決着
「俺は諦めない・・・・・・諦めてしまったら今迄積み上げてきたものが無駄になってしまうから。」
師匠が私と同い年の時、同じように絶望の淵に落ちた時に口にした言葉。
不屈の心で立ち上がりその世界の常識を変える程の怪物となって舞い戻った人の言葉。
諦めるな、妥協するな。
私は未来へと進む足と掴み取る手が残されている。
私にはまだ活路が残されている!!
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アキラ side
『なんと! 鎧の騎士の正体は円卓の騎士の末席 アリシア・ド・マイヤール選手!? 今迄、王女護衛官だった為、表舞台で戦うのはコレが初めてですが・・・今迄、実力を隠していたのでしょうか!?凄まじい戦闘能力です!!!』
実況の言うとおり、アリシアは円卓の騎士に名前だけは所属しているが、暗部で訓練した後、護衛官として任務に付いた為、その実力は表舞台では知られていなかったが、影ではマイヤール三姉妹の中では凡庸な人物という嘲笑を受けていた。
だが、円卓の騎士の三騎士相手に秒殺してきた俺相手に長時間もたせる戦闘技術を披露した。もう、彼女をマイヤール家の落ちこぼれなんて言わせない。
「・・・どうせなら師匠に一矢報いてから正体を明かしたかったのに上手くいきませんね。」
「直ぐに追いつかれたら師匠の面目が立たんからな そう簡単に負けてやんね~よ。」
アリシアが栄職に就いていない=実力が無い=政略結婚要因
この認識が崩れた今、アリシアはフリーだ。
そしてアリシアは未だ伸びしろがある。
三姉妹・・・いや、ガリア随一の騎士になる素質があるのだ。 それをこの場で証明させる。
「では試合の続きと行こうか? 先程までが実力の全てではない事を・・・自身が最強であることを証明して見せろ!!!」
「はい!!!」
瞬間、アリシアが装備していた鎧が砕け散り、代わりに白を基調としてドレスに胸当て、篭手をブーツを装備した装いに変わる。
花嫁衣装ではなく、戦装束・・・姫騎士とよべる美しき戦士が戦場に舞い降りる。
光輝く、軍刀を引き抜き、腰だめに構えるアリシア
「王女護衛官にして、アキレウスの一番弟子 アリシア 推して参る!」
対して、俺は頑丈さを追求した鋼の槍を錬成して構える。
「応とも!! 自由の槍 ギルドマスター アキレウス・ブラックが受けて立つ!!」
初めて名乗りをあげての尋常な勝負。
そして俺にとっては久しい正々堂々の騎士の戦い。
彼女といる時だけは、自分でもらしくないと思うが、彼女の直向きさが、素直さが、俺の心を少しずつ癒していき、いつの間にか忘れ、捨て去っていたスポーツマンシップを思い出させ、昔の自分を思い出し、取り戻すことが出来る。
何時の間にか弟子に成長させてもらっていたのだろう。
本当にこの娘と相手すると調子が狂う。
だけど・・・・・・
「いざ!」
「尋常に!!」
「「勝負!!」」
・・・・・・悪くは無いな。
アキラside end
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アリシアのレベルは100を超えたばかり・・・
対してアキラは人間の限界値、レベル250の臨界者
先程まで、自身に足りなかった攻撃力・防御力・魔法力を大剣・鎧・精霊の数で補い、【源呼吸】による【身体強化】【持続力強化】【高速回復】で支えていた。
外と内の魔力を特殊な呼吸で循環させる無尽蔵の魔力炉を作り出力を強化する【源呼吸】を習得したばかりで使いこなせていない。
戦闘中での連続維持時間は数分間が限度である。(それでも詠唱なして体力・魔力回復・治癒・解毒・出力強化の効果があるので十分有用)
鎧を着用していた時は、機動力を捨て、大剣を振るう右腕と精霊魔法を行使するための魔力回復のみに絞っていた。
大剣と鎧という重りから解放されたアリシアは一時的に速度が飛躍的に上がる。
【瞬動】暗部で習得した高速移動術 そこから得意の剣術につなげる 【高速戦闘術】で一撃離脱戦法で連続で【瞬動】を行い、アキラに斬りかかる。
対するアキラも【縮地】で対抗する。
高速で二つの影がすれ違いざまに軍刀と槍がぶつかり合い、火花を散らす。
それが何度も繰り返され削り合い続ける。
長時間戦えないアリシアだからこそ、この刹那での攻防を無限の様に時間を引き伸ばして戦う。
少しでも速度を緩めれば、負けは必死。
そして好機はアリシアに訪れる。
闘技場の武器の破片や血液に含まれる鉄分や炭素で作られたアキラの槍がアリシアの持つ、マイヤール家に代々伝わる精霊文字が刻まれた軍刀によって削られ、その耐久値の限界を超えて穂先が削り取られたのだ。
好機とばかりに精霊魔法を軍刀に込め、精霊魔法で冷気の剣【氷結剣】を繰り出し、アキラに一撃を加えに掛かるがアキラはお得意の手刀で受け止めてしまう。
ギリギリとつばぜり合うが、膂力で勝るアキラにそのまま吹き飛ばされ、距離を取り、両者の動きが止まる。
だが・・・・・・
「・・・・・・この国(世界)に来て・・・鍛錬以外で血を流したのは久しぶりだよ アリシア。」
ポタ・・・ポタっとアキラの右手から血が流れる。
今迄、一度も攻撃を受けず、一撃で相手を屠ってきたアキラに・・・・・・圧倒的な実力差があるにもかかわらず一矢報いる偉業を成し遂げるアリシア。
「その内、病みつきになりますよ。」
「クックック ウケるわ。」
軽口をいうもアリシアだが、そろそろ限界が近づいてきている。
「次で終わりにしようか? アリシア。」
そう言ってアキラは右拳を作り、徒手空拳で立ち向かう。
この提案はアリシアにとっても願ったりだった。 自身の体力に限界が来ている以上、次の攻撃に全てを掛けるしか勝機はない。
そしてアキラもアリシアの現状を正確に把握している。
あくまでこの戦いだけは正々堂々と真正面から戦いを持ちかける。
その時、アリシアとナミにはアキラが少年だった頃の姿を幻視した。
表情から険が取れ、子共達がアキラの内に感じた優しさを体現した表情を持った少年時代のアキラが現在のアキラに重なって見えた。
そのアキラの心の内を・・・感じ取り、アリシアは自身の勝機である軍刀を捨て、アキラと同じく徒手空拳の構えを取る。
「私もそう思っていたところです。 最後はステゴロで決めましょう。」
両者とも清々しい表情で相対し、チリチリと源呼吸で地脈からソイルが空気からミストが二人を中心に集まり魔力を組み上げ、燃やし、力を溜める。
極限にまで溜め終わると、攻撃の隙を伺うようにピタリと時間が止まったかのように魔力の奔流が止まる。
まるで嵐の前夜の様に闘技場が静まり返る。
だがその静けさも本の数秒でしかなく、遂に両者が同時に弾かれた様に高速で突進し・・・
二つの影が交差し・・・
そして、様々な思想や問題が絡んだこの対決にとうとう決着が付いたのだった。




