フラグが立ちました。
新章 開始
先ずはクレア達について話そう。
この世界にはクレアの名前を持つ女性は多数いる。
クレアには明るく、光り輝く等といった意味があるからそういう女性に育って欲しいと勇者や光の大精霊に綾かって名付ける親は多い。
しかし今、最も有名なクレアは誰だ?と訊けば二人の女性が上がる。
クレア・マグドレア
クレア・T・ロマリア
彼女達が有名な理由は二つある。
一つは『血筋』
彼女たちのルーツはロマリアにある。
ロマリアは3つの頭で統治されている。
『教会』巫女の血族 代々強力なと魔力と白魔法、聖武器を管理する一族
『皇族』勇者の血族 歴代勇者の固有スキルを千年もの間、継承する一族
『修練者』英雄の血族 迷宮を踏破した最強の英雄達の術理を伝える一族
魔物や精霊の力を使って自身の肉体を改造するクルト民族
彼らとは全く別のベクトルで人間を改造した一族。
謂わば、ガリア王女のクラリスに匹敵する地位と生まれなのである。
二つ目『聖人』
異邦人に匹敵する固有スキル
神格化された歴代勇者や英雄に共通する容姿、能力を備えた人物を『聖人』と呼ぶ。
共通して人が保有できる魔力貯蔵量、魔力変換率の臨界点であるレベル250越える器を持つ為、
将来的には七英雄と同じステージにまで上れる存在だそうだ。
故に、彼女たちは先天的、後天的という違いはあれど『聖人』『聖女』とロマリアに認定され、その将来を期待されているらしい。
……勇者と同じく、魔王を討伐する存在として。
一人は魔王の再来と呼ばれる男(俺の事)と共に修行し、
一人は勇者(シュウ君の事だな)と共に(俺とは別の)魔王の討伐を為した。
そして何の因果か二人の聖女の運命が交差した。
王立学園の新入生として二人の聖女は出会った。
妹弟子に当たる方のクレア(白)は俺に尊敬や好意を持っている。
勇者サイドの方のクレア(黒)は俺に殺意や敵意を持っている。
まぁどういう感情を盛っていようが生徒に平等に接し導くのが教師ってもんなので特にいう事はない。
しかし、RPGの勇者じゃあるまいし、俺が動かなくても時は流れ、フラグは建ち、物語は起こる。
それも向こう側から突然に、強制的にやって来た。
◆◆◆◆◆
座学
王立学園での俺が担当する授業は何もダンジョン攻略やスキルや魔法の考察だけではない。
あんなものはゲーム知識と義務教育程度の学力でも十分に教えれる。
高校生レベルの普通の勉強を俺は教えている。
忘れている奴もいるだろうが、俺は元々教師になるはずだった。
卒業式での飲み会の帰りに異世界に迷い込むというアホな事態にはなったが、酔って今まで学んだ知識を溝に捨てるわけには行かない。
悔しい事に俺の学力はヨッシーやカグヤには負ける。
一流大の医大生や良家の子女とは比べる自体、あれだが一応教師としてやっていけるレベルはある。
高校生に勉強を教える程度の学力と免許を持っている。
学園で教えてる担当科目は理系全般。
偶に歴史や魔法、スキル考察も現代知識を加えて教える。
数学系は算術と簿記。
理科系は錬金術関連で物理や化学の授業を担当。
数学はアラビア数字を教える事から始め、実用的な四則計算から簿記。
科学は元素記号や理科レベルの実験から教える。
授業形態は公文式を参考に生徒それぞれのレベルに応じた問題を作成してその都度教えていく。
この世界の魔法やスキルといった術理は現代知識との親和性が高い。
覚えれば商人は事務作業の処理速度が向上するし、魔法の理解や威力の向上があがる。
故に体術の授業に反比例して錬金術師や魔法使い系、商家の出など学のある生徒が多い。
「……とこれが、俺の世界に存在する元素記号と配列だ。物質は全て、この元素の組み合わせで出来ている。」
黒板に元素記号や化学式を書き連ねる。
内容は水や炭素の結合式、二酸化炭素、一酸化炭素の化学式を記している。
そして掌に初級火魔術の『火球』を浮かべる
「例えば唯の初級魔法の『火球』も『風纏』で酸素濃度を供給すれば…」
酸素を小さな火球に供給するイメージを浮かべていき赤か橙色の火が見る見る青白く変色していく。
「酸素供給が十分であれば火は青く燃え、燃焼温度も上がる。引いては威力が高くなる。」
生徒達はそれを興味津々と俺の火球を見つめる。
「逆に空気、酸素が少ない場所、ダンジョンや洞窟などで火属性魔法を使うと威力は下がる。果ては毒素が発生、充満し解毒でも直らない現象がある為、禁忌とされている。これは、大気中の酸素を燃やして起きる一酸化炭素中毒と呼ばれる現象だ。息が出来なければ人間生きていけないし、厳密には毒に掛かったわけではないから解毒も効かない。 喚気するか、酸素を供給しないといけないって訳だ。」
もっとも密室だからこそ火属性魔法が威力を発揮する環境もあるが、此処には触れないで置く。
火系統は他と比べて特に危険な技だし、全部を教える必要は無い。
あくまでヒントを与え、自分で答えを見つけるように誘導する。
基本的な酸素の燃焼反応による授業。
水素を燃やして水を作り、炭素を酸素を使って燃焼させることで発生する基礎を黒板に書き、生徒達に教える。
これを知っていれば火属性魔術をより深く理解する事で威力が増減するし、魔術の使いどころも分かる。
図解したり分かりやすく実験したりして噛み砕いて教えていく為、今回の授業も成功に終わる。
……そう思っていた。
「何か質問はありますか?」
すると、一人の女性徒が挙手した。
手を上げたのはクレア・T・ロマリア
勇者一行の一人の神官か巫女の様な印象を受ける少女だ。
その表情に敵意は感じない。
しかし、マリア曰く
「殺意が半端ではないっす。勇気を得る為に数えた先生の惨殺死体が10桁超えたっす」
と、訳が分からないコメントを残している。
彼女は天国に行く為に緑色の赤ん坊でも探しているのだろうか?
「はい、クレアさん。」
「先生は元素という塵が万物を構成する材質と仰いましたね。」
「そうですよ。」
「……人体も可能だと?」
「可能ですね。人造人間や合成獣も錬金術で錬成された生物でしょう。」
「……成程。」
科学や魔法という違いはあれど人間の行き着く先は同じだと感じた。
しかもこの時代での道徳観や倫理観は向こう程では無い為、そういった狂気の学問も存在する。
教師や神官という聖職者である俺達に降りかかる難題とも言えるだろう。
彼女は勤勉なのだが、何かと質問攻めにして来る。
いや、熱心なのだろう。
ラウラやヨッシーから聞いた話だと保健体育の授業でコウノトリやキャベツ畑に近い幼い性知識しかなかったらしい。
知識欲の高い生徒。
そういう認識であった為、俺も特別警戒していない。
生徒に容易く論破される程、学も浅くも無い、しっかり授業計画も練っている。
しかし、次の彼女の質問に俺は驚かされる。
「先生が使われる『伝説の武具や魔物を複製する力』『素手で武器を塵に返す力』も同じ仕組みと思っても間違いありませんか?」
「ええ、そう考えてもらっても間違いありません。」
その応答に教室がどよめく。
七英雄『死神』
この世の生きとし生けるものの『生死与奪権』が在るかのごとくあらゆる魔物を一撃で屠り、不死者すら塵へと還す。
『その能力の一端がこの授業にある。』
俺がよく使う『裏技』はこの世界とは別の理を使い
この世界の理の法則を逆手にとっているトリックだ。
突き詰めれば『異能力』でも何でもない『異世界の知識』の恩恵を得た『学問』の延長線上にあると、そう言ったのだ。
自身の情報は秘匿に秘匿を重ねるのがこの世界の常識だ。
自分が使う技、武器、魔法、得手、不得手など弱点を知られる事はこの世界では致命的だ。
魔王の再来とされている男が勇者一行の一人に自身の切り札の一つを潰し、相手に奪われるリスクを晒した。
そう、この場にいる生徒は思ったのだろう。
間違いではない。
事実、俺に悪感情を持っているロマリアからすれば俺の切り札を封じ、
自身の手札になりえる俺の『裏技』は喉から手が出る技術だろう。
ゾンビに回復魔法や回復薬を使うという発想の飛躍から出る攻略法などがその最たる物だ。
クレア(黒)は勝利を確信したかのような表情を一瞬だけ浮かべる。
「だけど、正解でもない。」
そして上げてから落とすのも俺のやり口だ。
「確かに知識や合理を追求すれば【第二の裏技】は誰でも使える。」
そうして虚空から二本の短剣を【第二の裏技】し両手に持つ。
「だが、それでは足りん。」
「全く同じ遺伝子を持つ双子も環境が違えば別人の様に育つ。
同じ材料、レシピで創った料理も料理人の腕が違えば味に雲泥の差が出るように。術者によって差が出る。」
同時に二本の短剣を交差すると、片方が砕けた。
「この剣の差も利き手という差で片方の剣は壊れるのと同じ。」
「学問や訓練も先人の真似、模倣だが、それだけでは七英雄の域には到りません。
それらを踏み台にして自分の道を創造しないとね。」
暗に俺の真似をしたり俺の弱点を調べてその弱点を突くだけで終わるようでは到底成長などしないし、
そう思ってるうちは俺には勝てないぞ? と伝える。
クレア(黒)は苦虫を噛んだような表情だ。
「皆も真似に終わらないように、今日学んだ知識を蓄えて身につけ、発展して行く様に心がけてください。」
……と、この座学が切っ掛けだったのだろう。
後になってそう思う。
【――フラグが立ちました。】
機械の合成音声の様な無機質な、それでいて不吉な音声が俺の脳内に響いた。
クレア(白) マグドレア神父の娘 公式チート
クレア(黒) 勇者一行の一人 異端審問官 三位




