翼なき竜
久々投稿、年内に何本かけるかな。
殺気の大元、それの下は正しく召喚獣フェンリルであったが、おまけと言うには豪華すぎる奴がフェンリルの傍に立っていた。
通常の千里眼、鷹の目といた視力を強化するスキル以上の性能を誇る【洞察眼・魔改】で殺気の大元に視線を向ければ、190cmは超える身長に黒いライダースーツに浮き上がる鍛え上げられた筋肉、精悍な顔つきは数カ月前と何ら変わらずその顔は変わっていないし、忘れようがない。
「鈴木・ゴウタロウ……鉄人の七英雄」
「え?あの変身ヒーローさんっスか?」
「こんなとこで何やってんだい?あのルーシのとこの大将は?」
「……誰?」
交戦経験がある俺とマリア、自分の国の属国であり、国境線の戦いで共にいたゴウタロウがこの場にいる事に眉をひそめるアデーレ女史、この場で唯一面識がない(というより、料理、魔法関係以外に興味のない)アニが首を傾げる。
何故、此処にいる?なんてバカな疑問等、俺の頭には浮かばない。
召喚獣フェンリルを従えている以上、俺たちより先に此処に来てすでにフェンリルを屈服させ契約した上で俺たちを待ち構えていたということだろう。
つまり、重要なのはどうやって俺たちの行動をあらかじめ知り、待ち構えていたということで、彼の目的が俺たちの足止めか抹殺か、どちらにせよ、殺気を俺たちに向け、なおかつ襲いかからずに待ち構えるということは後者が目的だ。
その旨をアデーレ女史に伝え、帝都に戻るよう話を進める。
「霊山は文字通りフェンリルの庭だ。 俺たちが何処にいようと霊山という巨大なダンジョンの守護者でもある犬コロは俺たちの位置を補足している筈だ。にもかかわらず俺たちに襲いかからずにあの場にいるということは、奴は俺たちがここに来ることを知って殺すか足止めする為に待ち構えていたってことだろ。」
俺とカグヤには天敵ともいえる手札だろうが態々、戦う必要もない。
「先生、フェンリルは此方に殺気だけ放ってるんスよね? 何処か妙じゃ無いっスか。」
「妙って何処が?」
俺は召喚獣と契約してないから分からないが召喚師の彼女は何か違和感を感じているのだろうか。
「や、どこって言われても、その場に契約済みのフェンリルがいるっていうのが……なんというかおかしいっていうか、非効率ッス。」
召喚師であるマリアは感覚的に何処かおかしいと勘染みた事を言って要領を得ない発言をしだしたが、それを補完したのは意外な人物だった。
「……①召喚獣と契約者が揃ってこの地にいるということ。私たちを襲うならフェンリルは隠すし、契約しているなら召喚獣は主に危機を教える筈が何故か殺気を放つ程度にとどまっている。 態々、契約したという情報を開示する意図がわからない。
②フェンリルの殺気はこの土地に入ったものすべてに向けてはいるけど、この殺気は私たちを此処から追い払うために放っている、本当に契約しているのなら主人に危機を伝え私たちに襲いかかるはず。
この2点からフェンリルの契約者は、そのスズキとやらでは無く、別の誰か。そしてフェンリルは現在の主に従順ではない。 恐らく帝都に戻ったら本当の契約者がフェンリルを召喚してアキラかカグヤを襲う筈。 そして撤退して態勢を整えるよりここで討った方がいい。 なぜなら通常の召喚獣と違い、大精霊の番である魔物を召喚した場合出てくるのは本物では無く分身。 いくら殺しても召喚者の魔力さえあれば召喚できる。 だけど本体は別、本体が傷つけば召喚獣も弱る。 ここで戦ったほうがいい。」
……本当に魔法と料理の事になると饒舌になるな、この魔女っ子は。
確かに、ここで戦っても利点はある。
帝都にフェンリルが召喚されれば、大精霊のルー、ナミ、カグヅチに精霊巫女のユイファン、契約者カグヤ、仮契約者セイラではひとたまりもない。
たのみの綱はセクハラ医者とビビ、五将軍、剣豪アリア、賢者エレノア、錬金術師ヴィルヘルミナだろう。
となると、鉄人とフェンリルを多少のリスクを犯してでも叩く必要はある。
まぁ鉄人が召喚者の手に堕ちたという確定情報は無いがこの際、堕ちたと見て戦う姿勢で望む。
「わかった。 事前に話していた作戦変更だな。 予定道理、フェンリルと戦う事に変わりはないが先ずは俺が先行して……」
悪いこと考えちゃたぜ☆
◇◆◇◆◇◆◇◆
フェンリルside
「ちわ~ 自由の槍で~す。 魔物と地球人の適切なしつけはいかぁッスか?」
「君は相変わらずだね。 アキラ君。」
闇から這い出るかのように現れた男を凝視する。
その男に交じるかすかな我が仇敵の匂いがとても鼻に付くが今はどうでもいい。
この地より離れるよう警告として殺気を放ち追い出そうとしたにも関らず、この男は此処にきた。
どうやら忌々しいあの剣士と狩人、古の民の鎧を来た男から話に聞いていた戦女神と死神、その片割れの死神だろう。
「ふふ、何だい鈴木氏? 今日も違う女性を連れているんだね? 全く俺の周りには怖い女神達がいっぱいだからあなたが羨ましく思えるよ。」
その言葉に我と隣の男がわずかに息を飲む。
我が雌である事、動揺しないことから我の正体を知って此処に来ているということを伺える。
「どうやら彼女の事はある程度調べてきたようだね? 十字教の聖書にもそう詳しい事は記載されていなかったはずだし、精霊信仰側にも精霊を喰らう彼女はある種、禁忌で誰にも知られていない筈だけどな。」
「虚偽に満ちた歴史書や文献から隠された真実を見つけ出すのは学者の得意分野だよ。 これでも【教授】なものでね。」
「成程、君の場合、武名の方が轟いていたからそのことを失念していたよ。 それで、聡明な君の事だ。 大方僕らの事情は知っているだろうけど……彼女、|大精霊との契約を切って《・・・・・・・・・・・》ここまで来たんだ。目的は彼女だろう?」
「いやいや。どんな大義名分があろうが他人から女性を奪うのは俺の流儀に反する。 確かにこの地には彼女を口説きに来たんだけど、相手がいると知って今は傷心中だよ。」
アキラと呼ばれた男は大げさに肩を落として気落ちするような素振りをするが、その一挙手一投足が、言葉が我の卓越した耳が嘘だと知らせ、本能がこの男を噛み殺せと警告を鳴らす。
蛇のような男だ。
━━━━コロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセ
はじめは猛禽類のような狩人、何者の命を刈り取る死神のような印象を受けるがこの男には鷹のような翼も爪も無い、必要としない。
━━━━エモノエモノエモノエモノエモノエモノエモノエモノエモノエモノ
手足もなく翼もない竜、その文、ずる賢く、音もなく毒牙で相手を狩る蛇。
━━━━クラエクラエクラエクラエクラエクラエクラエクラエクラエクラエ
事実、この男は四肢を切り落とされようとも這いずりながら我らに牙を向いてくるだろう。
━━━━ニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロ
さっきから本能がコヤツを喰らえと叫ぶ欲求と此処から逃げ出せという危険を叫んでいる。
先の勇者と名乗った男や隣の鎧の男と相対した時にはこんなに警笛はならなかった。
目の前の男は奴らに劣る気配の筈なのに…だ。
無臭、無色の気配が余計に不気味さを際立たせる。
「それで? 今は何故、此処に?」
「ここで叩きに来た。 本命シュウ君、対抗ワタル君……大穴ニノが彼女と契約したのだろうけど君たちの背後にいる召喚者のシナリオ通りには絶対させない。 不本意だが例え君が死ぬことで予定が一つ繰りあがろうが関係無い、それ以上に彼女等に牙を向けたのは俺の逆鱗に触れる行為だったと理解してもらおう。」
「盛り上がっているところ悪いんだけど、僕が彼女と契約しているとは思わないのかい? 僕はルーシの所属だし、君と同じ臨界者だ。契約できる要素、つまり彼女に打ち勝つ要素はある。
それに折角停戦条約を結んでいるのに君から其れを破るとウチのお姫様は黙っていてもルーシが黙っていないんだけど?ヘタしなくとも内乱、イヤ、ガリアを巻き込んでの大戦に逆戻りだよ?」
「無いな……帝国はルーシを属国にした時、反乱の目を摘み取るために力を奪い、様々な安全策を取った。教会や軍事力の縮小もその一つだ。その中で戦略兵器に匹敵する大精霊、召喚獣との契約は最大級の禁止事項。 となれば国外の有力な戦士、それも強大な成長力、強さ、固有スキルを保有する七英雄、それも十字教がバックにいる勇者 山本・シュウが望ましいんだ。 それに本体の彼女を守る為に必ず一人召喚獣を打倒しうる他の七英雄から守れる人材はルーシにいる君以外いないんだよ。」
どうやらこの蛇は印象通り狡猾で、獲物の動きを読み尽くしているのだろう。二の句を告げずにいる隣人に溜飲が下がる。
「まいったな。 君はいちいち勘が鋭いし知恵比べでは敵いそうにない。まるで、その時、その場にいたかのような意見で脱帽ものだよ。」
「だったら御託を並べず、初めから此処にいる役目でも果たせばいい。そちらの彼女はもう殺ル気満々のようだぞ。」
『クフフ この地に生まれて幾千年経つがあの女を思い出す知略さを感じる雄よ。
だが、知恵比べやよく回る舌で我に敵うと思うなよ 小僧。』
「では、そのよく回る舌で奏でる呪文で立ち回るとしようか、『自由の槍ギルドマスター』兼『教授』兼『賢者』兼『猟兵』兼『戦士』兼『錬金術師』兼『忍者』……(あと何があったけ?ま、いいか!)アキラ・渡辺参る!」
「こんな形でリターンマッチが出来るとは……だが今回ばかりは君には勝たせてもらおう。」
『くふふ、我が糧となるがいい、ゆくぞ翼なき竜よ!!』
━━━━ソノハラワタヲクライツクシテヤル
既に契約済みだったモフモフちゃん。
アキラたちは彼女をモフれるのか!?




