして、積極的に狙う為にこの店に入ってチェックしとるのじゃ。」
「結局、血かよ!」
「ワインで割るのもええがの、トマトジュースを飲ませた血は格別じゃ。その血を飲むのを想像しながら、飲むトマトジュースは格別での? まぁ主菜を眺めながら前菜を採るような物じゃ。」
トマトジュースが好きなのではなく、トマトジュースを飲む異性が好みらしい。
そういえば、ジュースが来るまで他の客、冒険者をチラチラとみていた。
視線を向けられた冒険者は悪い気はしないのか手を振ったりえいがアピールしていたが
よりトマトジュースを飲んでいる冒険者を見定めていたのだろう。
特に強くなる為に飲みなれないトマトジュースを飲んで背伸びしている若い駆け出し冒険者を観察しては、今年の出来はええのぅ 初物はええのぅとか言ってたのも。トマトの出来ではなく、血の出来と。
強くなりたい年若い少年や若くなりたい少女の品定めスポットに使っているとは……なんとも。
ん?
「……ハァハァ」
「……おい。何故、息を荒げ、頬を赤らめて俺を見る。」
現在、テレサはトマトジュースを口にしている俺をガン見である。
視線の先はトマトジュースでは無い。
俺の首筋に熱い視線を注いでいる。
会話の流れから狙いは俺の血だろう。
この吸血鬼、吸う気満々である。
「……はやく夜にならんかのぉ?」
その台詞で周囲の客が噴き出し、グラスを握りつぶす音と舌打ちが一斉に響き殺気が俺に集中した。
勇者の殺気に勝るとも劣らない気迫である。
「夜道で背後から……」
「毒で……」
「ばか、媚薬も毒も効かねえよ。」
「おい人形遣いの七英雄を呼べ。」
「一斉にかかれば…あるいは」
「下水道に捨てて……」
「いや、その前に死体を切り刻んで……」
普通、英雄とは国民から慕われるものだ。
それが尊敬であれ、畏怖であれだ。
しかしガリアの野郎の大半は俺を敵視している。
生徒とか若い少年は別にして冒険者の野郎だな。
理由は嫉妬。
色々、偉業を成し遂げているし、感謝もされているが女関連となると奴らは飢狼と変わる。
ガコライは例外中の例外だがアニに手を出そうものなら彼は最前線に加わって俺に襲い掛かるだろう。
この女の為なら英雄をぶっ殺して死体処理の算段まで始める野郎共には頼もしいやら、恐ろしいやら、飽きれるやら。
テレサが吸血鬼だとか、お前らの血を狙っているとかは美少女という単語の前では無に等しい。
むしろ、奴らは喜んで首を差し出すだろう。
世界は変われど、男は変わらないな。
「……後で瓶に入れて渡すよ。」
「え~其処は古き良き伝統に則って、首筋に被りついてキスマークとか吸血鬼マーク――」
吸血鬼にとって異性への吸血は生殖、求愛行為。
その意味を理解している野郎どもの返答が殺到した。
『―――シィッ‼』
四方からの飛んできた返答を片手で全て掴み取る。
しかし実に恐ろしき男の嫉妬。
掴み取ったナイフは未だに運動エネルギーが消えておらず激しく揺れている。
周囲の嫉妬に狂った冒険者達の実力が伺える見事な【投擲】スキルだ。
「テレサちゃん?」
おお、ナミさん貴女がいましたね。
貞淑とヤンデレに定評があるナミさん。
……火に油だな。
それを理解し、ナミによる制裁が下ると若干溜飲を下げ、折檻を羨ましそうに見る男数名。
「私は精を吸い、「すいませんお勘定を、釣りは要りませんので」
お前もかイザナミ
裏切りどころか、予想できていた返答に対し、俺の行動は迅速だった。
台詞を遮り、銀貨をテーブルに置き、ドリンクを飲み干し、
急いでナミとテレサを引き連れてナミのお勧めの劇場まで転移で逃げる。
残された席に嫉妬と怒りに狂った野郎どもの攻撃が殺到したの語るまでも無いだろう。
血の涙を流しながら魔王狩りを始めた冒険者が出たとかいう怪談がこの日、ガリアに生まれた。
裏イベント
狩猟祭(裏)開幕
内容 とある魔王の狩猟祭り
フラグ テレサとデート。
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(´ω` )独身貴族A「狩りじゃ」
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( ꒪Д꒪)魔法使い♂「狩りの時間じゃ!!」
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(Ο-Ο―)最強人形師「魔王狩りじゃ~~~~!!」




