場外ラウンド 前半
*印は引用文です。
長かったので一度切ります。
アキラとエレノアが戦っていた頃
~田中の場合~
「ククク なべやん、かぐやん何時までもワイが呪い位で、この桃源郷を前に大人しくしている人間やと思うなよ~」
「義父さん、全く懲りていませんね。」
医務室から出てきたのは、カグヤに戯れと腹いせに藁人形をメッタ刺しにされて、医務室に臥せっている筈の田中と介護に回っていたビビである。
その姿に、呪いの影響は見られず、至って健康な姿である。
アキラの魔改造された【丑の刻参り】の呪いを跳ね除け、軽い足取りで動いているのには訳がある。
先日アキラが元いた世界に帰還するスキルを開発した時、田中とマリアの強力でスキルを一時共有したのだが、ちゃっかりアキラのスキル欄から解呪方法を読み取っており、白魔法のエキスパートであるセイラにある程度、捕虜としても待遇をよくする等、便宜を図ると言うことで呪いを解いてもらったのである。
セイラはその時、まだ茫然自失で精神的にボロボロだった事、自分の同僚である刺客の第4位を命を取らずに本拠地に還した事を知ったセイラはある程度、田中に心を許していた事が重なり、封印状態であったが、一時的に呪いを解く【仮解呪】をかけてもらい、一時的に呪縛を逃れる事ができるようになった。
再び溶けてしまうのが難点だが、先ほど、カグヤにメッタ刺しを受けた直後、ナミと一緒に修行に行くセイラを引き止め、治療と【仮解呪】をかけてもらったのだ。
そうして頃合を見計らい、医務室から出てきたのである。
*「スゲーッ爽やかな気分だぜ。新しいパンツをはいたばかりの正月元旦の朝のよーによォ~ッ」*
呪縛から逃れ、少々テンションが上がる田中。
以前はカグヤに下手な発言をして、人形を溶かされた事を忘れかねない勢いである。
「いや~眼福、眼福♡ この世界の美形率の高さには驚きやな。ほんま、イケスカン召喚者に感謝する点といえば、こんな桃源郷のような、美形率の高さ位やで。 これで男がワイだけで、全ての美女がワイに寵愛を求めるハーレム帝国やったら文句無しやねんけどな~。」
「・・・・・・ハァ」
男の願望を年頃の義娘の前で垂れ流す義理の父にため息をつくビビ。
普段は命を平等に救い、強さをひけらかさず悟らせない謙虚さを持っている尊敬すべき父なのにたった一つのこの欠点で色々台無しにしてしまっているのだ。
自分の淡い恋心にも気づかず、色々アプローチをかけているにも関らず、患者と子共には一切手をつけない為、ずっとヤキモキする羽目になっている。
本来ならセイラに呪いを解いて欲しく無かったのだが、女性に声をかけるナンパする事が呼吸レベルに到達している田中に禁欲生活を強いると衰弱していく為、強く反対できなかったのだ。
仕方なく、ビビは田中に付き添い、行き過ぎないよう監視し、妨害する事にしたのだった。
そんなビビの一緒についていきたいという申し出を田中は以外にも「ええで~♪」と反対もせず同意した。
これにはビビも驚いたが、上機嫌だし、私を連れ歩いてはナンパもしないだろうと思い直したのだった。
田中side
フフフ、ビビを連れて歩けば、女の子の警戒心は下がるに違いない。
狙いは人妻・・・イヤ、元いた世界で一度酷い目にあって海に沈められかけたから、ココは未亡人を!
この子の母親になってくださいと行くか!?
それとも、ビビと同年代の娘を狙ってこの娘の友達になって下さい でいこかな? ソコから発展する恋というのもソソる状況やな~。
でも、その前に・・・・・・
「そういや、ビビは帝国に来るのは初めてやったな。 どこか行きたいとこあるか?」
「え?」
何時も世話になってる義娘の行きたいとこ位、連れて行ったるか。
田中side end
◆◇◆◇◆◇◆◇
~ナミとセイラの場合~
現代に蘇った女神と聖女達は帝都の貧民街に訪れ、白魔法で消毒し、清潔な空間を保った天幕に結界を貼って簡易診療所を公園に建てて診察をしていた。
カグヤは嫌いな執務作業でも仮にも国民の暮らしを最低限人間らしい健康的な生活を受けれるように貧困層の生活水準を上げる様に内政にも力を加えていた。
軍事力の高い国の特徴か、西洋医術、東洋医術など、様々な医療技術、治癒魔法が発展してはいるがそれでもこの時代、本格的な医療技術、知識を持つ人材は少ない。
十字教徒の神官、僧侶も医療知識を持つが、権力にとりつかれた神官達が必要以上に寄付金を募り、国政にまで口出ししてきたのがカグヤの逆鱗に触れ、白魔法のエキスパートである殆どの十字教徒の神官を国外追放にしてしまったのだ。
その為、東方医療が主流になっているが、白魔法の使い手は少ない。
エレノアも白魔法使いの技術向上に一役買っているのだが、現状人手不足が否めないので、効果の高いアキラ製の【ガリアの秘薬】の輸入や、田中の医療人形に頼る形になっている。
そういう背景を知った女神であるナミはこうして貧民街にいって治療しにまわったり白魔法使いに治療術や白魔法の手ほどきを行っているのだ。
「本当に・・・・・・ありがとうございます・・・・・・俺なんかの為に・・・」
「いえ、お大事にしてくださいね。」
再起不能な重症を負った兵士を癒し・・・
「ナミねぇさま~ これね、ねぇさまのためにつくったの♪ はなかんむり~」
「あら♪ ありがとう。 大事にするわね♪」
ついこの間まで、不治の病で死を待つだけだった少女の笑顔を取り戻し感謝され・・・
「ありがたや、ありがたや~」
「あ、あの~」
老人達に囲まれ拝まれ、少々困惑する女神の姿。
そして千年前の嘗ての自分の姿がそこにあった。
人々が、魔王の母・・・いや、妻に相当する大精霊の姿に戸惑う現代に蘇った聖女はその姿に嘗ての自分を重ね合わせ、今を生き、ナミに感謝する人々の笑顔を奪いかけた自分に罪悪感を感じ始め、居た堪れなくなっていた。
「どうかしましたか? セイラさん。」
「・・・・・・いえ、昔の事を少し思い出していただけです。」
ナミの顔を正面に見れずにそっぽを向いて答えるセイラ。
セイラの今の格好は聖骸布のローブでは無く、普通の白魔法使いの制服を身に纏っている。
権力にとりつかれた神官は全員、この国を追い出された為、帝国に僅かばかり残った白魔法使いは敬虔な信徒か、医者の2種類である為、悪感情は持たれておらず、セイラも千年前に実在した最高峰の白魔法使いであった。
嘗て自分の白魔法は人を救う為に身につけた筈だったのにいつの間にか血に濡れていた自身の手を見つめてしまう。
「? お姉ちゃん、泣いているの?」
診察中の幼子が震えるセイラを心配そうに覗き込む。
「ごめんなさいね。 大丈夫だから・・・じゃ、じっとしていてね?」
そうして、セイラは患者の少女に手を翳し、【サーチ】で健康状態を確認し、患部に治癒魔法を掛けて病魔を滅して治癒魔法をかける。
その一切無駄の無い手際に患者の付き添いの母親は驚き、患者は目を丸くして喜ぶ。
「すごーい。お姉ちゃん おとぎ話に出てくるセイラ様みた~い。」
「・・・・・・セイラ様?」
自分の嘗ての名前が少女の口から出た為、少し面食らうセイラ。
「しらないの? すっごくむかしのお医者様で~すっごく優しくてどんな怪我や病気も直しちゃう人なんだよ。」
「こら! 白魔道士様が知らない筈ないでしょうに! すいませんね。 この子ったら」
母親であろう保護者が子共に叱りつける。
「い、いえ お気になさらず。 それでは後は安静にして下さい。」
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「またね~せんせ~。」
最後の患者が帰り、一段落付く二人。
会話は無い。
だが、ナミはセイラから話しかけてくれるのを期待しているのかソワソワし、気づかれない用にチラチラとコチラを伺っている。
セイラも宗教上、怨敵である邪神のこの様子に毒気を抜かる。そして彼女の人とナリを知った今、無理に敵対する事も無いと思い始めていた。
「・・・・・・今日は」
「へ! あ はい! なんでしょう!?」
突然、少し、心を開いて話しかけてきたセイラに驚くナミ。
「今日は、ありがとう、こういう機会を設けてくれて、昔の自分を思い出せたし・・・・・・良いことをして感謝されたのは久しぶりだ・・・・・・感謝する。」
その言葉を聴いて、パアアっと顔を輝かせるナミ。
邪教の女神らしかぬ人間臭い仕草に苦笑しつつ、その跡も少しだけ取り留めの無い会話やアキラの話題、白魔法談義を交える。
千年の時を経て、蘇った大精霊と聖女がぎこちなくも笑顔で談笑する姿がそこにあった。
◇◆◇◆◇◆
後半につづく~




