モフモフを求めて
多忙、疲労の為かあまりにも誤字脱字、文体がおかしかったので修正では無く改稿しました。
文字数も増えています。
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「フフフ、燃え尽きた、燃え尽きちまったよ ユイにゃん。」
火の大精霊の契約者にして【蒼炎の戦女神】の二つ名を持つカグヤが燃え尽きるなどありえないが、彼女は真に燃え尽きた様に憔悴していた。執務室で溜めに溜めた内政の執務作業と決裁に追われた地上最強の美女が真っ白に燃え尽きていたのだ。
不死身に最も近い彼女が過労で死ぬとは全く笑えない話であるが、それでも彼女はやり遂げたのだ。
その姿を見て側近にして宰相であるユイファンは決裁の終わった書類に目を通し不備が無いかを確認しながらこの少女が本当に一年半前に自分の国を滅ぼし征服した鬼神のような少女と同一人物なのかと複雑な気持ちになっていた。
だが只の夢見る見目麗しい少女と思えば、戦場に経てば当たり一体を焦土と化す歩く天災、武器を持てば勇壮な戦女神へとなる。正に【神の落とし子】ともいえる存在であるが、目の前で机に突っ伏して口からよだれを垂らして夢の世界に旅立つ姿からはとても想像できない。
忠誠心あふれるユイファンはこの姿は周りを油断させるための演技と思い込み、より一層彼女を尊敬するために自信の記憶の中から彼女が発した名言、行動を思い返し尊敬しようと脳内で何度も思い返しながらも鈴を鳴らして使用人を呼びつけ彼女を寝室に運ばせ自身も自室に戻った。
「それにしても、あの山積みの書類を一晩で片付けるなんて……」
決して人間業では無い、文官のトップであるユイファンでも最短、それも書類をざっと目を通し魔法のようなもので補助を掛けて3日でやっとである。
文武ともに優れたカグヤに呆れながらも、あの少女を選んだ過去の自分はやはり間違っていなかったという結論に至ることで忠誠心と尊敬を維持することに成功した。
「寝ている分には只の少女ですのに、そうは思いませんかアキラ殿?」
窓から北の方角に見える霊山に向かって独り言をつぶやき、自身の部下の執務室に運びに戻っていた。
view side end
◇◆◇◆◇◆
~帝国 元ルーシ、ゲルマニア国境付近 霊山~
「俺もそう思うよ。」
「ん~?なんだい?若いのに独り言なんて、そういう年頃でもないだろう?」
俺の言葉に即座に返す、同行者の五将軍のアデーレ女史。
「いえ、何かひとりの女性に対して気苦労に共感を持てる人の思念をキャッチしたような感じがしたからレスポンスしただけですよ。」
そう答えるとアデーレ女史は「そ、そうかい?」と何か気まずそうに目をそらして余所余所しくなった。
「……アキラはやっぱり病院に行ったほうがいい。」
「先生のアレは発作みたいなものッスからソッとしといてあげましょう。」
どうやら昨日の審問会での事をアデーレ女史は聞き及んでいて俺は精神に疾患を持っていると勘違いしている様だ。俺はいちいちムキになって否定する気も起きずため息をつきながら、樹海のような旧ルーシ国の霊山の探索に意識を向き直した。
さて、何故に俺たちが、いつもとは違ったメンバー(俺、マリア、アデーレ、アニ)でルーシ領の霊山にいるのか説明せねばなるまい。
あの後、ここに大地を司る大精霊の番の魔物、召喚獣がこの地に住んでいると図書館の中に会った資料、古文書から当たりをツケたので【精神感応】のスキルつまり、召喚獣、霊感レーダーを備えるマリアを連れて召喚獣と精霊を味方に付けに来たのだ。
特に今回の目当ての召喚獣は、超大物、神代の伝説の魔物【フェンリル】である。 神狼と言われ、俺たちの世界の北欧神話ではラグナロクの原因ともいえ、戦いの神の手首を噛み千切り、主神を食い殺して神々を滅ぼしたというビッグネームである。
この世界、アースでもその驚異は変わらず、古代人が遺した人造人間、テレサと同じ死都の真祖
ハイデイライトウォーカー
に匹敵する魔物らしい。
帝国領の中でもルーシはアースの大陸の中ではロシア連邦に匹敵する広大な土地にひときわ重霊地に巨大な銀狼の神がいるという文献を見つけたのだ。
豊穣を司る大地の化身としてその土地では信仰を集めている山の神として慕われているらしく、この魔物……厄介なスキルなり、特性が備えている可能性が高かったため仕方なくナミとルーを帝都に残し、俺とマリア、アニ、アデーレ女史と探索に来た理由にもなる。
精霊を食い殺す魔獣
何もそこまで北欧神話と類似しなくてもいいのにフェンリルはこの世界、千年前の戦争で七英雄に相当する異世界人と先代の大精霊を何柱も喰らう【魂喰らい】と【神殺し】【不死の魔物】の固有スキルを3つも所有している怪物で大精霊と精霊魔法の使い手の天敵だ。
当時の大精霊、周囲の精霊を食い荒らしてルーシの精霊信仰を衰退させ、十字教を広がる要因になった伝説の魔獣だ。(十字教では神獣扱い)
その上テレサ同様、臨界点を超えた存在、【超越者】になっている可能性が極めて高い上に吸血鬼の天敵と言われるほど互いを憎み合っていると聞く。
この理由からテレサも連れてこれない。
主との契約を一方的に破棄し、食い殺したという伝承からマリアの固有スキルでは不十分である可能性が高い為、圧倒的な力で屈服させる必要があった為火力の高いアニと山の中やダンジョンのような局地戦に優れたアデーレ女史に動向を頼んだ。
戦闘狂《バトルジャンキー》のカグヤがそんな面白い相手を放置する訳無いし、負けるとも思えない。 事実、誘えば二つ返事で来るだろうが、『精霊を食い殺す』特性から億が一のカグヤが敗北する可能性と、カグヤによって十中八九『霊山と召喚獣が灰燼となって消える』結果、土地が乱れ、生態系を破壊し尽くす結果。 家臣団や五将軍が危惧したのは後者であるのだからカグヤへの信頼の程が伺える。
何せカグヤはダンジョンを丸ごと灰燼に変えるほどの実力を持つ最強の七英雄である。
ガリア国境の魔の森は灰になって消え、学園ダンジョンを床や壁をブチ抜いたり、溶かしたりして力技に物を言わせた事も記憶に新しい。
この二つのダンジョンと同じように霊山が破壊すれば連鎖的に生態系が滅茶苦茶に荒れるし、周囲のダンジョン、精霊神殿、重霊地
パワースポット
龍脈、地脈を引き締める要所であるフェンリルの土地を下手に荒らすと周囲の土地に加護が切れ、飢饉や自然災害、魔物の暴走を引き起こしかねないのだ。
カグヤも一時の戦闘での快楽でその国、土地に住む人間に迷惑をかけたりはしない筈だ(多分)が、年には念を入れ、フェンリルの情報を可能な限り隠蔽したそうだが、ここでその情報が明るみに出てしまう事件が起こった。
俺とエレノアの決闘だ。
「宮殿の資料庫に隠している禁書、それもこの国いる筈の召喚獣の記述がある書物の閲覧許可が欲しい」
この報酬に頭を抱えたのは当然、管理していたエレノア本人とカグヤの側近であるユイファン宰相だ。
マリアと一通り召喚獣に関する記述、伝承をさらったのだが、肝心のこの国の召喚獣の記述、特に土の大精霊の番の召喚獣の記述が一切なかったが、十字教の教会であるマグドレア教会の聖書(という名のルーの日記の廉価版)にフェンリルという存在が旧、ゲルマニア、ルーシで猛威を振るった聖獣の記述があったのだ。
だが、帝国はカグヤの意向で十字教は弾圧まではいかないが教会から力を奪い弱体化させている。
この力とは物欲、権力欲に溺れた高官の権力、財産、武具だが、この力の中に聖書など書物も含まれていた。
必然、教会の教えは口伝に代わりこのことから精霊を食い荒らすフェンリルの存在がカグヤの目につかない様になったが、ここに聖書の原典(しつこいようだがルーの日記)の執筆者と教会で修行していた俺が意図的に消されていた書物、情報の不自然さに気づいたのだ。
そこで旧ゲルマニア、ルーシ近辺にいるであろう召喚獣の情報を持っているであろう宮廷魔術師のエレノアに報酬としてその閲覧許可を求め、禁書室で目当ての召喚獣の記述のある禁書からフェンリルの情報を得たのだ。
召喚獣を味方につける為に俺がこの国に来ていた事実を知っていた彼女達は俺の意図を察したが、他の七英雄が動き出し、万が一契約に持ち込むか自然が破壊されるより対人外、魔獣戦の熟練者の俺や既に2体の召喚獣と契約しているマリアならということでフェンリルは国の財産であり、貴重な戦力である為、貸し出すという名目で契約の取り付けをし、カグヤを再び執務室に縛り付け、こうして山の戦い等、冒険者上がりの女傑、五将軍アデーレ女史と火力の高いアニと共に密かに未だ雪が積もっていないルーシの短い夏の時期を狙って霊山へと向かう事になり、冒頭の状況に到る。
……余談だがヨシツグも連れてくる予定だったが、ビビに折檻を受けるのに忙しそうだったので放置してきた。
「そういや、アンタら、ガリアの出だろう? ガリアの親バカ二人(ガリア国王と元帥のこと)、脳筋神父、ウチの古巣の馬鹿どもは元気かい?」
道中、霊山に向かう間に元ガリアのハンター【蛇女の尻尾】のリーダーだったアデーレ女史がいつの間にか背後に周り後ろから俺たち二人を肩に抱き寄せ親しげにに話しかけてきた。
俺は既の所で回避しアデーレの右腕は空を切ったが左腕はしっかりとアニを捕まえており、アニは無表情にされるがままになっている。
溢れたマリアが脈絡もなくアニに肩を組んでフランクに接するアデーレに目を白黒させて混乱する。
殺気も無く、一瞬とは言え俺の間合いに入り込んで背後を取ったという事実が重要だ。
以前、彼女のお古の武器から武器情報を読み込んだ事がある為、ある程度の実力を把握してたがその前情報を大きく上回る戦闘技能の片鱗を感じさせた。
流石帝国で5本指に入る実力者だ。 エレノアといい、アデーレ女史といい、以前の戦いより遥かに成長している。 これでカグヤが遊びや訓練では無くガチで戦う事になればどれだけ成長しているのか等、考えるだけ無駄だろう。
「全員元気ですよ。 後、脳筋神父も国王と同様に親ばかに移行してますね。【蛇女の尻尾】もあなたが抜けた穴を補う程には成長して元気にやってますよ。」
「……偶に彼らにも食事をご馳走になっている」
あいつらにもたかっているのかこの腹ペコ魔女は。
「ククク、そうかいそうかい。そいつは良かったよ」
そんな笑い混じりの雑談に興じているが、霊山の雰囲気は決してこんなピクニックのノリで登れる程甘い道のりではない。
本来、この霊山はガリアと帝国の国境にあった【迷いの森】と同じく魔物の住処であるが、【死都】【黄泉の入口】、と同じく、臨界者、超越者級の力を持つ【主】がいる為、眷属が俺たちを襲うはずなのに一向に現れないのだ。
臨界者とそれに準じる実力者が同行しているから本能で其れを察して息を殺して見張っているのだろうか、何にも遭遇せずに山の奥へ奥へと向かっていく。
嫌な予感がする。
山が静かすぎるし、この場にいる四人全員がそれぞれ感じていた。
アデーレ女史は長年の勘で、マリアは動植物、自然の声や霊体の声で、アニは魔力感知で、俺は……物語の展開上で(オイ)。
焦燥と不安を感じる中、それが見事に的中するのはそう遠くない未来だった。




