とある迷宮の数奇な運命 弐
連日投稿です。
目が覚めるとボクは剣になっていた。
どうやらボクは本当に運がいいようだ。
ボクの体に突き刺さった剣はボクの魔力を吸い尽くそうとしていたが、
所詮は剣。
年季の差で意思を持つボクに軍配が上がった。
体は負けても意思の強さで剣を則ったのだ。
核と魔力は剣に奪われたが意識は完全にボクの物だ。
――ふふふ、それに剣というのは都合がいいよね。
何せ剣は剣でもA級の魔剣+魔の森の核だ。
相当な業物に進化しているに違いない。
加えて剣は生き血を啜る事で魔剣や妖刀になる事もある。
血肉に含まれる思念や魔力を吸っていけばダンジョンより効率がいいのだ。
――ボクの伝説の剣としての生が始まる。
持ち主の意思を則り世界旅行に繰り出してくれるわ!!
そして近くに人間がいるのを感じた。
――さぁ剣を取るんだ。
人を斬るのに抵抗があるなら初めは魔物でもいい。
ボクは血と魔力に植えている。
剣としての役目を果たす為に、血を魔力をそして体を寄越すんだ!!
さぁ、さぁ さぁ!!
ボクの思念が届いたのか、近くにいた男がボクの柄を握った。
――ん? 思念波が届かない。 あれ既視感
(アルジ、ダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイダレニモワタサナイ)
――し、失礼しました~。
うん、何これ?
なんか取り憑こうとした男の中に女性の怨嗟の声が響いているんだけど?
あれ、この男、何処かで見たような?
前世で会いました?
「さ~て後はこの剣を台座に刺して学園ダンジョンの完成っと♪」
明らかに魔王を超えて邪神か魔神の様な黒ずくめの男が魔剣を嬉しそうに台座に突き刺した。
剣に転生したボクは……前世でボクを滅した男が持ち主で、
取り憑く島も無いと知った。
そして、自分の野望が潰えた事を悟り、今世も数奇な運命を辿ると悟った。
◆◆◆◆◆
学園ダンジョン。
それがボクの新しい職場?らしい。
何でもガリアの隣国と同盟、停戦条約を結んだことで魔の森が一時的に不要になった。
戦闘の余波で地図から消し飛び核無くなった魔の森は今はペンペン草も生えない不毛な荒野となっているようだ。
しかも大地は天災級の魔力の残滓が残って魔物が寄り付かなくなっているとか。
あの土地を再利用するには時間が掛かる。
幸いにも核は偶然、死神が回収していた。
その為、魔の森の核を学園ダンジョンに移して一時的に保護、再利用するらしい。
停戦中は学園ダンジョンの核として魔力を汲み上げ、生徒たちを鍛えるらしい。
こうして魔剣となったボクは学園ダンジョンの最下層の台座に鎮座する事になった。
台座から地下を流れる魔力を汲み上げ、挑戦者達の流す血や残留魔力を吸い上げるシステムとなった。
――野望は頓挫したけど。考えてみれば悪くない。
最悪、森に戻る事もできる。
今は雌伏の時だ。
考えれば以前より待遇というか魔力の吸収効率も良い。
配下もゴブリンはデーモン、スライムはスライム娘?
回廊は子蜘蛛が這いまわり、回復の泉に模した毒の沼など罠が満載だ。
そして以前と違い人間が大量に訪れる。
ボクにもようやく運が巡ってきた。
「ぎゃあああ、背中に蟲が入ったぁぁぁぁ!!」
「う、この回復の泉、何だか気分が悪く…」
「スライム地獄!?、先生、一体、どれだけ生意気なダンジョンをやり込んだっスか!?」
ふふふ、未熟な生徒達は主の配置した凶悪な罠と魔物に魔力と悲鳴を上げていく。
実に心地よい。
――これは剣が人間化して世界旅行にいくのも時間の問題じゃないかな!? かな!?
生徒たちは十層に配置したデーモン君まで辿りつけてもいない。
生徒がやられても転移魔法陣と治療魔法陣が起動する。
生徒の魔力を大量に吸い上げてお釣りでボクが潤う。
ダンジョン内の魔物と道具に魔力を分配する。
これがWin-Winな関係だね。
『あらあら~ 一々攻略するのもいいんだけど~ 少し急いでるのよね~♪』
生徒のレベルを遥かに超えたナニカの声が鈴の様に響いた瞬間。
――ボクのダンジョンとしての本能が大音量で危険信号を発した。
冷や汗が止まらない。
いや、今は剣だから、汗なんて出ないはずなのに。
剣が濡れている。
ダンジョン全体が揺れている。
ボクはこの感情を覚えている。
これ……恐怖だ。
『泥棒猫を待ち伏せする為にも急がないと……』
その言葉と同時に、五十層あるダンジョンの装甲番が一撃で貫かれた。
『『『『ぎゃああああああああああああああ!!!!』』』』
ダンジョン内の各十階層毎に配置されたデーモン、ゴーレム、スライム娘、ドラゴンが断末魔を上げる。
ダンジョンの、床、壁、毎一直線に最下層に向かって青い炎の槍で貫かれたのだ。
直線上にいた魔物は消し飛び、直撃を避けても光熱と閃光に焼かれ、魔物が全て息絶える。
その炎の槍はボクが安置される最下層の天井に大穴を開けて漸く止まった。
そしてボクはというと意識が途切れかけていた。
当然だ。
ダンジョンはボクその物だ。
核は無傷だけど、魔の森の時、同様に、焼かれれば熱いと感じるしダメージも受ける。
人間に例えるな、心臓が無事でも全身に火傷を負い、内蔵をシェイクする様な痛みだ。
そんな激痛と既視感に耐えていると、この惨状を引き起こした者が現れる。
ふわりと、天井に開いた大穴から天女が降り立つ。
その天女の様な容姿とは裏腹に地獄の悪鬼もドン引きする様な所業に前世で覚えがあった。
忘れもしない、青い炎、悪魔的な所業、美しい少女、鈴のような声。
「あら~♪ どこかで見たような剣ですね~♪」
――戦女神の姿と声を知覚した瞬間、ボクは恐怖から意識は失った。
願わくば、平和な時代に生まれますようにと祈りながら。




