会議
勇者の監視員、セイラが可愛がっていた後輩のテレサは忌名の為、普段はテレーゼ、二号と呼称されれいます。
ロマリア 総本山
今回の暗殺失敗にロマリアには聖堂騎士団長の青年、【クリストファー】、異端審問局長の妙齢の女性の【サラサ】、十字教の宗主【ウィリアム】の三つの派閥のトップと皇女【ヴィクトリア】後ろには盾の騎士にして異端審問官第二位の銀髪の人工聖女【タバサ】が控え、他にも司祭、神官長などロマリアの幹部が円卓の会議場に集まり、頭を悩ませていた。
「第一位は死亡、聖躯布を奪われ…第四位は重傷かこれはあの魔王の転生体の暗殺は事実上不可能と見るべきか。」
異端審問局長のサラサが今回の結果に頭を抱える。
人形師に敗れた第四位のアトラスは自分の実力に少々過信の気があったのが偶に傷だったがそれでもこの世界に来て、一年強しか戦闘経験の無い、七英雄に遅れを取る筈が無いというのが教会の総意であり、第一位に至っては過去の聖人の複製だ。 異端審問官の中でも戦闘能力だけ考えればトップ2だった二人を人形師と死神は歯牙にもかけなかったのだ。 暗殺という手段は通じないという事がここに立証されてしまったのだ。
本来、【漆黒の死神】アキラは撲殺神父と未熟とは言え、聖女であるその娘の打倒。 聖人クラスの固有スキル【魔改造】を保有しているとい情報があったにも関わらず、今回の上からの暗殺指令を通したのは奇襲、暗殺、戦闘能力に特化した二人ならあるいは……と会議で決まったからだ。
サラサも魔王の転生体で無ければ、戦闘能力だけでなく、文明を発達させる聖人級スキル保有者のアキラを聖人として引き入れたかったのだが、彼女の立場と信仰心がそれを阻んでしまったのだ。
その為に、部下二人は、敗北、内一名は力の殆どを奪われ、一位に至っては見るも無残な姿になって帰って来たのだ。
「第二位、第三位は健在だが、暗殺という手段は異端審問官の長としてこれ以上、容認できません。」
その意見に誰も反対など出来なかった。
異端審問局長以外は、勝てはしなくても七英雄のひとりを打ち取れるか、最低でも腕の一本でも奪う位、最終手段として自爆させて一網打尽にできる心算だったのだが、それさえさせない徹底ぶりに死神の恐ろしさに震えた。
腐っても神の信者である彼らも神の怒りを買った者がどうなるか理解しているのだ。
神の二つ名を有する 戦女神と死神の七英雄の怒りを買ったのではないかと戦々恐々としていた。
「勇者殿の完成度は如何でしょうか…第三位と暗黒大陸の亜人と、クルト人の魔女も戦力としては相当なものだと聞き及んでいますが?」
神殿騎士の団長がヴィクトリア皇女と異端審問局長に水を向ける。
「今回の件で暴発しないよう諫めています。 特に第一位 セイラ様を慕っていたテレサ…いえ、テレーゼは悲しみよりも怒りが勝っているようですが、七英雄三人相手に勝てるとは思えません。」
聖人にして、ル―の遺伝子を継ぐ皇女、ヴィクトリアは冷静に戦力分析をした結果、勝機は低いとみていた。
七英雄にして最高の聖人認定【勇者】の称号を会得し、聖剣を使いこなすシュウの実力は破格な物で戦女神と互角の力を有するが、彼女の直感が、死神の底しれない強さとは別種の何かを感じていたのだ。
「一騎当千の実力を有する七英雄相手に軍隊を差し向けても被害が増すだけです。 帝国をたった一人で撃退した死神の対軍の戦闘能力の高さは目に見張るものがあります。 七英雄を複数名で当てなければ勝機は薄いでしょう。」
「だが、ブリタニアは非協力的、ポルトガの海賊王と手を組んでも七英雄は二人。 向こうは五人いや最近現れた駆除屋の称号を受け継いだ物を加えれば6人ですぞ……とても勝ち目は…」
「その敵国の七英雄が此方の傘下に入るとしたらどうだ?」
今まで沈黙を保っていた神官を取りまとめる十字教の宗主が口を開く。
「……どういう事ですか?」
「何、味方であるはずの帝国の七英雄、駆除屋と鉄人が此方に加われば丁度戦力は5分になるだろう。その上、我らは神殿騎士の英傑達と聖人、神より授けられた蘇生術がある。ならばこの戦いは我らに分がある。 いや我らの勝利だ。」
宗主の言葉に一同が落ち着きを取り戻し、やがて勝機を見出し、興奮し出す。
その言葉に神殿騎士団長は思索を巡らす。
仮に宗主が言ったことが事実なら戦女神の背後を駆除屋と鉄人が脅かせるだけでいいのだ。
そうすれば、残りの七英雄を各個撃破すれば、いいのだ。 三強の一人さえ封じれば勇者と海賊王、神殿騎士、残りの人工聖人と蘇生術が有れば死神を仕留めることができるのだ。
「それが本当だとしたらこの上ない朗報ですな。」
「何、任せるがいい、この聖戦、我々の勝利だ。」
その言葉を持って会議は円満に終わった。
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皆が去る中、会議場に異端審問局長のサラサとヴィクトリア皇女、護衛のタバサが残った。
三人の聖女、一人は高い精神力を一人は女神の遺伝子を…そしてもう一人はダンジョン・コアによって召喚者の思念波をレジスト出来たロマリアの少数派だった。
「サラサ…この度はつらい思いをさせましたね…セイラさんにご冥福をお祈りします。」
「勿体なきお言葉です。 ですが、その必要は無いかと…恐らくですが第一位、セイラは存命の可能性があります。」
その言葉にヴィクトリアとタバサが歓喜の表情に変わる。
「……セイラさんはご無事なのですか!」
「局長! セイラ隊長が生きておられるのですか!?」
「お静かに…まだ確定事項ではありませんが、可能性は高いかと。死神と呼ばれるアキレウス…いえ、今世ではアキラでしたね。この男は七英雄と魔物には一切容赦の無い男ですが、女子供を手に掛ける輩ではありません。他の七英雄が殺した可能性もありますが、アキラがさせないでしょうし、一号…セイラは本来、優れた治癒術師です。殺すより、取り込もうとするのが得策ですし、私ならそうします。」
「で、ではあの遺体、石像は…」
「向こうは人形師に加え、恐るべき汎用性の高いスキル【魔改造】を保有するアキラがいます。死体を偽装する位、容易いですし、闇の大精霊が加護を掛けるか、仮契約を結べば、奴らの索敵に掛かからないでしょう。」
長きにわたり、ロマリアの影にいたサラサはアキラの思惑を正確にとらえていた。
希望的観測に過ぎないのだが、第二位のテレサと勇者シュウが集めたアキラの人柄、先日露見したアキラの【魔改造】と人形師・田中の存在がセイラの生存の可能性を消せないでいたのだ。
「あと、女の勘です。」
「局長の勘は信用できます。皇女殿下。」
「こうしてはおれません!直ぐにテレーゼに知らせないと!」
「お待ちください。 七英雄と行動を共にしているテレサ…いえ、テレーゼに伝えるのは危険です。アキラも偽装死を装ったのは彼女を救う為、奴らの思惑、聖戦を挫くのが目的の筈です。」
急いでテレーゼに知らせようとするヴィクトリアをサラサがたしなめる。
その言葉に冷静さを取り戻し、再び、席に座るヴィクトリア。
「そう…でしたね。 七英雄が聖戦の駒にされかかっている以上、シュウ殿の監視員である彼女に知らせるのは得策ではありませんが…少々不憫では?」
「命は助かりはしていますが、異端者の烙印、闇の大精霊の洗礼を受けた可能性が高いのです。彼女を神聖視しているテレーゼに伝えては逆上してセイラを殺し兼ねません。私から事実を伏せ、暴発しない様に諫める事に留めます。」
「では、局長。我らはどう動きますか?」
「奴ら…蘇生術を神殿に伝えた者たちが聖戦を起こしたがっている筈です。 それにル―様がいない為に我々の様に精神防壁、精霊因子、賢者の石を持たない者は奴らの操り人形でしょう。 神殿内全てが敵と思って行動し、慎重に内側から切り崩します。 聖戦を遅らせ、時間稼ぎと戦力を削るように動くのです。外側はアキラ殿が崩してくれる筈です。 その為には何とかしてアキラ殿と接触を取らねばなりません。」
十字教という巨大な組織の中で召喚者に抗い、アキラと志を同じくする三人の聖女達がこの日、静かに反撃の狼煙を上げたのだった。
サラサ
異端審問局長 聖女 固有スキル【精神感応】【高速治癒】
ヴィクトリア
皇女 勇者の支援官 聖女 固有スキル 【精霊化】
タバサ
異端審問官 第二位 賢者の石内蔵型人工聖女
固有スキル 【絶対防御】




