正体
体調を崩して、寝込んでいました(-_-;)
季節の変わり目ですのでみなさんもお気をつけて。
アキラside
意外というかなんというか、俺の戦法を批判する観客は殆どいなかった。
この闘技場の観客の大半が実戦経験を持つか向上心のあるハンター、冒険者、訓練兵、オフの兵士が観客である以上、俺のシーフとしても戦法を参考にしたり、感嘆する者はいても野次を飛ばす者はいない。
円卓の騎士に賭けた観客も俺の戦術を少しでも盗もうと目を光らせている。
強力な魔物が跋扈するダンジョンが多く点在するガリアではこういった強かさがお国柄なのだろう。
相手側に賭けた観客も俺が披露した技や戦法を学べれるのなら安い授業料だと考えている様だ。
自信の実力を隠す為にアレコレ画策したのだが、この方が却って良かったのかもしれないな。
俺tuee!なんて無双なぞ、俺ひとりが強くなるより全員が強くなった方が、結果的に俺の負担も減るし、俺を頼ろうなんて考える連中もいなくなる。
いずれこの世界から帰るのだから俺にとってもこの状況は願ったり叶ったりだ。
まぁ俺を引き入れたい王家は別なようだが・・・・・・
『ア、アキレウス選手、目にも止まらぬ連続攻撃の中に幾重もの罠を仕掛けていた━━━━!! コレが死都を奪還した神算鬼謀の男の戦法か━━━━!?」
実況のお姉さんのコメントからも俺に避難の色は見られない。
そして最後の騎士が闘技場に現れる。
『そして円卓の騎士、最後の選手は全身甲冑に素顔すら兜で覆い隠す円卓の騎士の新入り! 本日の試合がデビュー戦だそうですが、悪魔の頭脳を持つアキレウス選手にどう対抗するのでしょうか!?』
あ、実況にちょっと毒が入った。神算鬼謀だったのに悪魔の頭脳に変わってる。
「アキラさん 一旦、休憩しなくても?」
「無用。 初めから俺ひとりで相手取るつもりだったんだ。このままで行く。」
コイツで最後だ。
コイツに勝てば、ひとまずアリシアは望まぬ結婚を阻止できる筈だ。
この戦いは公には円卓の騎士と自由の槍のどちらが上かを知るための腕試しであってアリシアを掛けての戦いだということは知られていない。
先の三人の様子を見ても知らない様子だったことからも分かる。
俺が勝ったらクラリス同様、婚約者(保留)にして彼女たちが本当に愛した男が現れるまで兄貴分として守る。
いや、皮算用は俺の悪い癖だ・・・
なんかこう言う得体のしれない相手というのは昔から難敵と相場が決まっている。
もしかしたら中身は戦闘狂な国王か元帥かもしれないし、魔物が人間に化けているなんていう飛躍的な発想が必要だ。
過大評価し過ぎかも知れんが、必勝を心がける以上、用心は必要だ。
自身に制限をかけているとはいえ、用心をしないと。
「それでは最終戦を始めます。 両者、用意はいいですね?」
無名の騎士は大剣を静かに抜き放ち、俺は左手を手刀に、右手は拳に変えて半身で構える。
「其れでは・・・最終戦・・・・・・始め!!」
アキラside end
■ □ ■ □ ■ □
とんだ伏兵がいた。
アルマンが敗れた以上、無名の騎士に勝目は無く、アキラの戦術を少しでも自身の物にしようというのが観客の思いだったが、それはいい意味で裏切られる。
無名の騎士は全身を重装備で固めているにも関らず俊敏に動き周り、高速で繰り出す大剣がアキラが放つ、投擲ナイフ、槍を尽く打ち払う。
必殺の炸裂槍の爆発にも全く効かず、状態異常の槍の一刺しも通じない。
ノエル達エルフ族と精霊魔法の心得のあるクルトの血族は無名の騎士が精霊魔法を行使し、槍が爆発する瞬間に急激に周囲の温度を上げ温度差による空気の層を作り、爆風を受け流している事に気づく。
状態異常の攻撃も熱で蒸発し届かない・・・・・・
投擲は大剣に阻まれ、爆発も受け流される。
錬金術で地面が槍のように隆起して襲い来るも全て大剣が粉みじんにされ、距離を開ければ、強力な精霊魔法の詠唱時間を与える隙になってしまい、逃げ場の無い、範囲攻撃の火炎が闘技場に荒れ狂う。
その度にアキラも錬金術のスキル 【土壁隆起】で壁を作り出し攻撃を防ぐ。
高速で振るう剣と周囲に発する高熱が投擲と接近戦を無力化し、剣術で防ぎきれない爆風も空気の層で受け流す上に頑丈な鎧がカスリ傷すら阻む。
離れても強力な精霊魔法が襲いかかる。
両者の体力の削り合いになりつつあり、長期戦の様相を見せ始めるが両者とも全く疲労の色が見れない。
特に、強力な精霊魔法、重装備での高速戦闘術を発揮する剣士の方が消耗の度合いが激しいのにも関らず、に無尽蔵のような魔力を持って戦い続ける。
アキラも自分の魔改造で強化された洞察力が幻惑されていたことに驚愕した。
極限にまで強化されたアキラの透視を幻惑するには、伝説級の装備で身を包むか複数の幻惑、隠蔽のスキルの重ね掛けでなければ不可能である。
そして答えはどちらでもなく、中身がすり替わっていたのだ。
使えるはずのない精霊魔法・力押しの筈のスタイルとはかけ離れた高速戦闘術。
これだけで、アキラは鎧の中身が誰にすり替わっていたか容易に想像がついた為、敢えて追求はしなかった。
建前の円卓の騎士であるという参加条件を満たしているし、戦ってみたいという思いがあったのだ。
そして、先の三騎士が秒殺されたのに対し、既に10分もの時間が経過するまで無名の騎士は粘りを見せる。
臨界者といっても無敵では無くレベルで表記するなら数値は250。
レベルが150 ギルドランクで換算すればBランク相当の実力者がそれなりの高ランクの武具を装備すれば、攻撃は通じる。
しかし無名の騎士はレベル100そこそこ。
先の三騎士は全員レベルは150を優に超えている為に円卓の騎士でもこの騎士の実力は格下に位置する。
如何に強力な装備を身につけてもアキラに叶う道理はない。
だが、速度に特化した剣術、無尽蔵なスタミナ、高レベルの装備が辛うじてその絶望的な差を埋めていた。
精霊魔法は術者の魔力の量と精霊の格で威力が決まる。
複数の精霊との契約、膨大なスタミナで是れをクリアし臨界者に届く出力の精霊魔法を放つ事が可能にしていたのだ。
精霊魔法使いとしての階位をコンピュータで換算すると闇の大精霊イザナミを一柱、使役しているアキラはスーパーコンピュータ、無名の騎士は下位~中位の精霊を複数使役し、何十台もの家庭用パソコンを繋げてスペックを底上げしているようなものだ。
しかし、その程度では只の臨界者には通用しても、アキラには通じない。
如何に、黒魔法、精霊魔法、固有スキルを使わず、身体能力に制限をかけても、レベル1でラスボス攻略に挑む狂気を持つ男には通じない・・・
「攻略法その1 ・・・・・・【隠行】」
アキラの姿が掻き消える直様、無名の騎士が自信を中心に魔力を広げ、索敵に力を入れるが一向に攻撃が来ない・・・
だが、向こうがしびれを切らしたのか背後から物音が聞こえ、急いで後方に斬撃を入れるが空振り、その隙を疲れて背後から蹴られ、たたらを踏んでしまう。
「攻略法その2・・・・・・白魔法【光壁】x4」
本来、自分か味方にかける白魔法 物理攻撃を軽減し魔法を跳ね返す鏡のように磨き上げられた長方形の盾が騎士の四方に取り囲み閉じ込める。
急いで、剣で破壊しようと試みるが、大剣のリーチが長すぎ、狭く閉じ込められたため動きが制限され破壊するのに満足な振り抜きができず、手も足も出ない事に気づく
上空に飛び上がろうと身体強化で飛び上がろうとしたが見上げるとそこには宙に立ち、槍を構えているアキラがいた。
「何も味方や人に掛けるだけが能じゃ無い。 魔法の盾は吹けば飛ぶような軽い盾では無い・・・攻撃を受けても壊れるまで指定した座標の周囲にとどまり続ける。 この特性を活かせば、空中に足場を作ることも出来る。 そして閉じ込めた対象に向かって 【投槍】!」
炸裂槍が上空から投擲される。 身を捻って回避することに成功するが次に起こった爆発も周囲の温度を上げて爆発を受け流そうとするが今度は状況が大きく違った。
槍が放たれ、地面に突き刺さったと同時に上空にも【光壁】が張られ、爆発した衝撃の逃げ場が無くなる。
爆熱・轟音・破片・光は空気層で受け流せたし、当たりを撒き散らす破片も鎧が防ぎきる。
だが、狭い空間に閉じ込められた衝撃、爆風が光壁で作られた結界の中で暴れ狂い衝撃を逃がしきれず遂には鎧に尋常では無いダメージを蓄積させてしまい亀裂が走る。
「・・・・・・あと何発打てば倒せるかな?」
アキラが地面に降り立ち、倒れふすも何とか立ち上がる無名の騎士に質問する。
騎士は自身に喝を入れ、果敢にも大剣で斬りかかるも今度は振り抜く前に関節部の動きを邪魔するようにたった一枚の光壁が展開され動きが一瞬だけ止められる。
動きが止まった隙をアキラは白魔法で身体強化、耐火、耐魔法の付与呪文を肉体にかけ、高熱の防御網を突破し、亀裂の入った兜に拳を叩き込む。
「ワンパターンな戦術ほど敗れた後に脆いものは無いぞ・・・一番弟子。」
その言葉が止めだったのか、亀裂が走り兜が砕け散り端正な顔付きの金髪の美少女・・・アリシアの顔がそこにあった。
はい、皆さんのご想像通り、アリシアでした。
来賓席で観戦しているはずのアリシアが何故、ここで出てくるかは次回で明らかになります。
実は無名の騎士の中身を 田中が某、鋼の兄弟の弟みたいに魂を鎧に定着させて戦う・・・なんて案もありました。




