表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界攻略のススメ  作者: 渡久地 耕助
運命と因果の旗

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

198/238

回避力と生存フラグ

 アキラさんは死にませんでした。


 あらゆる魔物、災害、陰謀、戦争その全てを踏破して行きました。

 どんな絶望的な死地に行っても必ず生存しました。

 それもアキラさんだけではありません。

 

 彼の周りでは死そのものが希薄になっていったのです。 


「帰ってくる。」

「また会おう。」 

「今度はちゃんとお兄さんと呼ぶように。」

 

 子供たちの笑顔を消さないように再会の約束をしては絶対に帰ってきました。


 そうして付けられた異名が【漆黒の死神】です。


 本人は恥ずかしがってその二つ名で呼ばれるのが嫌みたいです。

 凄く恥ずかしがってしまってフードを深く被って顔を隠す程です。


 かっこいいと思うんですけど……

 街では詩になる程です。

 

 

 漆黒の死神がやってくる。

 その者、善神か悪神か

 何処から来たのか、何者なのか知る者はいない。

 闇だけが彼の者を知っている。

 

 鋭い眼光は運命を見通し

 右手はあらゆる秘薬の入った小瓶を隠し持つ。

 左手にはあらゆる命を刈る剣を持っている。

 体には冥界の黒衣を纏う。

 そして傍らには常に死を連れ添っている。

 いつも不気味に笑ってる。

 

 その者、命を運ぶ商人か

 はたまた命を刈りとる農夫か

 子供の命を狙う悪鬼か 


 夜に出会えば、命は無く、

 魂求めて今宵も彷徨う。 

 

 漆黒の死神は、いつも背後で笑ってる。

 闇だけが彼の正体を知っている。



 ……こんな詩が国中に広がってしまう程です。

 

 恥ずかしがって、黒服の上に白衣を着だしたりするのは別のお話ですね。


 そして畏怖や畏敬を集める一方でドロドロとした嫉妬や黒い怨念みたいな者がアキラさんの周りに憑いていた時もあります。

 契約していた大精霊のナミさんから放たれている邪気でした。


 何をしたのですか?

 殺気も混じってますよ。


 アキラさんは、そんなナミさんを教会の中庭で放って懺悔室で私と相談し始めました。


 懺悔室は、盗聴出来ないように強力な結界を張っているので好都合なのです。

 なので、ナミさんにもばれずに密談できるのです。


「この世か……イヤ、この国では女性に指輪を送るのって何か特別な意味があるのか?」

「? 結婚式では指輪を花嫁に送ります。」


 そういえば、アキラさんはテファ姉さまと違って孤児院の子供達の世話や掃除、


 家事手伝い、料理や薬品調合はしても冠婚葬祭の仕事には携わらなかったですね。


 でも、アキラさんの国でも花嫁に指輪を送る風習があるのですね。

 ……誰かに送るんでしょうか?


 何故かチクリと胸が痛みました。 


「あ~~やっぱあるんだ。」


 でも、アキラさんのその残念そうな苦渋に満ちた声を聞いた事で収まりました。  

 何なんでしょうか?


 無言でヒールを胸に掛けつつ、告解の続きをします。 


「アキラさん?」

「……指輪って教会(ここ)で取り扱ってる? それとも街で発注するのか?」

「結婚式に使うものなら、シンプルですけどここでも取り扱ってます。

 その際、寄付を頂く事になりますけど……あの……結婚されるんですか?」


 声が震えます。


 結婚と聞いて、アキラさんの周りにいる女性、あの紺色の髪と瞳の女性。

 闇の大精霊が浮かびます。


 普通なら兄弟子のアキラさんの祝い事。

 祝福しないといけませんが……


 あの女性がアキラさんを幸せに出来るとは思えないのです。

 彼女から強い独占欲と狂気を感じます。

 そんな不安を感じ取ったのかアキラさんは慌てるように、誤解を解くように話し出します。


「違う、違う。 お守りというか、厄払いに一つ作ろうかと思って?」

「は、はあ?分かりました、おとうさま……神父様から一つ譲ってもらいます。」


 その事を聞いてホッとしつつ、厄払い?という言葉に疑問を持ちます。 

 あれ?

 彼女とはそういう関係では無いのでしょうか。


 ……となれば、未だ大丈夫?

 はやく大きくなりたいです。


「えと、それで指輪の値段…じゃ無いな。寄付はいかほど?」

「アキラさんの月給の三倍になります。」

「……え”?」


 それはそれとしてです。

 ルー様も言っています。

 愛を伝える指輪は、月の稼ぎの三倍の価値を持って示せと。


 そして、一週間後

 幸せそうな大精霊と死の気配を霧散させたアキラさんの姿があったそうです。 


 また、死ななかった。

  嬉しいのですが、何だか複雑です。


 それが自分の固有スキルが上手く機能していない為なのか、それ以外が理由なのか。

 なんだか、もやもやします。


 何なのでしょう?


 おとうさまに相談すると、その日から夜な夜な自己鍛錬する様になりました。


 ◆◆◆◆


 二ヶ月前


 溜まりに溜まったツケを清算するはめになったあの長い夏の一日。

 臨界者の英雄が4人 

 準最強クラスの英傑

 古代人のベル君

 白い悪魔率いる自由の槍の精鋭

 トゥールーズの冒険者と暗部

 国軍、王女、近衛騎士の大量包囲網



 その全てがたった一人の男を捕まえる為の争奪戦に参加しました。

 あらゆる良縁、奇縁、因縁が絡み合った果て。


 空から国軍がアキラさんを包囲し、最後は七英雄と将軍クラスの実力者の包囲網により初めて本気で戦うアキラさんの戦いは苛烈を極めましたが、とうとう力尽きました。


 驚いたのは女性に怪我はなく、

 戦いに加わった男性陣は殆ど気絶させた事でしょう。


 私もおとうさまと二人掛りで挑みましたが、軽くあしらわれました。

 強くなったと思ってもアキラさんは遥か、遠くに言ってしまいました。


 判ってはいます。

 レベル、技量、経験ともに差が大きすぎるのだと。


 でも、臨界者になれば、私は……

 そう思うと踏ん切りがつきません。


 結局、力尽きたアキラさんは冒険者ギルドに簀巻きにされて連れて行かれました。


 その光景を目にして、私は自分の力の無さと子供だという現状を恨みました。

 悔しくて、追いつけなくて、それ以上に、今の生活を守りたくて……


 でも、それだとアキラさんに追いつけない。


 強くなれば、不幸になる。

 でも、強くなければ幸せになれない。


 私は今まで、幸せだった筈なのに……


 ◆◆◆◆◆


 そして、今。


 13歳になった私は。強さに固執しないままアキラさんとテファ姉さまが勤めている学園に入学した。

 レベルを上げないまま強くなるには、技術を高めていくしかない。

 幸い遺失技能【源呼吸】のスキルは鍛えれば、臨界者と渡り合えるスペックを持っている。


 これに私の目と体術、魔術を組み合わせれば……そして、あの狂気の様なアキラさんを取り巻く、奇縁、因縁の闘争から救わないと。


 そういう思いもあったのです。


 だけど……学園にはもう一人の私がいました。


 勇者と呼ばれるロマリアの最終兵器。

 そして、それに仕える従者達。


 アキラさんが、危ない。

 そう思って入学式の時に警告しに行こうとアキラさんの下へ走りました。


 ……早く助けないと。

 忠告しないと。


 そしてアキラさんを目にした時、私は絶句しました。


 アキラさんの身体に何本も黒い旗の様な呪いが突き刺さっていました。


 勇者の呪い。

 聖人の頂点である勇者には無自覚、あるいは自覚的に勇者は自分の目的を達成する為の加護と呪いを持っている。


 それは世界の意思として顕現し、外的を排除する力となって敵対者に襲い掛かる。 

 その呪い、意思が黒い旗という死の呪いとなってアキラさんを蝕んでいる。


 なのに、アキラさんは笑いながら、子供達と触れ合い授業を続けている。

 世界を巻き込んだ大戦を未然に食い止めてた英雄なのに。


 何も悪いことをしていないのに。


 世界を守る為に、子供達の笑顔を守る為に、戦ってきた彼を……

 世界は……勇者は……運命は、声を揃えて


「死ね」


 そう告げたのだ。

 そしてその意思を私の眼は余すことなく私に訴えた。


 

 ……何故、世界は彼を殺すの?

 また、彼から全てを奪うの……?


 …ユルサナイ。


『固有スキル『神眼』のスキルレベルが上がりました。 運命の改変が可能になります。』 

『生存フラグを立てます。』


 ドコカ無機質ナ声ガ脳内ニ響イタ気ガシタ。


「こら!」

「ふえっ!?」


 ピコンっと気の抜けた音と衝撃が私の頭に響き、胸の中の黒いものが霧散し、私を正気に戻しました。


 わ、私は一体…

 というか何をされたのですか……

  


 見上げると、手には玩具の様な小槌をもち、身体に黒い旗が刺さりまくったアキラさんが困り顔でイタズラをした生徒や子供を叱る顔で私を見下ろしていました。


「聖職者を目指す女の子が殺気なんて放たないの。」

「ご、ごめんなさい。 でも、アキラさんの身体に旗が……旗がそんなに。」


 旗 その単語にやはり察していたのか、心配する顔つきに変わりました。

 あれ? 何で私が心配されるんでしょうか?


「あ~やっぱ立ってるんだ? つかやっぱクレアちゃん見えるのね」

「は、はい。 それに、頑張ってるアキラさんにこんな仕打ち……」

「や、俺の頑張りで不幸になっている人もいるからね?」 

「でも、このままだとアキラさんは……」

 

 仕方ないなぁ…と苦笑しながら、アキラさんは語りかけます。


「ありがとう。 でも俺の無事を祈ったり、心配してくれるのは嬉しいけどな?クレアちゃんが、殺気なんて放っちゃ駄目だろう。 それに俺はここでは教師だからな。師父から大事な愛娘預かってるんだ。だからそんな気を放ったと師父が知ったら泣くぞ?」 


「う……」

 

 確かに私は先ほど、世界を呪い勇者を憎みかけました。

 でも、こんな仕打ちは、あまりにも……


「ふふふ、ありがとう。でも大丈夫。ちゃ~んと策は練ってる。」


 これくらい何でもない。

 何時もの事だ。

 そういって笑顔を向けました。

 私は、それをみて、心から…… 

 

「それに、この仕事が終わったらお店を開こうと思うんだ。」

 

 不安になりました!? 

 明確な死亡フラグ!?

 新たに黒旗が立ちましたよ!?


「じゃ、そんな感じで行ってきまーす。」

「ちょ、ちょっと待って下さい。どうしてそう不安を煽るような事を!?」 


 そういって逃げるようにスタスタと授業に向かって行ってしまいました。

 

 アキラさんの方へ片手を向け、廊下で立ち尽くす私。


 でも、何だか可笑しくなってしまいました。

 

 そうですね。

 恨みで行動しては駄目でした。

 アキラさんはそれを見かねて止めてくれたのでしょう。

 

 だったらアキラさんがそう立ち回るのなら、私もそれに倣わないと。

 だって兄妹弟子なんですから。

  


 先ずは、神眼を使ってアキラさんの死の基点を見つけて潰していきましょう。

 

 ―――気がつけば、私の胸に沸いた黒い気持ちが霧散していました。

 世界がアキラさんに死を望むなら、その運命を壊させて頂きます。

ヤンデレ化ならず。


次回からアキラパートに戻ります。

明日も19時に更新予定です。

一歩下がって二歩進みます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ