詫び石
連続更新3日目
短めです。
~ガリア宮殿~
多少、混乱はあったがクラリスとリーパーの仮契約が済んだ。
契約が済んだ所で受業を終えた所で昼食の時間になり、リーパーを含めた三人で摂ることになった。
「えっと外側からナイフとフォークを使うんだっけ。お父様。」
「間違ってない。後、自前の箸を用意して自国のマナーだと言い張る裏技もある。」
「楽しんで食餌を摂るのが一番のマナーですから、問題ありませんよ。」
リーパーと一緒に昼食を摂ることになった。
召喚したクラリスとされたリーパー。
二人は当初は少々、混乱したが早々に持ち直した。
リーパーは召喚して申し訳ないが自分は仕事を放り出して来たので急いで帰るといった。
しかしクラリスはこれに待ったを掛けた。
自分で招いておいて歓待も土産も無しに帰す訳には行かない。
仕事先には私が話を通し、補填もする。
丁度、いい時間ですし一緒に昼食を摂りましょうと説得。
幸い召喚された場に雇用者、兼保護者の俺がいた為、これを快諾。
昼時だし、ノルマも昨日の様子から十分果たしている。
少々、働き過ぎな彼女に休暇を与えるのも吝かでは無い。
そして、今に至る。
給仕達が料理を次々と運び、食卓に配膳していく。
並べられたのは素朴な料理だ。
宮廷料理といっても胃に来る豪華な物ではなくシンプルな物だ。
野菜や豆、ソーセージ、チーズをメインにした料理が多く、混ぜたり焼いたり、煮込んだりだもの。
オーヴェルニュ地方の郷土料理だ。
王都から少し南下したガリア中心地にある辺境オーヴェルニュ。
オーヴェルニュは自然溢れる土地で農業と酪農が盛んだ。
其処で取れた野菜、チーズ、肉類は宮廷料理に使われるくらいには美味い。
その土地の郷土料理も農家や山小屋で作られた感がある。
各地方の家庭料理や郷土料理を宮廷料理として出されるのは珍しくはない。
何故なら美味いから。
シンプルで素朴な料理のオーヴェルニュ料理なのに滅茶苦茶旨い。
朝のトロトロプレーンオムレツ同様、料理人の腕が全て出されるメニューなのだ。
「ふおおおおお!! シェフ!シェフを呼んで下さい。お肉が美味しいです!!」
「ふふふ、シェフも喜びますわ。」
あまりの旨さにリーパーが若干、幼児退行してる。
料理漫画よろしくこのまま服でも破らんばかりの勢いだ。
しかしこれでは俺が碌な物を食べさせない親みたいで彼女に申し訳なさを覚える。
いや、地下迷宮にもメイドも食事も用意してある。
これはこの城の料理人の腕が良すぎるのだろう。
うん、料理長すげー。
でも釘を刺すのは忘れない。
『美味しいのは分かるから、少し落ち着いて食べなさい。』
『あ、す、すみません父様。』
口で注意せず、念話で注意を促す。
彼女も俺の意図を察して念話で返事する
反省し、顔を赤らめて小さくなるリーパー。
それを見て、クラリスは察したのだろう。
ムっと俺を少し睨んだ後、即座にフォローに入る出来るお姫様。
「アキラさんも朝はリーパー様と同じように感激されてたんですよ。」
――っておい! 俺の威厳が台無しだろ!!
「余計な事は言わんでいい。」
「本当に親子……なんですね。」
「は、はい!!」
そんな感じで談笑しながらも楽しい昼食の時間を過ごした。
◆◆◆◆◆
『――と、言うわけで今、リーパーは宮殿にいる。念話掲示板にも発表しておく。』
『ショウチシマシタ。生徒達も21層を拠点に活動する様なのでお嬢様抜きでも問題ありません。この機会に羽を伸ばして下さいませ。』
目をつむり、思念波を王立学園の地下迷宮まで飛ばす。
予想通り、彼女が守っていた中層に隠していた地上と繋がっている転移魔法陣が開放されていた為、20層の守護者と念話が通じた。
リーパーの分身が此処にいる事、迷宮の探索状況等を確認した所、生徒たちは中層を拠点に活動しているらしい。
半分は中層の自然公園に配置した魔法陣の研究、拠点の設置、20層の守護者との対決。
残りは今回手に入れた素材を使って武器の強化か、換金して街へ繰り出している様だ。
22層へは少し様子見した程度で23層は未だ、開放されていないようだ。
狙い通り、自分たちの実力の底上げに意識を向けることに成功したようだ。
『留守は任せたぞ。何かあったら念話で連絡してくれ。』
『エエ、主様もお嬢様とご一緒によい安息日を……』
念話で掲示板に運営側のミスで迷宮の不具合でボスが転移した事をキッチリ謝罪。
本日、参加した学生たちに補填として魔石を配布する事にした。
詫び石というやつだな。
魔石も決して安くはない。
無いがポイっと払う位には俺も稼いでいるしそれくらいの補填はしないとな。
ジークやアリシアに関しては石より、実戦とか練習相手に飢えているだろうから後で俺が直々に稽古をつける事にする。
補填はクラリスが払うと言ったが、彼女の実力を過小評価した事が原因だ。
何より彼女は俺とリーパーの関係……リーパーの出生や正体に深く訊いてこない。
別に隠す気は無いし、リーパーもどうせ前口上とかで俺の娘と名乗っているので気にはしないが、其処は気遣いの出来るお姫様だ。
この点だと闇や力に溺れる事も呑まれる事も無さそうだ。
便利な眼やスキルで少し傲慢になっていてな。
ちょっと自分の定規で生徒を測り過ぎていたな。
真逆、不完全な魔法陣を使って分体の彼女を召喚する程まで伸びているとは……この年頃の若い子は驚く程、成長するな。
念話を切り、意識を中庭で仲睦まじくお茶を楽しんでいる少女たちに向ける。
「武闘大会?」
「ええ、リーパー様は参加されないのですか?」
「というか参加出来るの?」
「ええ、新人であるなら、身分や種族は問いません。」
「へ~少し考えてみるよ。」
――主従というより、友人関係だな。
だが、嬉しい誤算だった。
この仕上がりなら予定を少々、繰り上げても大丈夫だろう。
「【影転移】」
俺は不要になった魔法陣を燃やした後、転移で城を後にした。
計画の前倒しもそうだが、休み明けまで……もとい休憩時間の合間に人数分の詫び石を集めるとしよう。
次回 明日の21:00更新




