体術×上級×狐仮面
何故か二話分のボリュームに……
分割せずにお送りします。
体術訓練
リンとナミのデモンストレーションで暖まった生徒のやる気の熱が収まらず、冷め過ぎない状態で体術授業を始める。
しかし、生徒全員にリンとナミのレベルの授業を行なうのは酷だろう。
部活で謂うなら全国大会の常連の運動部に初心者が大量に入部した状態だ。
古参の部員にしてみれば初心者に一から教える時間、労力は手間に対してリターンが少ない。
故にコース分けして生徒の能力を分けていく。
この訓練を受けに来る生徒の目的は大きく分けて三種類。
その為、コース別に分けて始動する事になった。
そして教える内容と担当講師、そしてその取得スキルがコレだ!!
◆初級コース
体術初心者、体術が苦手、美容や健康目的で来た生徒が対象。
彼らには先ずは体を作ってもらわないと怪我するので体術より体操を重点的に教えていく。
柔道や空手なら柔軟、股割り、受身、拳の握り方という感じで。
内容はラジオ体操、柔軟体操。
ガリア式格闘術も型を一通り教え、動きもゆっくり体に覚えさせていく。
その型を教えた後、生徒一人一人に最も適正のあった技を一つだけ教え、鍛えさせる。
この教え方は先のリンの拳打による戦闘を見た生徒は納得、反対意見も無い。
一つの技を極めた完成形を目の当たりにしたのが成功だった。
担当講師
元・魔王軍ゲリラ部隊長 退役軍人
ライラ・A・S・シンクレア
取得スキル
【拳闘術】【総合格闘技】【柔術】【剣術】
分かってる。
彼女の名前とか、前職だろ?
彼女に関してはまたの機会に語るとするから今は勘弁して欲しい。
◆中級コース
基礎が既に出来ている生徒が対象。
基礎トレーニングの後、自由組み手という流れで教えていく。
自由組み手や木剣を素手で制圧する訓練。
技の微調整や足運びなどを教える。
最終的には戦闘スキル【格闘術】【体術】といったスキル習得を目指す。
担当講師
ジャン・ドラクロワ教官
退役軍人 騎士 元ガリア駐屯兵団 部隊長
初老の男性で片眼鏡を掛けた執事長然とした人物。
体術講師の俺の前任者で軍隊格闘術講師。
彼には基本的には何時も通りの授業で中級コースを担当。
士官していた騎士だったので当然ランクはBランク。
取得スキル
【ガリア式軍隊格闘術】【体術】【拳闘術】【剣術】【槍術】
◆上級コース
もう、教わる事ないだろ!!ってな生徒が対象。
所謂、問題児クラス。
気や魔力、霊力を使った高度な体術を教えていく。
【源呼吸】や【霊能力】といったクルトの戦士の技を鍛える。
担当講師
俺。
ランク S(臨界者)
取得スキル
戦闘スキル
【拳闘術】【体術】【現代戦闘術】【源呼吸】【精霊化】【投擲】【忍術(笑)】
【上級斥候術】【暗殺術】【ロマリア式対魔戦闘術】【ガリア式対人格闘術】
【剣術】【片手剣】【柔術】【武器戦闘】【伊藤流・武器戦闘術】
【伊藤流・対人格闘術】【伊藤流・気功戦闘術】【戦女神流・槍術】
【一夫多妻去勢拳】 ……etc,etc.
生産スキル
【薬術】【錬丹術・Χ】【速記】【文才】【B級料理】【調合】
【歌唱】【吟遊】【魔物調理術】【鑑定・Χ】【透視・Χ】【洞察眼・Χ】
……etc,etc.
魔法スキル
【黒魔法】【白魔法】【精霊魔法】【召喚魔法】
固有スキル
【魔改造】【異世界攻略のススメ】【???】
裏技
【第一の裏技・銀弾】【第二の裏技・複製】【第三の裏技・窮鼠猫噛】
【第四の裏技・名古屋撃ち】
・
・
・
以下略。
…うん。
こうして比較すると七英雄の規格外さが改めて実感するな。
コレはひどい。どこから突っ込んでいいのだろう。
自分のスキルなのに分からない。
殆ど裏技で取得したものが大半だがそれにしても多すぎる。
マリアとヨッシーの【精神同調】【分御霊】で『スキルの共有化』を行なったのも大きい。
というか、カグヤの戦闘スキルがやべぇ。
彼女の固有スキル【武神】は固有スキルだから複製は出来ないが、武器から取得したスキル。
特に【伊藤流~】【戦女神~】系のスキルが凄い。
あと、最後の【一夫多妻去勢拳】……
……口にするのも使うのも憚れる恐ろしい技だ。
いつの間にか習得していたスキルだ。
誰が編み出したスキルかによって俺の息子の命運が左右される。
うん、どう見ても死亡フラグだ。
このスキルから逃れる為に立ち回らなくては。
これだけスキルの引き出しが多ければ大抵の体術を教えれる。
俺が上級コースを担当するにも納得だ。
これらの情報、指導方法、講師の能力を元に他の体術講師と相談。
中級、初級の担当講師の方にも快く、賛同を得られた。
余談だが講師二人が『私達にも教えて欲しい』俺に教えを乞い。
体術講師の立場を放棄しかけたのには俺も苦笑を禁じえなかった。
問題は俺が担当する上級コースの生徒達だった。
他の講師が喜んで初級、中級コースを担当したのか、よく分かった。
◆◆◆◆◆
「……と、この様に分けて授業を進める。 だが始めに言っておくがコース毎に優劣など無い!!」
俺の宣言に生徒の幾人かは首を傾げる。
このコース分けで優越感や劣等感を感じる生徒もいるだろうから釘を刺す必要がある。
「理事長やナミ先生が見せた先の模擬戦の様に初級の基礎技も極めれば奥義の域に達する。
初級、中級の体術も侮れないのはあの二人からみても分かるだろう?」
「凄いスキルや伝説の奥義を使えるのに対し…
基本的な技なのにこんな威力が出る。その顕著な一例を君達はもう見ている筈だ。」
過去のクルトの戦士で【精霊化】や【悪魔化】という応用技に囚われるのを恐れた故に基礎訓練で肉体と精神を鍛える事の重要性を説いたのだ。
リンもナミも其れを分かっているからこそ、高等なスキルの応酬をせず基礎体術のみで戦った。
流石は守護女神とクルトの戦士の末裔だ。
彼女たちはクルトの戦士の理念を忠実に守っている。
リンとナミの真意を知り、生徒達は再び尊敬の視線を彼女達に送る。
リンは何時もどおり向日葵の様な笑顔で対応。
ナミは褒め殺しを受けたように口元をピクピクと震わせ、顔を真っ赤にしている。
「それでは、訓練開始!!」
こうして教訓と釘を刺した所でコース分けし、体術の授業を始めた。
◆◆◆◆◆
見た感じ初級や中級コースの生徒達に問題は無い。
講師、生徒ともに訓練に不満も感じられないし良い感じだ。
先日に行なった健康診断。
実はあれは体術訓練を行なう最に必要なデータ収集も目的だった。
その情報を元に相性のいい技を見極め、体術のカリキュラムを作ったのが功を奏したのだろう。
――どこぞの変態医師が女生徒のスリーサイズの情報を手に入れようとして返り討ちにあったのはどうでもいい話だな。
健康診断の担当保険医であるテファと助手のビビ。(ぼろ雑巾と化したヨッシーの代理)
この二人には本当に感謝している。
今度、何かお礼でもしないと。
兎も角、後はデータに基づいたカリキュラムを初級・中級コースの生徒に教えていく。
これだけで生徒達は体術の技術、基礎能力がレベルとは別に向上する。
授業中も特に問題も起きない。
皆、授業に集中し、技能を身につけていっている。
問題なのは初級・中級コースに分けられた生徒は体術訓練の9割以上がここに振り分けられていた。
王立学園の伝統、体術訓練の復興と学園の生徒数を増やすという目論見は成功したと見て良い。
問題は上級コースに振り分けられた生徒達だ。
なんとたったの七人。
流石は問題児中の問題児!!
俺の胃が持つかどうか!!
気をしっかり持ってざっと生徒を見渡す。
そして上級者コースの生徒の名簿を見る。
---対人訓練 上級コース 参加生徒一覧---
※()内は【鑑定・Χ】【透視・Χ】【洞察眼・Χ】で見破った内容。
1.デネブ・ロックヤード(修練者・武器狩りの魔女)
2.アリシア・ド・マイヤール(近衛騎士・一番弟子)
3.クレア・マグドレア(神眼の聖女・妹弟子)
4.クレア・テルティウス・ロマリア (人造聖女・異端審問官第三位)
5.ミーア・サンダーソン(修練者・虎耳・王天虎の末裔)
6.テレサ・シンクレア(吸血鬼の真祖・俺の使い魔)
7.シュウ・ヤマモト(七英雄・神剣の勇者)
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因みに学園十傑(成績上位十名の特待生)で体術科目を受けているのは二名。
主席と四位だけだ。
十傑は優等生だから体術訓練の授業は全員、習得済み。
アリシアは鍛錬の為&俺の弟子だからという理由で自主参加。
マリアは健康の為ッス~とか言って初級コースで健康体操をしている。
こうして見ると、いろいろな意味で俺、狙いな奴が揃ったな。
主に俺の命とか命とか命、おまけに命。あとは貞操と血?
具体的に俺に向けられている感情も様々だ。
畏敬、感謝、恋心、情欲、殺意(復讐心)殺意(使命感)、殺意(無機質)、殺意。
こんな感じだな。八人中、半分の四人から殺意というか殺気を感じる。
訓練中の事故で殺しに来る気だよね。
……八人?
「ごめん、点呼を取るね~」
「1よ。」
「2です!」
「さ~ん♪」
「……4ですわ。」
「5にゃ。」
「6じゃ、主様よ。」
「7です。」
「8で~す♪」
点呼をとっても一人多い!!
―というか最後の生徒が浮きまくってる。
しかも聞き覚えのある声だ。
他の生徒は点呼を取っている最中は俺に色々な感情を向けていた。
だが最後の一人の点呼を取った瞬間、全員が顔を右…八人目の生徒に向けた。
視線の先には、形容しがたい生徒が立っていた。
素顔は日本製っぽい狐の仮面で隠されている。
服装はセーラー服(夏服)
腰まで届く長い黒髪
陶器の様な白くきめ細かい肌。
うん、仮面を付けても隠し切れない美貌。
完成された黄金比とでもいうのだろうか?
漆の様な黒く美しい髪を腰まで伸ばしリボンで結えている。
何故、着ているのが体操服でなくセーラー服?
水兵服だからか?
しかし、そんな格好にも関わらず、重心が座っている。
武道経験者が彼女を見れば、戦わずして彼女が出来る奴だと分かるだろう。
そして隠しきれてないオーラというかカリスマが溢れている。
顔が見えないというのが帰って芸術品の様に美しさに磨きを掛けている。
いや、正体はもう分かってるんだけどさ?
何時の間に生徒として潜り込んだろうか?
そして八人目の生徒の声を耳にし、その姿を確認した事でアリシアとテレサが尋常ではない位に震えている。
これだけで正体は9割以上、確定している。
この二人は彼女と正面から相対している。
アリシアは一度、ダンジョンでガチで戦ったトラウマがあるからな。
テレサは戦わずして圧倒的戦力さを感じ取って恐怖に怯えた。
そして、もう一人。
狐仮面の正体に気づいている生徒がいる。
俺の視界の端でプルプルと表情筋を震わせ、笑いを堪えながらラジオ体操・第二に移行しているマリアがムカつく!
お前が初級コースというのが一番、納得いかない!!
いや、周りに七英雄だというのは秘密だと理解してるけど!!
でも、こっちに来て助けてください。
お願いします。
届け、俺の想い!!
『え、面倒くさいし傍から見たら面白いんでパスッス~』
『あっはっはっは、なべや~ん。一つだけアドバイスや……死ぬな(笑)』
想いは届いた。
返信は最悪だった。
頼れる講師陣に目線を向ける。
リンとナミは『あらあら~』とか『その手がありました!』とか言ってる。
だめだ。リンは別に反対しないし。
ナミに到っては狐仮面と本質的に同類だった。
ルーは彼女の襲来を察知していても、この時間は別の授業を受け持っている。
援軍は来ない。
孤立無援だ。
もう、ツッコミ処が多いし俺の処理能力を超えている。
しかし、俺がやらねばならんのだろう。
俺が体術講師として最初にやるべきことは一つ。
・
・
・
…帝国の書類作業から脱走してきた亡命者を転移魔法で強制送還するだけだ。
「え? きゃあああああああ!?」
無言で謎の狐の仮面の不審者の足元に影を媒介にした転移魔法を発動させる。
「ちょ、沈む!体が沈んでます~!」
彼女の魔法抵抗力故か、本来なら一瞬で帝国まで転移するのに時間が掛かる。
容量の多いパソコンデータ並みに転送速度が遅い。
それ以前に戦女神が体術や戦闘技能で俺に教わる事なんて何一つないだろうが!!
◆◆◆◆◆
転移魔法陣に飲み込まれながら、必死に下手人が弁解する。
往生際が悪い。
有罪!!
「蒼炎の戦女神、伊藤カグヤを国外逃亡及び、職務怠慢、放棄の罪で強制送還の刑に処する。」
「ち、ちがいます裁判官!私は無罪です~戦女神じゃありませ~~ん!!
何処にでもいない!!美少女狐仮面・転校生 レディー・ヤマトです~!
断じて伊藤カグヤなんていう大和撫子じゃありません!!
あ、不味いです!この足元の感触……ユイファンちゃんが私の足を引っ張ってる!!」
語るに落ちてるんだよ。
そのまま帝国の執務室に堕ちて逝け。
『か~ぐ~や~さ~ま~(怒)』
転移先の執務室から聞こえる悪霊の様な怨嗟の声。
間違いなく、帝国の宰相・五将軍筆頭のユイファンだな。
「ひ、ひ~ん、ち、違うんです!!ユイファンちゃん!!
体術って話なら私の出番だと思うじゃないですか!?こういう授業こそ私の出番というか乱入こそ私の存在定義じゃないですか!!」
そういや、前学期でも学園ダンジョンに乱入したり、スキルの実習訓練でも乱入してきた前科があったなこの娘。
しかも帝国にいる筈なのに何時も神出鬼没で現われる。
転移魔法の技術が最も進んでいる国の皇帝というだけの事はあるのか?
想定してしかるべき事態だった訳だ。
だからといって酌量の余地は無いが。
転移魔法陣に魔力を込めて吸引力を上げる。
仮面で分からないが恐らく涙目のレディー・ヤマトがズブズブと引き込まれる感覚に悲鳴をあげる。
良心が疼くが心を鬼にせねばなるまい。
しかし実質、この世界で最強の彼女に泣きまでいれるとは……
ヴァルキュリア帝国ナンバー2のユイファン、恐るべし。
そして懲りずに彼女の監視を潜り抜けて脱走を繰り返し、毎回、ガリアまで逃げ出すこの娘も大概だ。
いや固有スキル【武神】や【精霊化】を使えるのだから逃げ出すことは訳ないのだろうし、以前、王立学園に来たとき、転移結晶で転移マーカーでもつけていたのだろう。
抜かりないな~この娘。
そうこうしている内に下半身が影に沈んでいく自称・レディー・ヤマト。
ワタワタと半泣きで慌て始める。
いいぞ、ユイファン。
早くその亡命者を書類地獄へと引きずり込むのだ。
しかし彼女は伊達に最強の座に就いていない。
流石は最強の七英雄だった。
「伸びろ【布槍術】!!」
宣言と共にカグヤは制服のスカーフを外し、其れを槍の様に伸ばして俺の腕に巻き付けて堪えやがった!
---
【布槍術】
少林拳、太極拳や八卦掌の技。
布。衣類を槍の様に撓らせ戦う高等技法
気柔術の開祖、武田惣角翁が冬、銭湯帰りに、暴漢の白刃に囲まれ、
凍った手拭を脇差代わりに、瞬く間に制したと言う噺は余りにも有名。
---
しかもこの巻きついたスカーフ!
彼女の気でコーティングされてる!?斬ろうと試みるが斬れない!!
「高度すぎるだろ!! 必死か!?」
少しづつスカーフと俺に支えられながら、遂に影から帰還しやがった。
「好機!! 奥義!【破魔・武道大極】!!」
「奥義!? こんな事で奥義使っちゃうの!?」
彼女の拳に白と黒の大極図が狐仮面の八方に浮かび上がったと思うとそのまま拳と共に影の転移魔法陣に叩きつけられる。
何、その技!? かっこいい!!
技名通り、大極図が影を媒介にした転移魔法陣を上書きしその魔力を散らす。
もう、ヤダこの娘。
まだ授業始まって数分も立ってないのに凄い疲れる。
「ふう……これで一安心♪ 先生?行き成り、学びたいという生徒を強制送還とか少し信じられないのですが?」
「いや、無理あるから……というかその仮面を剥いでからもう一度さっきの台詞言ってみようか?うん?」
「ちょっと!? 淑女とは顔を隠すものなんです。古来より高貴な女性は扇で顔を隠すのは文化ですよ!」
仮面剥ぎという禁忌中の禁忌を敢行する俺
必死に仮面を抑えて抵抗するレディー・ヤマト。
「は~な~せ~」
「いや~ん 暴力です~セクハラです~。」
うん、何この状況。
いや、もういい。
もう何も言うまい。
このままでは授業が終わってしまう。
早く授業を始めよう。
俺の授業計画とか下準備だとか、生徒全員が俺を狙っているとか……
シリアスな空気が一気に吹っ飛んだよ。
この後、八人目の生徒を加わった事で丁度偶数になった上級コースの体術訓練は何も起こらず、無事終わった。
生徒の殆どが微妙な空気だったが、授業自体は充実した内容だったと言っていい。
何せ、現時点でこの学校には七英雄が5人いる。
体術の授業に至っては、戦女神・死神・神剣
この異世界の最強の人間、上位三人が揃った授業だ。
しかも一般には知られていないが悪魔使いも居るし人形使いが保健室に駐在している。
加えて大精霊が火・闇・光と揃っている。
濃すぎて胃もたれする位の人材が学校に集まっているのだ。
そして、どんな手を使ったのか謎の狐仮面レディー・ヤマトが正式に科目履修生?として転入し、俺の担当する授業、全てに皆勤で出席する事になるのは言うまでも無い。
謎の転校生 レディー・ヤマト
いったい何者なんだ!?
侵入経路はエレノアが学校に転移魔法で寄贈した食料物資の中に紛れました。
つまり、大体アニの所為ともいえないこともない。
次回 10/21 0時 更新予定。
10/20予約投稿ミスしました。




