来ちゃった。
今年もよろしくお願いします。
『ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ‼‼』
――生徒と魔物の悲鳴が29層に響き渡る。
聖剣を抜くと同時に、地面が黒く染まり闇が竜の咢が生徒を飲み込む。
反撃する間もなく飲み込まれた生徒は死亡と迷宮に判定され一層へと強制転移で飛ばされた。
転移光で闇で構成された竜が一時的に体が崩れるが直ぐに再生が始まる。
残されたのは光り輝く聖剣のみ。
その光景を見ていた生徒たちは理解する。
この剣は勇者ではなく、愚者を選定する剣だ。
魔物を封印していた聖剣を抜き、封印を解くであろう愚者を選定する場であった。
だが、訓練で良かったと安堵するのはまだ早い。
後悔と羞恥が生徒たちを襲うが、封じられた魔物は健在だ。
29層の攻略へと意識を戻す――前に背後から奇襲を受け、再び転移光が29層を照らす。
魔剣を持った裏切者が血の涙を流しながら武器を振るっていた。
裏切りの魔剣。
クルトの魔剣が対精霊・召喚獣戦に特化した【神殺しの剣】なら。
ロマリアの魔剣は人間の命を奪う事に特化した【英雄殺しの剣】
時の為政者にとって脅威、異端認定された【勇者】と【聖人】を殺す為の武器。
英雄譚の最後に登場する裏切りの剣。
いや、剣と呼ぶ事すら烏滸がましい。
剣の形をした魔物、正しく魔剣である。
強大な力を得ると同時に、持ち主の英雄となった親友、愛する者を手にかけさせる魔物。
意思を持っているかのように魔剣は不気味に揺れ、
闇竜と同じく次の獲物血を求めて裏切っていく。
封印が解けた魔物の軍勢、裏切りの剣士。
ここに愚者は選定された。
生徒たちは仲間の半数が消え、魔物側に取り込まれ、窮地に追い詰めら―
「竜の分際で食い残しか? 残さず喰らえ!!」
ジークが仲間を喰らった闇の竜の咢に拾った聖剣を自分の腕ごと突き刺す。
牙を砕き、口内に突き刺さり、光の奔流が闇を蹴散らす。
その隙を逃すまいと背後から襲い掛かる裏切りの魔剣士。
だが、凶刃は振るわれることはなかった。
仲間の絆が剣の呪いに打ち勝った?
――違う。
剣士の手首の筋を断つ様に矢が突き立てられている。
樹海の中からの狙撃。
木に登り、剣の届かない安全地帯から身を潜め、狙撃する狩人。
「樹海で方向感覚は鈍るけど、霧程度で曇らせるほど私の【鷹の眼】に依る【狙撃】は甘くないよ。」
次々と矢を放ち、剣士の手首を、竜の眼を針の穴を通すような精密射撃で打ち抜きサポートする。
「【ショック】療法! 【ショック】療法!! 右斜め45度にして【ショック】!!」
僧侶のフードを被った新入生が聖具を着けた右手ではたき、殴っていく。
聖職者が卒倒する様な光景だが以外にもロマリアでは悪魔祓いの一種として認められている。
悪魔憑きの除霊方法は二つ。
『祈る』か『殴る』かである。
光の大精霊・ルーを信仰する十字教信徒は被術者、信徒の精神を癒し悪魔を説き伏せるといった詠唱魔法として経典を読み上げる『祈る』術を習得している。
効果は術者の信仰や魔術の腕に依るが誰にでも使える上、秘術者の負担が少ない為、広く知れ渡るが詠唱時間が長いという欠点がある。
その欠点を改善したのが答えの一つが『殴る』であった。
生贄の羊に憑依させて首を跳ねる手法が源流。
そこから生贄なしで、殺傷能力なしで悪魔のみを追い払う手法が研究される。
聖餅、聖具、聖水、聖油、聖油を投げつける、飲食させる。
果ては、信仰の力と素手のみで祓う技が編み出される。
即ち悪魔だけを除霊(物理)する技。
【祓魔の拳】
一説には異端者や悪魔・悪霊を説得(物理)してきたマグドレア家が開祖とされる。
その末裔であるクレアは同じ釜の飯を食べた生徒を祓魔の拳を的確にお見舞いする。
裏切りの剣に憑かれた同級生の頭を時には剣事態に殴りつける。
不確かな精神論より痛みによる躾も含めた打撃の方が目を覚ますと言わんばかりに殴り続ける。
拳は白く光り輝き、殴られた生徒の頭や魔剣から紫色の瘴気と魔力が霧散していく。
効果は抜群である事は疑いようがない。
因みにこの手法を知った某・人形狂いの変態医師(関西在住)は以下のコメントを残している。
『―ってただのツッコミやないか~い』
これこそがロマリアを影で支えた秘儀。
眉唾な民間療法がスキルとして昇華し、撲殺神父の奥義である。
「――ッハ!? お、俺は一体何を?」
「うっ、頭が」
――このショック療法は特別な訓練をされた聖職者が扱っております。
決して真似をしてはいけません。
その後輩の治療(物理)の光景に若干、引きつつもアリシアが呆けた生徒を一括する。
「貴方達!新入生の女の子が戦っているのよ! 何時まで呆けている!?」
その声で自分を取り戻し
【縮地】で樹海を縦横無尽に駆け巡る。
右手に持ったクルトの魔剣で闇竜を消し飛ばし。
左手に魔剣を持った霊剣日立で悪魔憑きの生徒を叩き伏せる。
アリシアは特別な訓練を―以下略。
「悪いが先輩、同輩……飛ばすぞ?」
追従したベルゼは武器を落とした仲間に重力の塊で作った殺傷力を抑えた衝撃波を放ち
味方の陣営へと次々と吹き飛ばしていく。
そうして飛ばされた仲間を襲わせない為にジークが竜を牽制。
ソフィアは矢継ぎに援護射撃をかけていく。
クレアは治療(物理)を終え正気を取り戻した者、難を逃れた者達が戦線復帰。
協力して竜と裏切りの魔剣を攻略していく。
加えて罠の引き金となった聖剣を拾い、罠の引き金ではなく攻略する鍵として活用し始める。
そして―――
「まぁまぁといった所ですね。」
魔物と罠の殲滅に成功した。
混乱はしたが、十分もかからない内に事は終わった。
犠牲は聖剣を抜いた者達と魔剣に斬られた者たちを含めても全体の五分の一。
本来なら欲にかられた魔剣所有者とそれを止めれなかった未熟な者も一層に飛ばされただろう。
冷静さを欠かなかった者達の尽力で被害を抑えることが出来た。
何故、教えてくれなかったと糾弾するものはいない。
彼らは競争相手でもある。
安息日での自主学習も近日中に起きる収穫祭と武術大会、そして卒業後も競い続ける事になる。
あるのは自身の迂闊さを恥じる心だ。
頭、手首と鳩尾に痛みを覚えていたが、それ以上に自分の未熟さを痛感した。
この29層の森で愚者は選定された。
個々が地上なら死んでいただろう生徒。
しかし愚者は未熟さに気付いた。
賢者や勇者へと変わる為の切っ掛けを手に入れていた。
「30層はもう目の前です。ガリアの未来を担うのなら、その気概を見せてみろ!!」
アリシアの一括。
普段の慇懃な態度、口調を捨てての強い言葉に未熟な愚者だった者たちは立ち上がる。
『おう!!』
彼らはガリア士官候補生。
自身の能力を高め、技術の研鑽と知識の収集を目的に門を叩いた若者。
学舎と迷宮で心身を鍛え冒険者や退役軍人、果ては七英雄という時代を作った者達に鍛えらえた若者。
彼らに追いつき、追い越す人材なのだ。
「どうやら、この場に愚者はいないようですね。いるのは勇者の軍勢だけですね。」
「どっちかというと魔王の軍勢かも知れねーがな。」
「魔王は否定してますけどね。」
「子供に恐がれる所か、懐かれてますけどね。」
「俺は好きじゃないぞ。あ、俺はガキじゃないって意味で。」
彼らはガリア候補生。
近い未来、ガリアを明るく照らす英雄のタマゴである。
◆◆◆◆◆
~30層前~
霧と剣が立ち並ぶ、樹海を抜けると……そこは戦場だった。
元は草原だった大地は焼けた荒野へと変わり、剣が墓標の様に突きたっている。
其処まではいい。
見覚えのある砦が奥に見えるのもいい。
あの門が30層への入り口なのも察した。
この場に不釣り合いなでかい雪だるまがあるのも百歩譲ってもいい。
問題は|砦の前にいる二人の男女、特に女がいるのが問題だ。
『俺を引き入れるとか欲しいとか言ってた割には随分だな?』
『貴方を愛したい事と殺したいという欲求は私にとっては同義なんです。』
黒い背広に白衣。
鋭い眼光と剣呑な気配は死神を思わせる。
そんな男は軽口を叩きつつも油断無く、片手剣を構えて女と相対している。
彼は許容できる。
何故なら生徒が信頼を置く教師でもあるからだ。
問題は殺しと愛が同じだと戯言を吐く女だ。
「そんな法則初めて知ったよ。告白が殺したいとか斬新過ぎて涙がでそうだよ。」
「ご安心を、此処まで人を愛したい殺したいと思ったのは、私の人生の中で唯一私に傷を負わせた貴方だけです。」
その女は美しい東洋の刀剣を持っていた。
『いや嫉妬じゃないからな?』
その女は背中だけでも他を圧倒する美しさが見て取れた。
「さぁ殺し合いましょう」
その者は蒼い炎に包まれた戦女神だった。
若者たちは思う。
愚者でもいいから、生きて帰りたいです。
生徒たちの明るい未来に暗雲が立ち込めてきた。
戦女神(*´∀`)「来ちゃった~♪ 今年も宜しくね~♪」
死神(;´Д`)「やっぱ今、思い返しても史上最悪の告白だよね。むしろカミングアウト?」
戦女神( ゜言゜)「あら~新年早々、何か急にムラムラと来ちゃった~♪」
死神(;∀;)「性的な方ですよね!そうだと言ってよ!お願い!神刀しまえ!!」
シア(;゜Д゜)「これが時代を作った英雄……私も見習わないと!」




