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異世界攻略のススメ  作者: 渡久地 耕助
息もつかない安息日

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運命の昼

日刊連続更新 1日目

 ---ガリア宮殿 中庭---

 

 俺とクラリスはカグヤの宮殿と同じく、結界で隔絶された宮殿の中庭に出ていた。

 この世界の城の中庭とは結界を設置するのがデフォルトなのだろうか。


『【指差し(ガンド)】』


 姫様の突き出した指から、黒い球体が何発も発射され、中庭に突き立った木偶を撃ちぬく。

 本来なら指さした相手に軽度の状態異常を与える物理攻撃力の無い初級黒魔法。


 木偶に風穴が幾つも出来ている事から物理攻撃力を伴っているようだ。


『身の内に巣食う闇よ

  心蔵を貫く槍と化せ

否定呪槍(ネガティブスピア)】』 


 腕からニョロニョロと黒い影が触手か蛇の様に巻き付き槍を形成、同時に投擲。

 投擲された中級黒魔法(のろいのやり)は木偶の心臓を斜め上から貫き、地面に縫い付ける。

 この時点で大抵の人間は死んでいる(ライフは0よ)と思われるが、未だターンは終わっていない。


『竜の力に届きし闇よ

 我が血と竜の呪いを混じりて生命の光を奪え

 魔王の力を顕現せよ

 薙ぎ払え!!

 闇竜の吐息(ドラゴンブレス)』!!】』


 体を地面に縫い付けられた哀れな木偶に上級黒魔法(ダメ押し)が放たれる

 闇の奔流が通り過ぎると、結界にぶち当たり、魔力は霧散される。

 木偶はというブスブスと腐食し崩れていき、塵に還った。


 初級・中級・上級の闇属性黒魔法のコンボ。

 隙も少なく、効率もいい。

 詠唱魔法で行使したのは威力を高める為に術式を改造したからだろう。


「如何でしょうか。アキラさん。」

「正に呪いだな。」


 率直な感想を述べる。 

 彼女が行使した魔法は全て精神攻撃を主軸にした闇属性魔法だ。


「呪い……ですか」

「ああ、非殺傷魔法が全て、殺傷力を持った攻撃魔法に変質しているな。」 


 いや改造か。

 魔改造とまでは行かないが術式が一部、改造(アレンジ)されていた。


 威力は低いが短い詠唱で連射が出来る状態異常魔法(ガンド)

 影や対象を貫き、暗示と呪いで動きを止める拘束系魔法(ネガティブスピア)

 生者は気絶させ、死者を滅ぼす闇竜の吐息(ドラゴンブレス)


 全て精神を攻撃して相手を無力化させる非殺傷魔法のコンボの筈だ。

 だけどクラリスが放った魔法全てが物理攻撃力を有した呪殺(デス)コンボになってしまってる。

 原因は彼女の魔法のイメージと詠唱だな。 


「殺意や敵意のイメージが強すぎる。詠唱のフレーズにも魔法の攻撃対象、効果を指定するフレーズも変わっているな。」


 【否定呪槍(ネガティブスピア)】は『心を刺す』から『心臓を貫く』

 【|闇龍吐息《Dragon breath》】も正しい詠唱は『心の光』が『生命の光』にアレンジされている。


 この為、生物を気絶させる精神攻撃、霊体攻撃魔法が物理攻撃力を有している。


「アキラさんみたいにアレンジしました。」


 レシピ通りで良いんだよ。

 素人が変なアレンジを加えるから世の主人公が毒料理を食う羽目になるのだ。


 いや、彼女の場合は術の理解が深いから改造出来るのだろうか。 


「その研鑽と向上心は買うが闇属性魔法を使う際は、威力に依存しすぎは禁物だぞ。何故だか分かるな?」

「呑まれやすくなる…という事でしょうか?」

「そうだ。」


 彼女と俺は闇の大精霊(イザナミ)と血のつながりから親和性が高い分、威力もそれに比例して高くなる。

 呪いに関しては滅法強いし闇に属する魔物や悪霊による抵抗力、防御力も高いし、闇属性の禁止魔法を使っても代償は殆ど無い。

 だけど、強大な力を無制限に使えるようになれば、心が麻痺して人から段々逸脱していく。

 

 幾人もの自分を特別と勘違いした術者は全て身を滅ぼしてきた。

 事実、クラリスは闇属性の精霊因子の暴走で余命幾許となる程、病弱になっていた。

 俺も時々、心がざわついて好戦的になる。


 慢心ダメ絶対。 


「自分は特別という考えは捨てろ。自己暗示もいいが、過ぎれば毒だ。闇魔法の相性以前の問題だぞ。」


 俺の言葉に、シュンと項垂れるクラリス。

 そんな表情も可愛い。

 く! これがロイヤルオーラか!!


 俺が十代だったら間違いなく堕ちる!! 


 これを計算でやっていたとしたら恐ろしい王女だ。

 いや、王族だしナミの遠い子孫だから計算でやっている確率が高いけど。


「だけど詠唱は滑らかだったし、魔法の収束も良かったぞ」  

「あ、ありがとうございます!!」


 だけど褒める所は褒める。

 じゃないと伸びるものも伸びない。

 軌道修正して導いていけばいい。


 犠牲となった木偶28号は後で供養しとこう。


「それじゃ、準備運動はこれくらいにして、昼までに守護魔獣を召喚しようか。」

「あの、そんな昼食のメニューを決めるかのように言われても」


 座学を終え、魔法陣の理を粗方叩き込んだ当たりで直ぐに実践に移る。

 理科の授業と同じく、こういうのは座学と実験を繰り返して覚えていくべきだからだ。

 実験の無い理科の授業など味気ないだろうし、学習意欲も失せるだろうしな。


 というわけで、魔法陣の座学と準備運動も終わり、いよいよ召喚(実験)です。

 しかしクラリスは少々不安がっている。


 召喚術自体、身に余る力を求めた結果、召喚した魔獣に術者が食い殺される。

 又は、魂を取られるという逸話はこの世界でも広く浸透している。

 如何に精霊巫女として強大な力を使いこなせるようになったが、彼女は昨年まで精霊因子を制御できず、衰弱し、死にかけていた。


 身に余る力をもって破滅する事を身をもって体験しているのだ。

 召喚術なんて最たるものだろう。 

 世間が禁じているとかそういう理由とは忌避する重みが違うのだろう。


「ちゃんと慎重に慎重を重ねて準備してるぞ。」

「でも、事故が無いわけでは。」


 ふむ、これは下手に大丈夫だといっても効果は無いな。

 海にしろ空にしろ自ら危険へとダイブするのは勇気がいるし、実際、不慮の事故というのは起きる。  

 挑戦しない事でその危険は避けられる。 

 だけど得るものがありつつ、挑戦しても危険は避ける事が出来るのだ。 


「確かに召喚魔法は事故が無いわけでは無い……でも、そのほとんどは準備を怠った故の事故だ。」

「で、でしたら。」


「しっかり準備はした。強力な召喚獣が出ても大丈夫だ。」


 解読中の魔道書や召喚魔法陣の様な強力な者は未だ早い。

 勇者召喚や守護魔獣の様に条件や術式の細かい条件付けも無い。

 

 範囲はガリア王都。

 対象は人以外で術者のイメージ依存。

 強度はB級以下。

 視覚共有付与

 王女様への攻撃禁止。

 王女様の命令は絶対。

 

 これに術者の魔力とイメージを使ってランダム召喚するのだ。

 精々、家畜や鳥、調教済みの騎獣か魔獣が召喚される程度だろう。

 勿論、そんな術式が魔法陣に書かれていることをクラリスは未だ理解できない。

 

 さっきの黒魔法の連射を見てて危うさを感じたので一度、力の怖さというのを思い出させる。

 過ぎた力を前に使いこなす様に奮起するか、持て余すか見極め、その都度、正しい道筋を示す。

 

 だからここからは、本心を言葉にする。


「俺がそばにいる。だから安心しろ。」


 言葉を一つ一つ選び、安心させる。

 近い将来、魔道書を解読して呼び出す奴はクラリスを裏切らない。

 世界を攻略する鍵の一つというのもあるが、アイツも未だ発展途上だ。


 それに例え、この簡易魔法陣で勇者や魔王が召喚されても俺が絶対にクラリスを守る。


 まだ起きていない事に絶対だとか、約束だとかいう口約束は当てにならない。

 だけど、本心だ。


 ちょっとくさかったな?

 あれ、なんか恥ずかしい。

 なんだ、これ……


 なんというか、無性に穴が掘りたい。


「………えい!」

「ん?」


 クラリスはプルプル震えた後、軽く俺の胸にポカリとと拳を当てた。

 そのまま背と顔を俺から背け、スタスタと魔法陣の前まで歩き、召喚を始める。


 そして魔力を込める前にチラっと真っ赤になった顔を向けて消え入りそうな声でいった。


「信じてますよ。」

「ああ」


 そういってクラリスは魔法陣に向かって手をかざした。

 かなり気負っているのか、魔力を奮い立たせ、六枚羽を背中に展開する。


 うん、ちょい気合入りすぎだな。

 これで子犬が召喚されたら、ドッキリ大成功の看板を持って誤魔化そう。


 ---クラリス視点---


 深呼吸をし、私は静かに魔法陣の上に手かざします。

私の背中には翼とアキラさんがいる。

 

 そばにいてくれる。そんな当たり前で他愛無い言葉で鳥の高らかに舞い上がった自分の心に苦笑しつつも恐怖は薄れる。

 大丈夫、私は飛べる。

 

 精神を集中させ、背中の翼の刻印を活性化させ、魔力翼を展開。

 霊力・魔力の量に糸目は付けない。


 自分の身に余る力を持つものは呼ぶ気はない。

 私の身の丈にあいつつ、この国、友人、大切な人たちを自分の翼が届く範囲で守る力。

 英雄に頼るだけの現状を打破し、どんな理不尽も跳ね返す力を持った者を呼ぶ。  


 グリモアの解読が進んでいない以上、召喚された者が私を気に入らなければ武を持って屈服させなければならない。

 

 その為、臨戦態勢で召喚する。

 翼を展開し、余った霊気の翼を衣服に変え、青いドレスを黒の魔力法衣へと強化していく。


 準備は万全。

 

 あと、アキラさんはイメージが大切と言った。

 悪魔や召喚獣、精霊は術者のイメージや願望、人格、伝承に反映した姿で現れる。


 ネガティブなイメージを持って召喚すれば、喰われる。

 

 故に思い浮かべるのは私が尊敬する三人。


 不屈の死神

 天上の武神

 親愛なる姫騎士 


 あらゆる不条理を跳ね返し、この国を守護する存在。

 

召喚(サモン)‼」


 魔法陣がまばゆい光を放つ。

 そして魔法陣から深淵から漏れるような木漏れ日の様な光が私を包む。

 

 召喚獣の魔力が魔法陣からもれているのだろう。

 もうすこし、気配と魔力を感じ取った、今、この地と彼の地はつながった。

 

 と、そこで、ふと、何か違和感を感じた。

なんでしょう。懐かしいような、そうでもないような。

とにかく、魔力を込めます。


『……を揃え、…器を…え、………、…戦を変え……こう…なく…ね。』』


 どこからか、掠れた声が聞こえる。

 これが、精霊の声なのでしょうか?

 だれかと会話している? 


 いえ、ここで止めるわけにはいきません。

 手ごたえを感じ、そのまま召喚するまで。


『――ォォォォォォ!!!』

『あぁぁぁぁぁぁ!!』


 声が、はっきりと耳に聞こえた瞬間、魔力の供給を切る。

 同時に、ゆっくりと闇が収まり、私の視覚が回復する。

 まばゆい光の中から現れたのは……。


「ああああああってあ……れ?」


 黒い髪

 整った顔立ち。

 見覚えのある鋭くも美しい瞳

 森厳な雰囲気を出すエルフ耳

 王立学園の制服。

 腰には木刀。

 直前まで何かを握っていたのか虚空でワキワキと両手を動かしている。


「……お父様?」

「えっと?」

「……ある意味、大成功か?」


 こ、これは成功したのでしょうか。

 一応、私が願った通り…というか条件には適っています。

 女性ですし、騎士然とする佇まいです。

 うん、成功です。

 

 成功という事にしましょう。

 何か不穏なワードを口にしましたが、先ずは置いておきます。


 そして、あの台詞を使う好機でもあります。 

 

「――問おう、貴女が私の従者か?」

「いえ、貴女の後ろにいる者の従者(むすめ)です。」

 

 ……どうやら召喚は失敗したようです。


次回 9/2 19:00 更新


サブタイ候補

『これは従者ですか? いいえ、娘です。』


お久しぶりです。

高倉耕助改め、名無彬です。

初心に帰る為、ペンネームを最初のユーザーネームのNamelessに近い名無彬へと変更しました。


ご不便をおかけしますが、初心に帰りガンガン更新ラッシュかけます。

皆さんに一日でも馴染む様、頑張ります。

これからも異世界攻略のススメをよろしくお願いします。

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