場外ラウンド 後半
おまたせしました!
~ルーとテレサの場合~
ヴァルキュリア帝国は様々な異文化と異世界文化がもたらす発展目覚しい国であり、文化の数だけ、服飾も種類が豊富であったし、女傑帝国と言われる帝国では美を追求する化粧品、装飾、服飾品の水準は他国に比べて高い。
そして、美を求めるのは何も人間だけではない。
吸血鬼の真祖。
永遠の美女であるテレサもまた、美を求めて帝都を闊歩していた。
今の彼女の格好は日傘を指し、長い金髪を黒のリボンで結い、藍色に花柄の模様をあしらった袴に革紐のブーツという大正時代の日本の女学生姿になっている。
言うまでも無く、カグヤの趣味の産物だが学校に憧れを持つテレサにとって、時代考証や世界観はどういいことであり、重要なのはコレが学生服で、且つ綺麗な服であるということだけであった。
そんな異国情緒あふれる装いと吸血鬼の魅了も相まって道行く人が彼女に目を奪われ、振り向いていく程だった。
そしてテレサの進行方向にも、彼女に匹敵する美女が歩いていた。
光の大精霊にして、女神の神格を得た美女、ルーである。
彼女は教会、神殿、神社仏閣を巡り巡った帰りであった。
多神教・・・つまり、精霊信仰色の強い帝国ではどのような宗教を進行するのも自由であるが権力を持たせない様にカグヤが統治していた為、ルーが嫌いな汚職神官がおらず、敬虔な信徒が多くいたた為、ルーの機嫌も最高潮に達していた。
その機嫌の良さが周囲に伝染するかのように、彼女が歩くたびに散った桜が再び咲き乱れ、病気や怪我で苦しんでいた人々が瞬時に治り、幸運が撒き散らされていた。
正しく、その姿、あり方は女神のそれである。
そして、両者、上機嫌のまま宮殿前で対峙した。
◆◇◆◇◆◇
不倶戴天の天敵というか、彼女達は仲が悪かった。
ルーは最大宗派十字教の最高神にして太陽を象徴する光の女神、精霊信仰では光の大精霊に位置し、人に化けて悪党を討伐する武神、英雄神として慕われ、テレサは闇の眷属、最強の魔物に数えられ、人類の天敵である吸血鬼の中で、太陽を克服した存在である。
こういった背景もあるが、彼女達の仲の悪さの原因はアキラとマリアにあった。
本契約者もおらず神殿から離れた為、ある程度弱体化しているとはいえ、アキラという最高の供給源を得、マリアに使役されたことで強化されたテレサに噛み付かれ吸血鬼化こそされ無かったもののマリアの洗脳に抗えず、一時とはいえ、吸血鬼に屈した事を痛く誇りが傷ついてた上に自身がアキラに対して素直になれないのに対し、テレサは外面を脱ぎ捨てて甘える事も気に入らなかった。
一方、テレサに至っては天敵であるルーに【回答者】で太陽神の聖剣を幾度もその身に受け、不死とはいえ、相当痛手を受けた事、更に自身の敬愛する主の妻?であるルーの立場をも快く思っていない。 彼女にとっては自身より弱い存在に対し遠慮する事も無いし、アキラに近づく者に対し疎んでいた。(本能的にカグヤには勝てないと悟っているため彼女は例外)
アキラの前では基本、大人しい彼女達だが、ルーは大陸中の悪党を震撼させた【白い悪魔】の異名を持ち、テレサは【死都の主】にして臨界者を超える【超越者】である。
カグヤを除けばひどく好戦的で手段を選ばない災害を人型にした二人が抑止力ともいえる仲間がおらず単独行動で鉢合わせになってしまったのである。
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眉目麗しい美女二人が揃い、その光景にため息がでる帝都の住人。
確かに何も知らなければ正しい反応ではあるが、彼女達の背景、性格、戦闘力を知る者がこの場にいたら、実力のあるものは止めに入り、それが叶わない者は悲鳴を上げて逃げ惑うというのが正しい、リアクションである。
「ああ、最高の気分で買い物を楽しんでおったのにツキが下がる者に出くわしてしもうたの。」
日傘を差しながら悪態を就くテレサにヒクっと頬がひきつるルー。
「気のせいではないですか?周囲の皆さんは幸福に満ちた顔をしているのに・・・ああ、引きこもり生活の長い方だと、他人の幸せを妬むようにねじ曲がった性格になるのでしょうか?」
間髪いれずに淑女モードで反撃するルー、テレサも頬がヒクつく。
「どこぞの放蕩娘のように責務を放り出すより幾分かマシじゃ。妾は自身の在り方、責任を自覚しておるのでな」
魔物であれ精霊であれ、神殿やダンジョンという力のある土地に住み着いたものは土地の加護や恩恵をその土地に住む者に与えることがある。(別名 土地神、ぬし)
テレサは一見、恩恵どころか死を振りまいていたように思えるが実情は違う。過度に溜まった魔素や人間の数を減らす事、欲に目が眩んだ愚か者を早期に減らし、人類の天敵となること、臨界者を用いた戦争の爪痕を保持することで戦いの愚かさ、死の恐怖を形として残すことで、人間同士の争いを抑止していたのだ。
戦乱を最小限に抑えるといった事に関してはガリアに貢献していたと言え、アキラに攻略された時は戦乱もこれ以上は抑えられないと悟り、土地の役目を最後まで果たしたと言える。
だが、テレサとて何も好きで神殿から離れたのではない、汚職神官を見限った事も一因ではあるが、世界の為に黄泉の入口の封印を解くため、仲間を集め、来る召喚者達との戦いに備える為に出奔したのであって無責任に出たわけではないのだ。
「私たちの優秀な教え子とはいえ、いとも簡単に攻略される土地を守っていたとは・・・随分軽い責任ですね。」
この様な不毛な言い争いを続けていき、果には臨戦態勢に入る両者・・・
周囲の人間もようやくこの事態に気づいたのか、徐々に離れ出す。
ルーの背後から後光が差し体が光りだし、テレサの影の色が濃くなり闇が漏れ出す・・・・・・
あわや帝都崩壊の危機だったが、結末は以外な形でついた。
「「だ~れだ!?」」
突然ルーとテレサが背後から気配もなく現れた闖入者二人に同時に胸を揉みしだかれたのだ。
ルーは即座に光の速さでアキラ以外に触れさせない肌を触った闖入者に光の速さの肘鉄を顔面にお見舞いしようと思ったが、身動きが取れない事に驚愕し、覚えのある声、気配に抵抗は無駄であることを理解した。
テレサもその人物の姿を正面に見たことで震え上がり胸を揉みしだかれる手を振り払えずにいた。
「何時まで揉んでいるんですか!!!!」
抵抗できずされるがままに去れていたテレサを救ったのはビビの魔力を込められた拳であり、闖入者の即頭部に見事に入り、闖入者は崩れ落ちる。
「ああ、夢にまで見たテレサたんの感触・・・これや~これやがな~~~我が生涯に一片の悔いは、首が折れるほど苦しい!!!???」
最後まで言葉を発せず義娘にチョークスリーパーを掛けられ顔が青ざめていく闖入者Aこと、田中ヨシツグ。
義娘とのデート中にテレサとルーの殺気を感知し、争いを仲裁に走ったヨシツグだが、止め方が最悪だった。
デート中に他の女性に浮気や目が向くどころかセクハラを敢行しよう物ならこれくらいの制裁は当然である。
「お・と・う・さ・ま!?」
ギリギリと万力の様に締め上げるビビ。
「く、首は地獄、背中は天国を体現するチョークスリーパー・・・グッジョブや!」
自身の体力がガンガン減少中である危機的状況にも限らず、煩悩を撒き散らす漢ヨシツグ。
義父のその言葉に自分の胸が父の背中に押し当てられている事実に顔を赤らめるも全力で落としにかかりるビビ。
そして遂にぐったりと落ちる英雄。
しかしその勇姿を見ていた帝都の男性陣は見事な敬礼を彼を送ったという。
一方、未だルーの胸を揉みしだく闖入者Bの正体は帝国のトップ 伊藤カグヤその人である。
アキラとエレノアの戦いに駆けつけようとしていたカグヤであったが、宮殿の外で闘争の気配を感知し、結界が張られている中庭での戦いより優先度が高かった為、被害を出す前に駆けつけ、両者を止めるに至ったのだ。
「ふふふ お痛はダメですよ?ルーさん、テレサさん。 私の庭でこんな真似をして只では済みませんよ? あ~でもルーさんの肢体は以前の夜に拝見しましたけど、服越しに触るのもまたイイですね~。」
『ルー・・・我が庇護下の土地で争う事は許しませんよ?』
「わかったこのセクハラ女帝を止めてくれるのなら即刻、矛を収める・・・だから早くやめさせてくれ。」
火の大精霊が顕現し、同族の言葉にも耳を傾け、光の大精霊も手を上げて戦意がない事を示す。
『カグヤさん。 その位で止めておかないとアキラさんとエレノアの騒ぎが終わってしまいますよ?』
火の大精霊も契約した仲であるのか、カグヤの扱いが上手く、即座にルーを開放するカグヤ。
「は~い。 でも二人共? 今度、帝都で騒ぎを起こしたらこんなものでは済まないからね?」
誰もが見惚れる笑顔で二人に釘をさしてルーを開放するカグヤ。
その声色も妙に優しく、聞き分けのない子共を言い含める様であったが、効果は劇的であり、ルーは冷や汗をかき、テレサはブンブンと首を縦に振る。
「わ、悪かったの カグヤ・・・以後気をつける。」
「私も少し、自重が足りなかった。」
七英雄随一の攻撃力を持つカグヤ
七英雄随一の兵力と技能を持つヨシツグ
この二人(約一名、満ち足りた顔をしながら路地裏に引きずられていった)が来たとあっては止めざるを得ないし、戦意も霧散するしかなかった。
両者とも、背後を容易く取られたことからも敗北感を味わっていたし、止める方法も、問題ではあったが、両者ともに闘争の空気を霧散させるという点では妙手ではあった。
二人の返事に満足し、そのまま、宮殿の方へと【縮地】で走り去るカグヤ。
怒りに震えるビビに建物の物陰に引きずられ、ぐったりしているヨシツグ。
残された二人はしばし微妙な空気に包まれるが先ほどのアキラとエレノアの戦いというカグヤの言葉を思い出し、ルーは光速移動で、テレサは影転移で姿を消し、アキラの元へと向かった。
突如、現れた女帝に守護神の火の大精霊が現れたことで街の住人は一時、騒ぎが起きた事は言うまでもないだろう。




