不屈の教え
日刊連続更新2日目
---王立学園食堂---
食堂は安息日であるにも関わらず、何時も以上に賑わっていた。
武具大会で王都とその周辺各年に出場者と観光客がごった返しているからだ。
加えて休日返上で迷宮に潜った生徒達が一度に戻ってきたからでもある。
そして賑わっている食堂の真ん中に今回の迷宮踏破の主力たちが反省会を行っていた。
「あのタイミングで消えるとか……勝ち逃げかよ。」
「勝ち負けは兎も角、誰にとっても不本意な結末だったのは認めますね。」
ジークがマンガ肉の様な形の肉巻きを豪快に齧り付きながら愚痴る。
今回の迷宮遠征で大量に素材を手に入れたので、少々豪勢な料理を頼んだのだが不完全燃焼で終わっただけにあまり気は晴れない。
やはり勝利という調味料が無ければな…と再度、肉にかぶりつく。
アリシアも魚の香草焼きとパスタを食べながらも『ボスが突如消えた』あの結末にはジークに同調する。
新武器を持ち、その成果を全て叩き込むつもりで挑んで結果がこれだ。
あの戦いの後、収穫は確かにあった。
1層と21層を自由に行き来出来る転移魔法陣の発見
高い効果を持つ薬草や茸の採取
各所に設置された環境維持目的の攻撃魔法陣。
休憩所になりうる21層の拠点化。
今後の修業を行う為の下地は出来たといえる。
しかし、ジークとアリシアが最も欲しかったのは『強者との戦い』と『勝利』だ。
自分達と七英雄の間にある超えられない壁を超える為に武具大会の参加登録し休日返上で迷宮に潜っているのだ。
主力組の中でもこの二人の落胆は大きかった。
「一瞬だけどあのボス、光ったよね。クレアちゃん。あの光が何なのかわかる?」
ピザを頬張りながらクリスタが神眼の聖女の異名を持つ新入生に不可解なボスの失踪原因を尋ねる。
「あれは召喚光ですね。普通に考えたら先生が呼び出したのでは?」
「……んぐ…取締役がぁ? あの人は修業の名目で配置したって素振りだった。いきなりそんな真似はしない。」
クレアの意見をアキラの部下でもあるベルゼはサンドイッチをパクツクのを一度、止めて否定する。
アキラを一方的に恋敵として敵視しているベルゼだが、彼の教育方針や部下の運用など仕事に対するスタンスは身を持って知っている。
アキラは仕事に関して半端な真似はしないという点は信用していたからだ。
「お昼の時間になったから自分で帰ったのでしょうか?」
「「「「「それは無い(でしょう)(ですね)(です)(な))」」」」
「うん、言ってて自分も無いと思う。」
戦ったからこそ、彼女の性質を彼らは理解した。
あれは美食家だが三度の食事より戦いが好きなタイプだ。
30層の守護者は突如消えた。
だが、彼女はカグヤにも似た大人しく見えて好戦的で負けず嫌いな性格だ。
昨日も追い詰めたと思ったら石鎧を召喚して全員を叩きのめした。
残された石鎧も主の残留思念でも移ったのか中身が空のまま襲ってきた事からもその戦いに関する執念深さが伺える。
リーパーはアキラと父娘関係だといったが、そういう点は確かに似ていた。
最も中身なしの鎧に負けるほど学生達も温くはない。
難なく倒したが、その勝利への執念は十二分にと感じとれた。
あのまま中身ありで戦いが続いていれば勝てたかどうか。
「まぁここであーだーだいっても答えは出ねーな。反省は次に活かそう。それに休み明けに不満を燃やさん勢いで現れるかもしれんし本来の持ち場である30層までいけば嫌でもぶつかるだろ。」
「そうですね。では次回までに20層の石像エリアをゴリ押しで踏破出来るようにしましょう。
幸い今回の転移魔法陣で行き来する時間は短縮できるようになりましたしね。」
脳筋&肉食二人組が今後の鍛錬方法について話しだす。
一方、フィオナは草食系の後輩に武器強化について話し合う。
「今回の石鎧や樹木で弓、弦、鏃を強化したいんだけどベル君の職場って取り扱ってくれるかな?」
「先輩の武器ですか?武器商としての仕事の依頼は先生や俺を通さないで下さいよ。」
ベルゼが働いている職場は武器商兼民間傭兵会社だ。
武器、傭兵共に質が高い為、ベルゼを通して依頼をしてきた先輩ベルゼは辟易する。
「草食系で先輩思いの可愛い後輩の相談役を請け負ってもいいんだけどな~」
「分かりました。優先的に話を回すよう努力しますからその話題は止めろ下さい。」
一瞬で折れた。
鷹の目を持つ狩人の洞察眼の前にあっさり屈強な少年兵は降伏した。
好きな娘の前で自分の恋心を暴露されるのは生命より自分の魔力より重いのだ。
その当たりが草食系なのだが、ベルゼは気づかない。
「ベルくんに想い人が?」
「ああ、アキラ×ベルくんですね。逆だとだいぶ意味合いが違いますが。」
「何ですか?その数式は?」
「ああ、それはですね。男の友情というか、色々障害を超えた――」
「異文化侵略というか腐教は其処までにしようかサクストン先輩?クレアが汚れる。」
即座に復活してクレアを守る程度には男の子らしい。
ベルゼも自由の槍の職員として帝国で開催された即売会に警備として参加しているのである程度、その手の知識を齧っている。
故に、クレアを侵食する魔の手を防ぐ為に立ち上がる。
彼にとっては守護者や迷宮の件はどうでもいいようだ。
「腐腐腐……マリアちゃんによって貴腐人に熟成した私を草食ヘタレ攻め君では防げませんよ?」
ブリタニアからの腐の侵略は着実に侵攻中のようだ。
「聞き捨てならないな。そんな不毛で非生産的な関係、私は認めんぞ?」
過去の自分の事を棚に上げて後輩を睨む両刀使い。
「いや、先輩安心して下さい。俺は健全です。」
「そうそう、私の見た所、ベルくんにはその手の趣向は無いね。しかも二年生の中でもファンが結構いるよ~期待の新人だって。」
「つか風紀委員長の前で風起を乱す発言をするな。サクストンも、からかい過ぎだ。」
フィオナがフォローに入り、ジークが話を打ち切る。
フィオナの洞察眼は学園の知るところである。
その眼で得た情報から発する言葉の信憑性は高い。
ジークも少々荒いが、こういうフォローを忘れない。
故に彼が一声かければ何十人も迷宮攻略に集まり、戦場でも彼の指揮に皆が従うのである。
「ありゃりゃ、もうちょっと弄りたかったのに。風紀委員長、お固いですよ。」
「るせえよ、あんまり後輩を誂うな。」
「はーいごめんね。ベル君。」
「い、いえ。」
ジークに感謝の念を送りつつ安堵するベルゼ。
下手をすれば彼の恋が実る前に玉砕する危機だった。
先輩二人 (内一人は発端)に尊敬と感謝を送りつつ、
ベルゼは近日中に告白、いや大会で優勝してクレアに告白する事を再度決心した。
「話を戻すが鍛錬するにしろ、素材集めするにしても、暫くは迷宮の中層を拠点に活動するだろ
鬼のいぬ間に22層に潜ってもいいが、何方にせよアイツの持ち場は30層だろ? 課題も30層の突破だし、
今の俺達じゃちと厳しい。
着実に鍛えてあいつを倒して大会に臨む。これだろ?」
「まぁ三度目に立ちはだかっても今度みたいに逃がすつもりもありませんがね。」
ジークとアリシアの言葉に主力組が全員頷き今度は戦術や有効な武器に付いて話し合いだす。
他の学生たちの眼にも挫折や諦めといった感情は見えない。
貪欲に強さを求め、奢りを捨てた戦士の眼をしている。
これから魔法陣を研究するなり20層でボス戦を繰り返して修行するなどすれば学園全体のレベルアップにも繋がる。
また、リーパーという出現場所が固定されない強敵の出現に決して背を見せず戦うだろう。
一度目は遥か格上のカグヤに叩きのめされ、彼らは世界の頂点を知った。
二度目は同格でありながら単騎よく軍勢を押しとどめる技量と戦術の幅を知った。
強敵を前に挫折し、絶望する者はこの学園には居ない。
何故なら――
どんな障害も攻略する不屈の死神の背中を知っているからだ。
次回 9/3 19:00 更新




