息もつかない安息日
連続投稿ですのでお気をつけて下さい。
1/18 19時 更新。
1/19 0時 更新。
構えを取らず脱力した状態のアリシア。
狙うのは彼女の心臓。
使うのは姉が使って見せた構えを取らない構えから放つ最高速度の攻撃だ。
都合のいいことにカグヤからは仕掛けない。
『きませい』
その宣言通り、カグヤは先手を譲り、後の先でアリシアの技を返す。
幻といえどその技量は変わらない。
いや、幻故にその技量は自身が見て、体験し、想像しうる限りの最高水準の一撃が完全再現され襲ってくるだろう。
好都合。
強者を屠るのは同じ強者では無く、弱者の専売特許と言わんばかりに必殺の一撃を放つ準備にかかる。
――源呼吸。
体内の気と対外の魔力を取り込み、精霊因子を活性化し霊力を高め、潜在能力を呼び覚ます奥義。
全身全霊を込めての一撃を放つ。
心身共に最高の状態へと保ち、一息で相手に複数の斬撃、刺突を繰り出す絶技。
何千、何万回と繰り返してきた斬撃を連続して放つアリシアが最も得意とする九撃必殺の剣。
呼吸を整え、脱力した姿勢から最速の刺突。
全身全霊の九撃必殺剣が今、一息で放たれ――
『――無拍子』
刹那、アリシアは言葉が届かない領域にいながら、幻のカグヤの一言が幻聴こえた。
放たれたのは準備運動なし、奇しくも姉が体術の訓練で見せ、先のアキラがカグヤの心臓を貫いた決死の技。
アキラが使えば相討ちで終わった技。
「――あ、ごふ!!」
――幻痛
幻、故に身体は無傷、損傷は無い。
肉体的なダメージは一切ない。
にも関わらず身体がビクンと震えて手足の感覚が消える。
鉛の様に身体が重くなる。
視界も暗くなり、心臓が止まっていると錯覚する。
脳が心臓に多大なダメージを受けたと錯覚して拍動を抑え命令を出している。
自分は戦えると意思を強く持っても動かない。
この一撃を喰らえばそうなってもおかしくないと脳が誤認してしまった。
アリシアを襲った攻撃の正体は神刀では無く無手による手刀撃ち。
アキラが命を賭してカグヤと相討った結末を嘲笑うかの様に、完成された必殺の一撃が死神の弟子の心臓を貫いていた。
愛すべき師の技で弟子を殺す無慈悲の一撃。
その正体に絶望と憤怒を滾らせるも身体が光りだす。
転移光。
肉体は相変わらず無傷。
しかし、心臓が止まり、生命が危険にさらされていると迷宮の魔法陣が判断し、アリシアを一層へと飛ばそうと働きかける。
アリシアは一矢を報いること無く一層に戻される。
これが結末。
決して超えられない七英雄、その頂点の壁。
転移光が溢れ出す。
『素質はあるようですが、まだまだでしたね。』
勝利を確信し、死者への手向けに言葉を紡ぐ、カグヤ。
「ええ、もう終わりですね?」
「――は?」
次の瞬間、カグヤの無拍子を超える速度で繰り出されたアリシアの手刀が幻の首を跳ね飛ばした。
◆◆◆◆◆
『――あらあら負けたのかしら……何故なのか答えを訊いても?』
理解できない。
オリジナルには届かなくても最強の存在を模倣した幻影は混乱する。
心臓を貫いても身動きできるのは即死でないのは理解できる。
だけど何の痛風もなく動き出すのはあり得ない。
心臓麻痺になりながら、常人以上に動けるものなどいる筈が無い。
疑問の表情のまま、幻影は消えていく。
そんな幻影を見下ろしながら無詠唱で心身の治癒にかかるアリシア。
「迷宮の一部なのに、理解できなかったんですか? 貴女が倒したアキラが得意とする裏技ですよ。」
『うら、わざ?』
師匠と同じ様に、悪戯が成功した表情を浮かべるアリシア。
そして指を三本立てて、一つずつ折りながら説明する。
「一、学園迷宮の冒険者は死亡相当のダメージを受けると同時に、一層へ無傷で転移される。」
アリシア達、候補生全員に迷宮に足を踏み入れると同時に転移魔法と治癒魔法が掛けられている。
「二、魔物及び、素材はダンジョンマスターの許可なく外へ出ることが出来ない。」
アリシアはクルトの魔剣では無く、裏切りの魔剣を持って仲間が帰ったのを見計らい、一人残ってカグヤに挑んだ。
そして殺人鬼化した者は人に害を為す魔物と判定される。
迷宮にいる魔物は転移の対象外の為、転移魔法は不発。
しかし生徒でもある為、遅れて治癒魔法が発動する。
転移魔法と治癒魔法の誤差を利用して死を偽装できる。
つまり、疑似的に不死身になれる。
「三、私は死神の弟子。【窮鼠猫噛】も習得済みです。」
幻影が先ほど、私と戦う前に幻影に苦戦を強いられたスキル。
術者が瀕死、満身創痍の状態である事。
以上の条件を満たして初めて発動する巨人殺しの一撃だ。
自身の必殺技をも囮にし、迷宮の理を欺き利用し臨死から蘇る間に放つ死神の第二の刃。
これが私の策。
これが私、アリシア・ド・マイヤール!!
『ふふふ、見事ですね……まさか、幻影を倒すなんて、ね。そして、仮初とはいえ最強の幻想に敗北を与えるのは心苦しいもの……ですねぇ』
寂しそうにそれでいて無念そうに消えていくカグヤの姿をした幻。
たまらず、フォローしてしまう私はやはり、暗部には向かない。
近衛騎士に入って正解だった。
「……いえ、はっきり言って尋常の勝負だと私ではカグヤさんには勝てません。それに……」
騎士として尋常の勝負を挑めば負け、影として裏技を用いて勝っても心は晴れず、成長しない。
知略を尽くして強者を下すのは弱者だ。
しかし、私は弱者のままでいるのを自分を良しとしない。
「また、戦いましょう。三度目は今より強くなって正々堂々と本物を打ち負かします。」
『ふふふ、頑張ってね? でも本物と《主》は二人ともお強いですから……それこそ貴女の心の中の幻影以上にね。』
その言葉を最後に幻影は消えた。
「ええ、身に染みて分かっています。」
狩猟祭、武具大会。
動き出したロマリアと勇者。
そして、その背後にいるであろうアキラ達を召喚し、平和だった世界を戦乱へと変えようとする黒幕。
今のままでは、半年前同様、アキラの隣を歩けず、本物にも勝てない。
だけど、今は違う。
半年前と違ってアキラの背中が見えてきた。
「それにしても、息もつかない日でした。 全然、安息日じゃないですよ、ホント。」
先ずは、まったく息もつかない一日の締めくくりを仲間たちと一緒に酒場でハメを外して過ごそう。
何せ、今日は安息日。
そして授業ではないから真面目な優等生アリシアの仮面を捨ててバカみたいに騒いでガス抜きしよう。
そして後日、この息もつかない安息日の一日をアキラやクラリスに報告するんだ。
迷宮でカグヤに勝ったと言ったら二人は驚くだろう。
ふふ、今から楽しみだ。
◆◆◆◆◆
アリシア・ド・マイヤール
レベル165 → レベル231 NEW!!
偽帝( ̄□ ̄ *)( ̄□:;.:... ( ̄:;....::;.:. :::;..
真アキラΣ(・∀・;)「死亡フラグの霊圧が・・・消えた・・・?」
シアシア(;´・д・)=3ハァ「はぁ~やっと一息つけますね~」
偽アキラ( ・∀・;)「……まさかのガンスルーだと?」
次回より、新章『狩猟祭編』




