一番弟子 ②
アキラが何の選手だったかはあえて明記しません。
御想像にお任せします。
*
……リハビリは苛烈を極めた。
しかし、以前ほどの身体能力は取り戻せなく、周りからの賞賛の声も嘲笑に変わっていた。
この時からだろうか……勝利に執着し出したのは…
只、勝つために……
膨大な資料を用意しての情報分析と弛まぬ努力。
自身の中から聞こえるあらゆる弱音や呻き声を無視した。
諦め、妥協すれば負け惜しみや嘲笑しかしない大衆に敗北すると自身に言い聞かせ、只走り続けた。
故障しても
才能が無くても
不運でも
脇役と蔑まれても
この不平等で理不尽な世界に逆らい、華々しく活躍する奴らに勝てることを証明してみせたかった。
そして俺があの舞台に戻ったのは大学に入学した時だ。
心技体の体を欠き、その代償として以前より遥かに強靭になった心と技を携えて……
□ ■ □ ■
アキラside
「ぶっちゃけ心で勝てって言われても勝てない時はあるけど…根性論で何事も上手くいく訳じゃ無いけどな。」
「先ほどのまでの素晴らしい話が台無しなのですが!?」
「ハイハイ、休憩もそろそろ終いだ。 【源呼吸】の維持にかかれ」
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当初、彼女の課題でもある一撃必殺の技を教えるのも可能だったが、先ずは彼女の長所である速力を活かした高速戦闘術を教え、少しずつ俺と手合わせしていき、徐々に彼女より早い速度に上げていって鍛えてた。
速さ=重さだしな。
そしてその速さを活かした一撃必殺の剣戟と言えば抜刀術と刺突だろう。
だが、彼女の使う軍刀では抜刀術は少し難しい、乱戦に置いて刺突は刺した剣が抜けなくなるというリスクがある。
まぁその問題点をクリア出来るからこその俺だろ?
「そして鞘に毒や麻痺毒、筋弛緩薬を仕込む…ククク、正に一撃必殺だ。」
「あ、あの騎士としてそういうのはちょっと……」
「流石、主様、外道に拍車が掛かってます♡」
毒系統は却下らしい……なんで暗部を辞めたか理由が分かったな。
仕方ないので魔法剣を仕込むことにした……
彼女が既に覚えている【氷結剣】【火炎剣】をスキルの熟練度を上げる三要素の【理解】の部分を現代の自然科学をかみ砕いて教えてやり、威力を三段階位上げてやった。
今まで使っていた【氷結剣】は剣に氷柱を纏わせた物だったが形状がより洗練され、絶対零度を目標とした温度差の魔剣を仕込んでいる。
これだけでもアリシアは大変感謝したがコレには未だ上がある。
相転移の理論…液体・固体を一気に気化させる防御不能の必殺魔法剣が完成形だ。
ククク、やってやる…やってやるぞ。
アリシア 魔人化(笑)計画は順調だ。
それと並列してクラリスの授業にアリシアを同席させて教えている。
クラリスも競争相手がいた方が伸びるし、二人にとってプラスにもなるしな。
授業を同席させた理由だが、アリシアの才能を鑑定した所、指揮官…軍団を指揮する才能がずば抜けて高い事が分かった。
元帥の娘でもあるし、軍学書や兵法の書物を読むのに事欠かなかった筈だ。
試しにチェスをやらしてみると相当な差し手だった。
正直、暗部や護衛では彼女の才能は伸び難いだろう。
あのオッサン…父親のアレックス元帥もそれを知ってか知らずか長女のリンを義勇軍の指揮官にして三女のエイリアスを暗部の長に振り分けている。
元帥を辞したらアリシアに自分の後を継がせるつもりだろう。
そこはかとなく武人らしい不器用な愛情を感じるね。
確かに、指揮官が前に出る必要も強力なスキルを覚えさせる必要も無いのだが、姉と妹が其々の軍事組織のトップなのに自分は王女の護衛官兼侍女では劣等感や焦りも感じても仕方ないだろう。
もう少し、娘の気持ちも考えてやって下さい。
あと怪我の功名と言うべきか暗部に所属し、精霊魔法、剣術、隠密のスキルを持っていた為、俺と似たスキル構成を持っていた為、【源呼吸】を修得する素養があったのだ。
隠密での気配の消し方、精霊魔法を使用する際の魔力の流れも感覚で身につけており、武家の娘だけあって重心の移動や呼吸法など一通りの下地は完成されていたのだ。
それで、彼女に手取り足とりマンツーマンで教え、呼吸の仕方…魔力の流れを俺に触れさせてしっかり覚えこませる。
そうして短時間ではあるが【源呼吸】を修得するにいたったのだ。
まとめると彼女に教えたのは 【高速戦闘術】【温度差の魔法剣】【戦術】【源呼吸】となる。
うん、【温度差の魔法剣】と【源呼吸】は未だ修行段階だが、極めればトンデモナイ戦士になるね。
……遣り過ぎたかな?
アキラside end
ナミside
日も暮れ、訓練場でのお兄様とアリシアさんの訓練もやっと終わった。
「今日は此処まで、しっかり体を休めるように…」
「本日も、ありがとうございました!お疲れ様です!」
最近のアリシアさんは思いつめた表情は消え、溢れんばかりの笑顔で楽しそうに稽古をつける。
お兄様の訓練は端から見ても相当、キツイのに一度も根を上げずにやり遂げているのだ。
自分の成長を喜び、お兄様に強い尊敬と感謝の念を抱いているのだろう。
訓練場から去っていく彼女の足取りも訓練の後だというのに軽い。
「アリシアさんは、いい生徒ですね 主様。」
「そうだな。クレアちゃんみたいにあっという間に兄弟子や師匠を追い越す子じゃなくて助かるよ。」
「そういう意味ではありません。 アリシアさんを指導していた時の主様は険のある表情がとれてとても楽しそうでした。 ……少し、彼女に妬いちゃいました。」
「……そうか? 気付かなかったな。」
そういって少しばかり顔を紅くするお兄様。
「照れてるんですか? 主様?」
「夕日の所為でそうみえるだけだっての。」
「そうですね……そろそろ帰りましょうか…」
そう言って城内の客室へと歩いていくお兄様……
前世では世界の為に、私の為に命を賭して戦ったお兄様。
今世では自分にも他人にも厳しくなり、目つきが鋭くなるまで自身の現状を周囲を嫌い…憎み孤独な戦いに身を置き、自身を高める事を極め、次第に孤立していったお兄様…
そんなささくれだったお兄様の心を……お兄様の指導を信じて弱音を吐かず、健気に尽くしたことで癒し、救ってくれたのだ。
自分の生き方を証明したくて、他に自身と似た境遇の絶望の淵にたった若者を育て、勝たせたいという考えを持って教師の道を選び、アリシアさんに自分の過去を重ね、そしてお兄様は救われ、報われたんです。
「なんだナミ? そんなにやにやした表情して…」
「なんでもありません♪ そうだアキラさんって妹弟子はいても、自分のお弟子さんは持っていませんでしたよね? クラリスさんはどっちかと言うと教え子といった感じですし、アリシアさんが一番弟子になるんでしょうか?」
「あ~ そうなるかな。」
「フフフ、未来の魔王軍の幹部育成は順調ですね❤ アリシアさんを指揮官に、ガコライさんを突撃隊長にしてアニさんを魔法部隊長に……四天王には、あともう一人必要ですね。 誰にしましょうか?」
「そういう笑えない冗談は禁止だ…だけど、彼女なら自身の力に驕ることは無いし、俺がいなくなってもガリアを守れる立派な人物になれるだろうな。」
そういって遠い故郷を思い出しているだろうお兄様……
前世でも、テラで過ごした今世の半生もあまりいい思い出の無かったお兄様…
あの話の続き……
強くなりすぎた故に勝利の後に残ったのは孤独感と疎外感。
そのあとの結末は何処の世界の英雄と同じ末路。
魔物を倒した英雄は人間の手によって滅ぼされる。
ル―ル改正という卑劣な手段でお兄様の今までの努力を否定しようと躍起になった敗北者達。
そのあとの事は多くは語られませんでしたが、教師の道を進んだことが答えでしょう。
だからアリシアさん。
お兄様の心を救ってくれてありがとう。
「何してんだ ナミ? 置いていくぞ?」
「淑女を置いてけぼりにするなんて行けない主様ですね♪ いま行きま~す。」
どうか、今世ではこの世界ではお兄様が幸せでありますように。
ナミside end
修行というよりアキラの半生…過去編になってしまいました。
アキラはルールを変えてしまうほどの怪物になったというより反則王並みのルール上にのっとた戦術、戦法、奇策をとって勝ち続けました。




